第40話 チョロインのハニートラップ




 やばい、やばい、やばい×10。


 ドキドキとそわそわが収まらない。


 誰かにウザがれても、今の俺はとにかくやばいんだ。


 何故なら17年の歴史の中で、生まれて初めて女の子からラブレターって代物を貰ってしまったからだ。


 小学生の頃一度貰ったことがあるが、悪友達の悪戯だったトラウマがある。

 あん時は流石の温厚のサキ君も、怒り狂って悪友達を追いかけ回したもんだ……。


 だが今回はガチだと思う。


 文章を見たらわかる。


 しかも名前や学年とか、クラスも詳しく書いているじゃん。



 ……軍侍ぐんじ 路美ろみちゃんか。



 やべぇ、名前めちゃ可愛いんだけど。

 

 なになに……放課後、体育館倉庫へ来てくださいってか?


 俺の返事を聞かせて欲しいらしい。


 でも、この子は知ってても、俺はまるっきり知らない子だしなぁ。

 いきなりどうこう言えるわけねーし、ちゃんとした返事できるわけねぇじゃん。


 けど、嬉しくね? だって「恋文」と書いてラブレターって読むんだよ~ん!

 めっちゃピュアな予感するじゃ~ん!


 俺はラブレターを受け取った後、男子トイレに籠ってこっそりと内容を確認する。

 その内容に心が躍って舞い上がってしまっていた。


 スマホでLINEやメールばかりでやり取りする世の中で、手紙を貰うのって凄いインパクトがあると思った。


 その気がないのに、なんか妙にテンションが上がる。

 だって手紙には「以前から先輩のことが気になって、ずっと好きでした」って書いているんだぜ。


 意味もなく、シャドウ・ボクシングしたくなるぅ!


 ――でも、どうしょう?


 リョウの奴に手紙貰ったのは知られているが内容まではわからない。

 あれから何も言ってこないし、詩音にも知られていない。


 俺もあえて言わないっていうか……言っても仕方ないっていうか。


 結局、俺の問題だと思うから。


 せっかく思いを込めて書かれた手紙でし、どうするかは会ってから決めてもいいかもなぁ。


 ――いや、もう答えは出ている。


 どの道、会って俺の気持ちは答えないといけないと思った。


 誠意には誠意で答える。


 それが俺のやり方だからな。






 放課後。



 リョウと別れた俺は、手紙で指定された場所へ向かった。


 体育館倉庫だ。


 話だけなら屋上か、裏校舎が定番だと勝手に思っていたがな。

 まぁ、人気がないっていう点じゃ共通しているのだろう。



 俺は両開き扉の前に来た。


 ここはいつも鍵が開いている。


 扉を開けると、一人の女子生徒が立っていた。

 ツインテールの女子。小柄だがスタイルは良いほうだと思う。

 この子が、軍侍 路美ちゃんか?


 よく見ると小顔で結構可愛いなぁ……。



「……先輩、扉を閉めてもらっていいですか?」


「ああ、ごめん」


 あれ? 俺、何謝っているんだろう?

 促されるまま、俺は両開きの扉を閉める。


 軍侍は近づき、片方の扉にポールを当て外側から開けられないよう固定させた。


「どうして開けられないようにするんだ?」


「だって……これから大事な話をするのに誰かに入られたら嫌じゃないですか?」


 そりゃそうだ。その為の二人っきりか……。


「んで、軍侍さんだっけ? 手紙だと、俺の返答が聞きたいんっだっけ?」


「路美と呼んでください……。まず、私の気持ちを直接言ってもいいですか?」


「え? ああ、いいよ」


 俺は反射的に生唾を飲み込んでしまう。


 すると彼女は俺と向き合い、じっと顔を見つけてきた。


「あのぅ、わ、私、神西先輩が好きです! ずっと好きでした! だからお付き合いしたいんです!」


 路美は大きな瞳を潤ませ、俺に向けてストレートに気持ちをぶつけてくれる。


 初めての告白。正直、超嬉しい。

 思わず、こっちまで胸が高鳴ってしまう……。


 でも――。


「ご、ごめん……俺、まだ誰かと付き合うとか、そういうの無しだと思っているから……」


「どうして? だって先輩、三美神の人達と……」


「え?」


「い、いえ、なんでも……」


 路美は気まずそうに瞳を背ける。


 俺は何を言いたいのかすぐに察した。


「ああ、俺の噂聞いてんの?」


「はい……いえ、そのぅ」


 路美は言葉を詰まらせる。


 まぁ、一部から『勇者から幼馴染を寝取った男』って言われているらしいからな。

 表面上だけみりゃ、そう思われてもしかたない。


 俺も覚悟した上で、愛紗達と友達になったんだ。


 だけど、この路美って子はそんな風評があるにも関わらず、こうして向き合って想いを伝えてくれている。


 少なくても俺はそれに応えなければならない。


「大きな誤解だけどね……彼女達とは親身にしてくれる、とても大切な友達だよ」


「友達ですか?」


「うん、そうだね……今はね」


 いずれは、はっきりさせなければならない。


 ――でも、今じゃない。


 俺が彼女達に想ってもらうのに相応しい男に成長してから……。


「私のこと、どう思います?」


「え? どうって可愛い子だなって思うよ?」


「好きになってもらえませんか?」


「……路美ちゃんの気持ちは伝わったよ。でも、今時点で俺から好きは可笑しいだろ? 俺は今、初めてキミを知ったわけだし」


「わかってます……でもぉ」


 ふと、路美は俺の胸に飛び込んできた。

 ぎゅっと細い腕が力強く背中まで通ってハグされる。


「ほわぁいっ!?」


「――好きです! 私、神西先輩が大好きなんです!」


「ちょっ、まっ――」


 俺は両腕を上げ、反射的にバンザイしてしまった。


 確か下手に肩を掴んだりしたら、セクハラになるんだっけ?

 いや、でも向こうから抱き着いてきたわけだし……。


 けど初めて女の子に抱き着かれて、小柄なのに凄げぇ柔らかくて気持ちいい感触、そして優しい温もりと香り。


 やばい……吐息が胸元から首元に流れていく。


 いっ、いかーん!


 こりゃすぐ回避を試みないと――マジでやばい!


「路美ちゃん、離れてくれぇ! 学校内だし、こういうのは困るよ!」


「どうして? じゃ、学校外ならいいんですか?」


「んーっ、そうだね……じゃねぇよ! そういう問題じゃないでしょ!? いいから離れてくれよぉ!」


 俺は彼女に一切触らず、体を捻り回転させる。


 腕の力が緩んだのを見計らい回転しながらハグを解きなんとか逃れた。


 そのまま路美との距離を置き、俺は跳び箱の裏に身を潜める。



「先輩ッ!?」


「ごめん! でも駄目なんだ!」


「そんな逃げるほど、私に魅力がありませんか!?」


「違う! そうじゃない! こういうのは、お互いの気持ちでするものだろ!? 俺はまだ路美ちゃんを知らないんだ!」


「うーっ……!」


 路美は頬を膨らませ、唸り声を出している。

 歯に着せない俺への態度への苛立ちだろうか?

 珍しく結構、はっきり言っているつもりなんだけどなぁ。



 路美は固定していた扉のストッパーを外す。


 そして何故かブラウスのボタンを外し、いきなり制服を脱ごうとし始めた。


「ろ、路美ちゃん、何してんの!? やめろよぉっ!?」


 俺は身を乗り出して、彼女の行動を止めようとする。


「来ないでぇ、大声出しますよ! 神西先輩には弱味を握ってもらわなければいけないんです!」


「よ、弱味? どゆこと?」


 路美は一変し強い口調で訴えてくる。

 俺は首を傾げた。


「――だってぇ、神西先輩を野放しにしていたら、翔くんがぁ! 翔くんが危険な目に合うんだもん!」


 この子、今、なんっつた?


 翔くんだと?


 それって確か、王田の幼馴染……。


「……まさか一年の『間藤 翔』のこと言っているのか?」


「そうです! 神西先輩、火野先輩と組んで内島先輩に酷いことしたんでしょ!? そして今度は翔くんにも……このままじゃ、安心して私と付き合ってくれないって――」


 なんだって!?

 俺とリョウが内島に酷いことしただと!?


 だから、この子は間藤と付き合うために、こんな真似を――。


 まさか……そういうこと?


 ――これ、ハニートラップですわ。


 間藤 翔が、この子を差し向けて俺に仕掛けた罠ですわ。


 なんだよ……ガチ告白じゃねぇじゃん。


「……はぁ、ったく」


 俺は深い溜息を吐いた。


 だけど、ハメられかけたとはいえ、不思議にそんなにムカついていない。


 いや、寧ろ……。







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