第37話 魔道師の思惑

※間藤 翔→マドウシ→魔道師で文字ってます。




 次の日、学校中が騒然となる。


 サッカー部のエースであり今年度の英雄ヒーローである『内島 健斗』が、あれから大怪我して入院となったからだ。


 なんでも裏校舎の非常用階段で悪ふざけをして階段から転げ落ちたとか?




「……嘘だろ?」


 放課後、学校の屋上にて。



 後輩で情報屋の『風瀬 燿平』から聞いた俺は真っ先に疑った。


 昨日の今日だからな。


 あの内島がそんな子供じみた事故を起こすわけがない。

 しかもプロから声が掛かるほどの大事な体だ。


「……おそらく王田の仕業っす。きっと、サキさんに負けたからヤキ入れられたんっすよ」


「そいつは違うな……きっと王田と縁を切るのにボコられたと思うぜ」


 リョウが憶測を立てる。


「んで、内島の怪我はどんな具合なんだ?」


「う~ん、命には別状ないんっすけど、しばらく絶対安静みたいっす。意識もあるみたいだし、両足も無事みたいだから回復すりゃ、また前みたいにサッカーできるんじゃないっすか?」


「……そうか。そこだけは唯一良かったかもな」


 どちらにせよ、今は療養が優先だろう。

 せっかくプロから声が掛かっている大事な時期に可哀想だけどな。


「んで、耀平。王田に何か動きはあるのか?」


「ええ、火野さん。本人は相変わらずしれっとしてるっすよ……それより、俺と同じクラスの間藤が学校に来てないっす」


「間藤? もう一人の幼馴染か?」


「そうっす。まぁ、あいつは『戦闘力ゼロ』の雑魚っすから、喧嘩経験のないサキさんでも余裕でボコれるっすよ」


「だがヒモ系なんだろ?」


「あくまで、それだけっすよ」


「けど、女使ってそいつの怖い野郎友達とけしかけてくるかもしれねぇな……サキ、その辺に注意したほうがいいかもな」


「うん、でも俺、逃げ足だけは速いからな」


「まぁ、火野さんの名前出せば、少なくても同年代のヤンキーはびびって手を出さないっすよ~」


「ちがいねぇかぁ、ハハハハハッ!」


 こいつら笑えねぇ……。


 間藤 翔だっけ?


 俺に何か仕掛けてくる分には構わない。

 

 受けて立ってやるだけだからな。


 しかし俺が一番心配しているのは……。


 愛紗。


 王田 勇星にとって初恋の相手であり、今じゃ同じクラスらしいからな。


 内島の件もあるし、いっそ彼女に打ち明けた方がいいだろうか?


 麗花だって奴と同じ生徒会だし、その間藤に好かれているんだよな……。



「――サキ、何考えている?」


「え、いやぁ……別に」


 リョウに問い質され言葉を濁してしまう。


「まさか、王田の件を愛紗ちゃん達に言うべきか迷っているのか?」


「……ああ、そうした方がいいのかなって」


「俺はやめておいた方がいいと思うぜ。サキみたいに狙われているんならともかく、想われているっていうなら、まだ身の危険は少ないんじゃねぇか?」


「でも、想い余るってこともあるだろうし……」


「それは、王田がガチで余裕がなくなってきた場合だと思うぜ。俺が奴なら、まず手駒を差し向けて様子を伺いながら、自分が出るべきか見計らうって感じかな」


「手駒……間藤か?」


「ああ、そうだ。必然的に麗花さんも絡むかもしれねぇ……まぁ、あの人は隙がないから問題ねぇと思うけどな」


 リョウは何かと麗花を買っているところがある。

 なんでも「女で唯一敵に回したくない」と耳打ちしていた。


「……だから、まだ愛紗ちゃんには普段通りに過ごしてもらった方がいいんじゃないか?」


「ああ、そうだな……まだ相手の出方を見るべきだよな」


「案外、こっちで間藤を探し出して、先手必勝でボコるって戦法もあるっすよ。まぁ、あんな奴は直接手を出さなくても、ちょっと脅しかければチョロいっす」


「それもありだな。そこは俺と耀平に任せてくれ」


「うん、ありがとう……」


 一応、礼は言って見るものの、どこか腑に落ちない俺がいる。


 王田とは自分の手で決着つけなければならない。


 もう遊井の時みたいに逃げて助けてもらうとかの状態じゃないような気がしてくる。


 自分だけのことなら、いくらでも逃げてしまえばいい……。


 けど、愛紗、麗華、詩音……俺にとって大切な三人を傷つけるのであれば話が変わる。


 もし、彼女達に手を出そうとするのであれば――。


 直接対決しても、俺が必ず阻止してみせる。






 ~間藤 翔side



 俺は今、相当追い込まれている。


 ――ユウ兄ぃだ。


 まさか、ケン兄ぃを入院させるまでボコると思わなかった。

 一瞬、ガチでヤッちまったと思ったけど……。


 そのユウ兄ぃは俺にこう言ったんだ。



 ――神西を仕留めるために動け。

 


 じゃないと、今度は俺が同じ目に合わされちまう。


 怖ぇ……。


 ユウ兄ぃが怖ぇよぉ。

 

 昔からそうだった……。



 あいつは俺を餌に、女子を釣っては自分で食っちまう。


 草食系男子みたいな涼しい顔をしているが、内面じゃとんだ肉食獣さ。

 きっとセフレの七割以上は俺がナンパして引き合わせた女達だろうぜ。

 

 まぁ俺のルックスに釣られて、金でセフレになる女にも問題はある。

 そこは、一切同情しない。


 そもそも例のヤクザの人妻だって、ユウ兄ぃが遊び半分で出会い系サイトで引っ掛けた女だ。

 俺は言われるがまま会って、「可愛い」って感じで向こうがその気になったから、流れで関係に至ったまでのこと。


 ヤクザの人妻だって知ってりゃ、好き好んで手なんか出さねぇっての。


 俺は年上が好きだ。


 何故ならマザコンだからだ。

 それに、おっぱい星人でもある。


 って言っても、母さんは幼い頃に親父の暴力がきっかけで蒸発しちまったがな。

 けど優しくて包容力があって大好きだった。


 だからだろうな……。


 俺が東雲 麗花先輩に憧れを抱いているのは……。


 え? 母性を求めるのは、南野先輩だろって?


 まぁ、悪くないな。

 しかし、ユウ兄ぃが目を付けている人だからな。

 射程外にしておかないと、それこそ命がいくらあっても足りないってもんだ。



 それに、東雲先輩は胸が大きい。


 これはマザコン&おっぱい星人には重要なポイントだ。

 

 さらにモデルみたいに、すらりと高い身長。長い手足、高校生とは思えない抜群のスタイル。

 そしてクールで凛とした厳しく高貴な雰囲気、けど喋っていると案外優しかったりする。そのギャップが堪らない。


 しかも笑うと、俺の母さんにそっくりなんだ……。


 東雲先輩とガチで付き合えるなら、これまでのセフレ共なんて全て切り捨ててもいい。

 こんな俺でも、それくらいあの人に憧れていて本気なんだぜ。


 けど『塩姫』と呼ばれるほど隙のない生徒会長には変わりないから、そう簡単に近づけねぇ尊い存在だったんだ。


 けど……。


 神西 幸之。


 あいつが羨ましい。


 毎日、あの笑顔を独り占めしていると思うと、ガチでぶっ潰したくなる。

 ユウ兄ぃの気持ちもわからなくもない。


 だからって手を下すとかはアホだと思う。


 ましてや大人達を利用して陥れるなんて正気の沙汰じゃない。


 そこが、ユウ兄ぃの怖いところだ。


 利用価値のあるものは利用し尽くし、その価値のない者は遠慮なく切り捨てる。


 あの『遊井 勇哉』もそう……今回のケン兄ぃだってそうだ。


 ユウ兄ぃはやり方に見境がねぇんだよ。

 

 みんな第二の勇者扱いしているが、俺からすりゃ力を持て余した魔王様に見える。

 

 本当は神西なんてどうでもいい。

 友人の火野だって相当ヤバイ奴だって知っているし、同じクラスで元ヤンの風瀬も最近じゃツルんでいるらしい。


 そして、神西自身も遊井を撃退したり、ケン兄ぃにサッカーで勝つなど結構な身体能力を持っていると聞く。


 自慢じゃないが、俺は喧嘩が弱い。

 俺の場合、筋肉つけるより少し華奢な方がモテるからな。


 本当なら相手になんかしたくねぇよ。


 でもやらなきゃ、俺がケン兄ぃと同様……いや、それ以上な酷い目にあっちまうかもしれない。



 だから神西を陥れるため、ある作戦に出ようと思う。





 今日、学校をフケた俺は喫茶店にいた。



 ある女を待つためだ。


 俺にぞっこんで、なんでも言うことを聞いてくれそうな都合のいい女だ。


 こんなこともあろうかと、ずっとキープしてきた都合のいい奴でもある。



 カラン。



 誰かが店に入って来た。


 店員が「いらっしゃいませ~」と挨拶している。



 よし、どうやら来たようだな……。





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