第39話 魔道師の赦せない奴
~軍侍 路美side
私は大好きな翔くんにお願いされ、一年の間でも『寝取りの神西』っと仇名で呼ばれる、神西 幸之って先輩を誘惑することにした。
っと言っても、どう誘惑するかわからない。
昨日、初めて翔くんと手を握った程度の私がどうすればいいの?
あの後、喫茶店での打ち合わせにて。
「――路美、お前はまず指示した通り手紙を書いてくれ。俺が上手く神西先輩の下駄箱に入れる。それで指定した時間と場所で待機だ。あとは手筈通りにやってくれりゃいい……」
「でも、そんなこと私にできるかな……私、初めては翔くんって決めているんだよ?」
「バカ、フリでいいって言っているだろうが。それっぽく見せるだけでいいんだ。俺がこっそりと写メを撮れば、それで奴の弱味を握れる。自分の身も護ることができるから」
「……フリでいいのね? でも万一、襲われたり暴力振られたら……」
「そん時は俺が大声を上げて助けに行ってやる。身を挺してもお前を守るよ(嘘)」
「うん、わかったぁ……信じているよ、翔くん」
私は素直に翔くんの言葉が嬉しかった。
上手くいけば、彼も安心できて晴れて私と付き合ってくれるんだ。
そして今日の放課後、私は体育館倉庫へと向かった。
~間藤 翔side
チョロインの路美がようやく引き受けてくれた。
単細胞の癖に時折鋭い直感を働かせるから困った女だ。
まぁ、俺の甘くトロトロ美少年フェイスとヌクメン対応があれば多少ボロが出ようと、このタイプの女なんてイチコロさ。
例えば「翔くんの塩対応に、ますます好きになりました~♡」って感じだろうぜ。
逆にキモオタが同じことをしたら、速攻で殴りに行くだろうけどな(笑)
……だから女なんて利用するのに都合がいい。
俺にとって東雲先輩以外はどうでもいいんだ。
その彼女も、ひょっとしたら手に入るかもしれない。
東雲先輩の笑顔、大きい胸や温もりの全てが俺のモノになる……。
そう思うだけでテンションが上がって行く。
「――神西先輩……あんたに怨みはねぇが自滅してもらうぜ」
路美には言わなかったが、俺の『真の作戦』はそこにあるんだ。
神西に色仕掛けで迫る路美を襲わせる――。
路美はまだ処女だ。
どうせ途中で怖くなってびびるに決まっている。
そんな中、急に掌返しても、男なんて止まれるわけがねぇ。
導火線に火を付けたら、もう爆発するしかないんだ。
そこが俺の狙い。
仮に神西が賢者ぶりを見せても、もう遅い。
何故ならトラップ現場に、ゲスト達を呼び寄せるからだ。
――三美神の彼女達。
俺があの人達を上手く誘導して体育館倉庫へ連れていく。
幸い東雲先輩と南野先輩は、ユウ兄ぃの身近にいる人達。
ユウ兄ぃにもなんらかの協力が貰える筈だ。
昨日、LINEで作戦を伝えているからな。問題ないだろう。
神西のことで二人が動けば、必ず北条先輩もついていくのは必須。
そこで現場に鉢合わせれば――神西の彼女達への信頼は失墜し、自動的に自滅するって寸法だ。
あとはユウ兄ぃが、神西を退学なり転校なりさせて適当に処分してくれるだろう。
遊井 勇哉の時のように――。
翌日の朝。
路美から指示して書かせた手紙こと『ラブレター』を預かる。
俺は速攻で学校へ行き、神西の下駄箱に手紙を入れた。
ベタだがこれって案外、男心をくすぐるんだよな。
んで、隠れながら奴が来るのを見張る。
数分後、神西が登校してきた。
やっぱり火野と一緒につるんでいる。
神西は下駄箱を開けると、手紙を発見し手に取った。
「おい、サキ……お前、それ?」
「ああ、手紙みたいだ……誰だ?
しれっと言う神西。
だが手元がやたら震えて脂汗を掻いている。
神西は「別に対したことねぇよ」と言わんばかりに開封しないで大事そうに鞄にしまい込んだ。
本当はどんな手紙かわかっている癖に友達の前だから、喜ぶに喜べないってか?
カッコつけやがって……こいつ絶対に
だが火野の前で開封しなかったのはありがたい。
変に詮索されても厄介だからな。
まぁ、架空の女子でもないし、風瀬とも同じクラスの奴だ。
風瀬とて、まさか路美がハニートラップを仕掛けようとしていることまでは察知できないだろうぜ。
ヤンキーの間じゃ、『情報屋の傭兵』とか呼ばれているらしいが、女子達の事情まで把握できるとは思えない。
俺も学校内じゃ、路美とはLINE以外やり取りしないようにしているんだ。
今回のように万一に備え都合よく使ってやるためだ。
とりあえず、これで第一
放課後、路美は動く。
予定通り、体育館倉庫へと向かう。
俺も動き、生徒会室へと向かった。
ユウ兄ぃに会う振りして、東雲先輩に情報を流す。
そうすりゃ血相変えて飛び出す筈だ。
そんで現場を目撃され、はい終了。
神西先輩~、アウト~!
ってな感じだ。
もう、俺って完璧じゃね?
生徒会室の扉前にて。
俺はノックして扉を開ける。
「ユウ兄ぃ、ちょっと相談があるんだけど……」
俺とユウ兄ぃが幼馴染なのは学校の誰もが知ってることだ。
だから時折、こうして勉強を聞くふりして顔を出している。
一番の目的は……。
「あら、間藤君。今日も来たのね、相変わらず勉強熱心ね」
そう、この人に会うためだ。
「東雲生徒会長、いつもご迷惑おかけしてすみません」
「構わないわ。王田君と幼馴染なんでしょ? 私も気持ちがわかるから……」
東雲先輩は柔らかく微笑んでくれる。
俺の大好きな笑顔……本当、母さんとそっくりだ。
「――でも生徒会長、ショウの様子が少し可笑しいようですね? どうしました?」
副会長のユウ兄ぃは、しれっと訊いてきた。
よく見ると、その隣に何故か南野先輩がいる。
彼女はテキパキと書類整理している。
ユウ兄ぃがクラスメイトの彼女に急用のヘルプを頼んだのだろうか?
南野先輩は綺麗で可愛いいだけじゃない。
性格も天使だからな。
困った人は見過ごせないタイプだ。
まぁ、これも、ユウ兄ぃがセッティングした作戦なんだろう。
「実は勉強じゃなくて、ユウ兄ぃに相談したい話があって……」
「僕に相談かい? どんな?」
「王田君、少し席を外すわね。行きましょ、愛紗」
東雲先輩は気を利かせて席を立とうとする。
「いえ、生徒会長にも聞いてほしいんです。それと南野先輩にも……」
「わたしと麗花も? どうして?」
「多分、お知り合いの人に関係していると思うから……神西先輩」
「「え?」」
俺の言葉に、二人は目を見開き硬直する。
南野先輩はよしとして、東雲先輩の反応にイラっとする感情が芽生える。
やっぱり、神西は潰す――この決定事項に変わりない。
ユウ兄ぃの依頼は二の次だ。
個人的に奴をぶっ潰してやるぜ!
「……実は俺のクラスメイトで仲良くしている友達の『軍侍 路美』って女子生徒がいまして。以前から、神西先輩が好きだったみたいなんです」
「「えっ!?」」
東雲先輩と南野先輩は声を揃えて驚く。
その反応が余計に俺の心に迷いを無くす。
神西に東雲先輩は渡さない!
「それで今日、ラブレターを下駄箱に入れて、どっかで告白するらしいんですけど……なんか心配で、さっきから連絡もつかないし……俺もLINEで以前から相談受けてたし、間違いがなければなって思って……」
「ショウ、間違いってなんだい?」
ユウ兄ぃは知っている癖に訊いて来る。
もう、こいつが一番の助演男優賞決定だわ(笑)。
「学校内での不純異性交遊って、確かどちらも退学ですよね?」
「……そうだねぇ」
ユウ兄ぃめ。
よくもまぁ、涼しい顔で何が「そうだねぇ」だ。
お前なんて誰もいない生徒会室でセフレ連れ込んで、しょっちゅうやってんじゃねぇか!?
俺、知ってるんだからな!
「――サキくんに限ってそれはないよ!」
「そうね……サ、サキ君に限ってね。そ、それに気持ちを打ち明けること自体は、べ、別に自由でいいんじゃない?」
はっきり否定する南野先輩に、余裕見せながらも明らかに動揺する東雲先輩。
彼女達の反応で俺だけじゃなく、ユウ兄ぃまで眉毛をピクつかせてキレかかっている。
こりゃ、神西も退学じゃすまねーな。
速攻で国外追放刑だぜ(ざまぁ!)。
結果、路美も退学になっちまうが……まぁ、いっか。
所詮、便利女ストックが一つなくなる程度だ。
「……僕も神西君は別として、一年の女子の軍侍さんでしたっけ? その子が積極的にアプローチでもしてきたら、彼とて抑えが効かないんじゃないか?」
「王田くん!?」
「南野さん、あくまで
「そ、そうね……ち、ちょっと、さ、さ、探してみようかしら……サキ君は大切なお友達だしねぇ、愛紗……し、詩音にも声を掛けておきましょう」
東雲先輩は立ち上がり、ふらふら歩きだした。
テーブルの角に、ゴンっと脛を強打するも、痛みすら忘れ彷徨っている。
この人、ショックの余りに壊れ掛けてポンコツ化しているんだ。
神西なんかのために、あの東雲先輩がここまで取り乱すなんて……。
だから余計に赦せねぇ……あいつだけは――!
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