第38話 魔道師とチョロイン




 ~軍侍 路美side



 私は、軍侍ぐんじ 路美ろみ、16歳。

 高校一年生よ。


 授業も終わり、イケメンの間藤 翔くんに呼ばれているんだぁ。


 イケメンと言っても、間藤くんはカッコイイとかじゃなくてカワイイ系かな。

 また甘えるようなヌクメン(温もりで包む男子)でもあるわね。


 そんな彼だから年上から同年代の女子まで人気があって色んな女子からアプローチを受けているの。

 

 私もその一人よ。


 たまにデートしてくれる程度で、ほとんど相手にされてないけどね。


 そんな彼が今日、学校休んだにも関わらず、お昼休みに私に連絡して来たから凄くびっくりしちゃった。


 誰にも見つからないように指定された喫茶店に来てくれと言われ、人目を気にしながら辿り着いたんだけど。


 一体、なんの用事かなぁ?






 ~間藤 翔side



 やっと来たわ、この女。


 イコール、誰にも見つからないように注意してきたってことだな。


 俺は手を上げ、『軍侍 路美』を向かい側の席に座らせる。



 この女は、前から俺に好意を持ち、他の女子と一緒に集団告白してきた奴だ。


 年上好きの俺としては同年代とは滅多に付き合うことはない。


 ましてや年下は論外だ。

 俺も童顔だし子供が子供と歩いていると思われてイラっとするからな。



 したがって告白してきた同級生女には、愛想だけ振って軽く断った。


 だがその中で、路美は一際可愛かったので、後でこっそりLINEを交換して時折こうしてデートしてやっているってわけだ。


 上手く調教すりゃ、俺好みの女になりそうだからな。


 っと言っても、手すら握ったことはねーけど。

 やっぱり年上じゃないと燃えない。


 路美もどちらかと言えば幼く見えて童顔の方だ。

 ツインテールがとても似合っており、小顔で瞳が大きく綺麗な二重。鼻梁と唇も小さく整っている。

 背が低いが、胸は割とある方だと思う。


 おっぱい星人の俺の判定では、まずまずの合格ラインだ。

 はっきり言って、それで傍に置いている所もある。



「路美、誰にも見つからなかったか? 特に、風瀬とか?」


「うん、あいつホームルームが終わって、すぐに二年の教室へ向かって向かったよ。慕っている先輩がいるって言ったから、きっとそこじゃない?」


 あの情報屋がそこまでいう先輩は、神西と火野だな?

 だから俺は今日学校をフケたんだ。


 きっと、ケン兄ぃの件で話題となり、奴らは集まるだろうと踏んで。

 そうすりゃ隙を作れて、こうして路美を直接呼び出して会えると思ったんだ。


 LINEや電話じゃなく、顔を合わせてお願いしないと受けてくれないと思ったからな。


 俺にベタ惚れのこの女とて、今から頼む内容を聞いてくれるかわからない。

 ましてや痕跡や証拠が残ってもヤバイ内容だ。



「それで、翔くん。どうして今日、学校休んだの? 元気そうだけど……」


「ああ、幼馴染の見舞いに行ってたんだ。知っているだろ? 昨日、大怪我して入院したって話」


「うん、サッカー部の内島先輩だよね? そっかーっ、大変だったよね」


 本当は見舞いなんて行ってねぇけどな……。

 そんなことしたら、ユウ兄ぃに変に詮索されちまいそうだ。


 俺が生き残る方法は、ただ一つ。



 ――神西の排除だけなんだ。



「それで私に何の用事? やっと本格的に付き合ってくれるの?」


「ああ、そうだ」


「やったぁ♡」


 無邪気に喜ぶ、路美。

 ここまではチョロい女だ。


「但し条件がある」


「条件ってなぁに?」


「その前に会話とか録音してねぇだろうな……スマホを出してテーブルに置け。画面を上に向けて見せろよ」


「どうしてよ?」


「念のためだ。今の時代、それで簡単に足を掬われちまう」


「うん……わかったぁ」


 路美は言う通りに、スマホをテーブルに置いた。


 俺はきょろきょろと周囲を確認する。


「よし、いいだろう――実はある先輩を誘惑してほしい」


「え?」


「だから、ハニートラップだ。呼び出して校内で誘惑してほしいんだ。場所と時間は俺が指定する」


 そう説明した瞬間、路美は目を細めて、じぃーっと見て来た。


「……翔くん、何考えているの?」


「ちょっと、その先輩とトラブルがあってね……正直に言うと、その先輩と友達に狙われているかもしれないんだ」


「狙われている? 翔くんが?」


「ああ。その友達って奴が、火野っていう上級生だ……名前くらい聞いたことあるだろ?」


「う、うん……複数の上級生をやっつけるくらい、とっても強くておっかない先輩だと聞いた」


「その火野って先輩、俺の幼馴染とも昔やり合ってさぁ。昨日も授業で偶然に鉢合わせして、トラブったらしいんだ……その後のあの大怪我だろ?」


「嘘……まさか」


「確信はねーよ。でも俺は、火野ともう一人の先輩が、ケン兄ぃに大怪我させたと思っているんだ」


「そ、それで翔くん、学校を休んだの? 自分も標的にされるかもしれないと思って……」


 おっ? 路美の奴、都合のいい解釈をしてくれたぞ。

 これだから、チョロインは騙しやすい。


「ああ……そうだ。まだ俺が狙われているとは限らない……けどよぉ、俺と険悪の風瀬もグルになっているみたいでさぁ。俺、貧弱だろ? 腕力じゃ絶対に太刀打ちできない……だから自分の身を守れる武器が欲しいんだ」


「言いたいことはわかったよ……でも、それと私が誘惑するのとどう関係するの?」


「その先輩がグループの中心になっているみたいだからさぁ。まず、その人の弱みを握りたい……その先輩なぁ、同じ学校で付き合っている彼女が三人もいるみたいなんだよ」


「え!? さ、三人も!? 何それ、最悪の浮気男じゃない!?」


「違う違う。みんな割り切った上での付き合いらしい……まぁ、ハーレムってやつか?」


「どっちにしても信じられない……」


 ふん、エセ潔癖女が。

 たったの三人じゃん。俺なんて、その十倍以上はいるぞ。

 ユウ兄ぃなんてセフレだけでも三桁だぜ。絶倫かよ……。


 女なんてみんな、結局男を顔か金でしか見てない。

 こいつだってそうだ。

 だから集団で告白なんてぬるいこと平気でしてくるんだ。


 なら俺はそんな女共を利用してやるよ。

 この甘いマスクと言葉を使ってな……。


「路美、お前……『三美神』って知っているか?」


「勿論、知ってるよ。二年のカースト上位の女子達だよね? 東雲生徒会長もその一人と呼ばれているとか?」


「……その三美神を付き合っている先輩に、俺は狙われているかもしれないんだよ」


「でも、その先輩達はどうして翔くんを狙うの? 昔、内島先輩とは何かあったとして翔くんにまで矛先を向ける理由がわからないよ」


 いちいち面倒くせぇ、チョロインだな。

 大人しく素直に言うこと聞いとけや。


「まだ狙われているかわからないって言ったろ? お、俺……怖いんだ。幼馴染のケン兄ぃの姿見たら……あれ、絶対に階段から落ちたとかじゃねーよ。そう考えたら理由なんてない、見境のない連中なのかもしれない……ううう」


 俺は体を震わせ、瞳を潤ませる。

 必殺、「ヌクメン・あざといアタック」を披露した。


 大体のバカ女はこれでイチコロだぜ。


「……翔くん」


「なぁ、路美……頼むよぉ……俺を助けてくれよぉ……このままじゃ、俺ぇ、お前と付き合えねぇよぉ……」


 仕込んだ目薬で涙を流し、か弱い小動物を演じる。

 俺、案外俳優になれるかもなぁ。


「もう泣かないで……わかったよ。協力するよ……翔くんのためだもん」


「……路美ぃ、ありがとう……ごめんなぁ」


 やっとその気になりやがって、このチョロインが。


 まぁ、約束通り適当に付き合って1カ月くらいで「やっぱりムリムリムリ」ってゴリ押しして別れてやるわ。

 面倒くさそうだから、こいつとのエッチはなしだ。

 その方が別れる際、後腐れもねぇだろ。


 俺ってやっぱ、年上でないと燃えないし。



 それに……。



 上手く神西を排除できれば、ユウ兄ぃから褒美が貰える筈だ。



 ――東雲 麗花先輩。



 高貴すぎて絶対に手が届かないと思っていた、あの人とガチで付き合えるかもしれない。

 あの母さんと同じ笑顔を俺のモノにできるかもしれない。


 ならこれは、最大のチャンスでもあるんだ――。


 俺は演技しながら色々な思惑を抱く。



 そんな中、ふと路美が手を握って来た。


「ねぇ、翔くん……その先輩の名前、教えてくれる?」


「ん? ああ、そうだな……神西 幸之って言うんだ。聞いたことあるだろ? 勇者と呼ばれた、あの遊井先輩から三美神を奪ったっていう『寝取りの神西』っていうヤバイ先輩だよ」


「……神西。うん、聞いたことあるよ。わかったぁ。私、頑張ってみるよ」


 こうしてチョロインの軍侍 路美を伏兵として仲間に加えた。



 俺は生き残る……そして、東雲先輩をお前から奪ってやる。



 待ってろよ、神西。






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