第34話 騎士との話し合い
罠か……だよな?
一体、どんな手を使ったかわからないけど、明らかに胡散臭い。
この状況、誰かのシナリオになぞられたみたいだ。
俺もメンバーに名前が挙がっていたけど、別に辞退しても構わないよな。
「――高木先生、5分だけ神西君と火野君と相談したいんですけどいいっすか?」
突然、内島が言い出してきた。
「構わないが、何の相談だ?」
「ルール決めっすよ。俺達ハンデで7人っすから……こっちも初めての試みだし、はしゃぎすぎて怪我しちゃ、お互いつまらないじゃないっすか?」
「内島も大事な体だし、最もだな。しかしなんで神西と火野なんだ?」
「他所のクラスの俺にとっては、神西君は色々な意味で英雄なんっすよ。だからチームキャプテンに相応しいかと。火野君は彼の友達だから、中立に入ってもらえればなっと……」
「そうか、別に構わん。みんなで待機しているから早めにな」
高木先生は了承し、俺とリョウは内島と共にグランドを離れた。
みんなの視界内だが、会話が聞こえない場所へと連れて行かれる。
「よぉ。火野、久しぶりだな……すっかり身形変わっちまって」
「同じ学校だろ? ちょくちょく顔を合わせてんじゃねーか? テメェが俺をシカトしているだけだろーがっ、ああ?」
「……当たり前だろ? お前みたいな奴と関わっていたらろくな目に合わねぇ」
睨みつけるリョウに、内島は目を反らしている。
やっぱり苦手意識があるようだ。
少なくてもこの場で俺に危害を加えるつもりはないようだな。
「内島君だっけ? なんで俺達を呼んだんだ?」
「神西か……お前、火野とつるんでいるってことは、一年の情報屋の
「ああ、知っている」
「だったら俺のことも聞いているだろ……王田 勇星のこともよぉ」
「ああ、まぁな……」
「……はっきり言うぜ。俺はその刺客だ。お前、勇星に狙われてんだよ」
「!?」
やっぱりそうなのか……。
「なんで俺を狙うんだ?」
「そこまで言う義理はねぇ……俺は互いに幸せになれればいいと思って打ち明けている」
「内島……テメェ、どういうつもりだ? まさか王田を裏切るって腹か?」
リョウが率直に訊いた。
「……まさか。そんなことしたら、遊井みたいに日本にいられなくなっちまうよ」
「遊井みたいに?」
「ああ、だがそいつの話をしている暇はねぇ。要はお互いフェアな戦いをしようって言っているんだ」
「フェアだと? 散々汚ねぇ真似してきた、テメェが言うのか、ああ?」
「火野……昔の話だろ? 今の俺は違う。プロサッカー選手っていう夢と未来がある。勇星の指示とはいえ、くだらねぇことに手を汚したくない」
「いつもみたいに、王田に頼んで爺のコネでも使えばいいじゃねーか? 確か殺人でも無罪にしてくれるんだろ?」
「……だから、もう嫌なんだ、そういうのは……俺はまもとに生きたい。自分の力で上を目指したいんだ。けど、勇星は裏切れねぇ……言っとくが情じゃないぜ。恐怖だ。あいつが本気になったらどんだけヤバイか俺は知っている……それこそ、火野、お前が言った通りのことも成立するんだぜ」
内島の奴、ハッタリや脅しに聞こえない……本心か言っている。
まるで遊井の狂暴性を目の当たりにして怯えていた愛紗と詩音のようだ。
――内島は、王田を心から恐れている。
「この試合も、勇星が理事長を通してセッティングした舞台だ。俺のクラスの教師を無理矢理早退させて授業を意図的に操作した。他の教師達に知られないようにな。あいつにはそういう力があるんだよ」
「マジかよ……」
爺のコネで他の大人達ですら操るっていういのか?
どんだけ力があるんだよ……。
王田 勇星……遊井を遥かに超越したヤバイ奴じゃないか。
そんな奴に狙われている俺って……この先、一体どうなっちまうんだ?
「んで、テメェは俺のマブダチのサキをどうしたいんだよ?」
「俺が勇星に指示されたことは、神西を遊井みたいに自滅させること……お前が、このまま大人しく彼女達から手を引くっていうなら、誰も傷つかずに済むんだがな……」
「彼女達って? 愛紗達か?」
「そうだ、三美神だ。勇星はその一人を欲しがっている……」
「テメェも詩音ちゃんを狙っているんだろ? サキを排除するんだよなぁ!?」
リョウは今にも内島を殴り掛かる勢いで押し迫っていく。
他の連中も見ている手前、俺は真ん中に入り親友を止める。
一方の内島は、その迫力にビビっているようだ。
「……ま、待てよ! 確かに俺は今でも北条ちゃんが好きだ! だが昔のヤンキー仲間に漏らしたのは、あえてお前達の耳に入れるためのフェイクなんだよぉ!」
「なんだって?」
「理由はさっき言った通りだ……俺はもう暴力から足を洗っている。けど勇星はそれを許さない……中学の延長で、まだ俺にそういう指示を平気でしてくるんだ」
「――中学の延長? 内島、お前……まさか……」
「そうだよ。俺は勇星に意図的にヤンキーをやらされていたんだ。この顔と体格を買われてな……あれしてこい、これしてこいって命令されて、色んな悪事を働いてきたよ。暴走族だって元々は勇星が金で集めた連中だ」
そんな……わざわざ自分の幼馴染にヤンキーやらせていたって言うのか?
何のために?
「俺がヤンキーをやめれたのも、火野。お前が俺をボコってくれたおかげだぜ……俺がお前に怯えることで、勇星も指示するのをピタっと止めたんだ。きっとお前と対立して表沙汰になるのを
「……そうか。まぁ、いい。話を戻すぜ、さっき言ってた『フェアな戦い』ってなんだ?」
「言葉のままだ。これから俺達とサッカーをしてもらう。本当はゲスト達の前で、神西にラフプレーでボコボコにしながら
「ゲストって?」
「グランドに戻ればわかる……んで、神西どうする? やるのか? それとも『三美神』から手を引いてくれるのか?」
「サキには『どっちもやらない』っていう選択肢もあるよな?」
リョウは皮肉を込めながらも、真っ当な意見を言ってくれる。
確かに、俺がこんな試合に乗っかる必要はない。
「……いいぜ、別にやらなくても。その代わり、俺は次の行動を取らせてもらうぜ」
「次の行動だと?」
「北条ちゃんを無理矢理に奪う。力づくでもなんでもな……んで俺の女にする」
「なんだと!? 詩音に手出しさせねーぞ!」
俺は感情的になり、内島に掴み掛かる。
今度はリョウが真ん中に入り制止してきた。
「フン、殴りたきゃ殴れよ……俺は一切、手出ししねぇよ。だがマスコミに注目される無抵抗な俺に傷を負わせたら、神西、テメェなんて学校どころか社会的に干されるぞ。それこそ勇星の思うツボだぜ」
この野郎……。
図体のデカく、チャラそうな外見の癖に痛いところばかり付きやがって……。
結局、選択肢がないじゃないか。
「ぐっ……わかった。やるよ……」
「決まりだな。俺が勝ったら、神西、お前は『三美神』から手を引けよ」
「サキが勝ったら、テメェはどうすんだ?」
「そん時は、俺は神西には今後一切手を出さない。北条ちゃんも諦める……俺だって自分の未来を優先したいからな」
内島なりに、王田にお追い詰められているようだな……。
こうして三人の話し合いが終わった。
グラウンドに戻ると意外なゲスト達が待っていた。
「サキ~! 頑張れ~!」
詩音だ。
体育館で授業していた筈の女子達が見学に来ていたのだ。
「サキ君! ファイトよ~!」
麗花までいるぞ? どうしてだ?
「そういや麗花さんって、内島と同じクラスだったなぁ」
リョウが何気に教えてくれる。
そうなのか?
待てよ?
ってことは、ゲストの前で俺をボコボコにして辱めるって……。
この二人の前でって意味か?
これも王田が仕掛けた演出だっていうのか?
やっぱり……王田 勇星は異常だ。
キレやすい遊井とは違うタイプの……危険さを兼ね備えている。
そう俺が畏怖する中、ついに試合の火蓋が切られた。
──────────────────
【次話の更新予定のお知らせ】
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第35話は午後の夕方頃の更新予定です。
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