第32話 影の勇者と幼馴染の噂




 今日から二学期だ。


 気持ち新たに頑張らなければな。


 つーか、学業というか麗花の課題中心だけどね。

 なんでも今学期から、さらにメニューが強化されてしまうらしい。


 本当に俺は一体どこへ向かうのだろうか?




 久しぶりの教室。


 見慣れた生徒たちの顔。


 一つだけ変わったことと言えば、窓際の一番後ろの席。


 『王座』席が不在であること。


 海外へ転校させられた、あの男……。


 遊井 勇哉がいた席だ。



 そういや、奴に足首を折られたサッカー部の坂本も退院して、松葉杖を使いながら登校し教室にいる。

 示談は成立しているとはいえ、まだ部活への復帰もできないようで少し可哀想だ。


 そのサッカー部も夏の公式大会で準優勝と結構いいところまで行ったらしい。


 坂本とツートップだった『内島ないとう』って奴が頑張ったらしく、雑誌に取り上げられプロからスカウトされているとか。


 あれ? 待てよ?


 内島って確か……。




 田中先生が教室に入って来た。

 ん? 先生何か機嫌がいいようだぞ?


「お前ら~。夏休みは青春エンジョイしていたか? 先生も前に別れた彼女と無事によりを戻すことができたぞ~」


 へ~え、良かったじゃん。

 でも俺達生徒に関係なくね?


「だから今から席替えしたいと思う。心機一転、『復縁祭り』だ」


 いきなりの発言に、生徒全員からブーイングが起こる。


「先生ッ! あたしは今の席がいーの! そんな勝手なことするなら、彼女さんと別れさせるぞーっ!」


 俺の隣席の詩音が怒って猛反発してくる。

 この子は脅しじゃなく本当にやるだろうな。


 他の生徒達も「面倒くせぇ、また別れろぉ!」と詩音に便乗している。


 田中先生は半べそかいていた。


「……わかった。先生、席替えやめる。だから、もう少し祝福してくれよぉ」


 大丈夫か、この担任?

 思いっきり公私混同だよな。


 呆れる俺は後ろの席のリョウに愚痴を言いたく、チラッと振り向いた。


 上の空でそっぽを向いている。

 でも表情は真剣で何か考え事をしている様子に見えた。


「リョウ、どうした?」


「え? ああ、なんでもねぇ……」


 なんだろ?


 一緒に登校した時は普通だったのに……。

 そういや、ホームルーム前に誰かに呼ばれて教室から離れていたな?

 





 放課後。


 リョウが話し掛けてくる。


「なぁ、サキ今日はなんか用事あるのか?」


「別にないよ」


「んじゃ、俺にちょっと付き合わね? 会わせたい奴がいるんだ」


「え? 誰? まさか女子?」


「ちげーよ。後輩だ」


 後輩だって?

 そういや、一年生に元ヤンの後輩がいるって聞いたな。




 俺は頷き、リョウに同行することにした。




 とある喫茶店に入る。


 そこに同じ制服の男子生徒が座っていた。


 黒髪のマッシュルームヘアーで分厚いレンズの丸眼鏡をかけている。

 一見して真面目そうで如何にもガリ勉そうな雰囲気。


「よぉ、耀平ようへい!」


 リョウは男子に向けて気さくに声をかけた。

 耀平と呼ばれた彼は席から立ち上がり直立する。


「火野さん、チィース!」


 外見とは裏腹にいかつい口調だ。

 まさか……。


「リョウ、彼って……」


 俺が話し掛けた瞬間、彼は丸眼鏡と外し、鋭い眼光で睨んできた。


「ああ!? テメェ、どなた様に向かって馴れ馴れしく名前で呼んでんだぁ、コラァ!」


 やっぱりそうだ。こいつ、ヤンキーだ。


「俺のマブダチのサキだぁ。文句あっか、コラァ!」


 リョウまでカミングアウトしてくる始末。


「ええ!? あの、勇者を倒した伝説のぉ!? 失礼いたしましたぁ!」


 耀平は一変して頭を下げて見せる。


 俺は「気にしなくていい」とさらりと流し、リョウと共に席へと座る。


 てか俺、いつ伝説になってんだ?


「紹介するぜ。こいつは、風瀬かざせ 耀平ようへい。前に話した俺の後輩だ」


「チィース! 神西さん、よろしくお願いしまーす!」


「ああ、こちらこそ……んで、どうして彼を俺に会わせるんだ?」


「……王田 勇星の件。お前には関わるなって言っちまったが少し引っかかることもあってな……俺なりに、こいつに情報集めさせていたってわけだ」


「引っかかることだって?」


「ああ……耀平、説明してやってくれ」


 リョウに振られ、耀平は丸眼鏡を掛け直して頷いた。


「神西さん、どうやら目を付けられているらしいっすよ」


「目を付けられているって……王田に?」


「……正確には、内島 健斗っす」


「内島……王田の幼馴染でサッカー部の……どうして?」


「理由は北条先輩っす」


「詩音が?」


「内島、以前から北条先輩にぞっこんだったっす。確か昨年あたり、彼女に告ってあっさりフラれたって聞いたっす」


 そうか。まぁ、詩音もああ見ても、警戒心が強く身持ちはしっかりしているからな。

 特に昨年は丁度、遊井にセフレの噂を広められていた時期だから余計か。


「けど、今年になって、自分の株が上がったもんだから、また調子に乗りだしたようっす」


「株? サッカーで注目浴びたからか?」


「そうっす。『俺はプロになる』ってイキっているらしいっす」


「別にいいじゃん……頑張った結果なんだし」


 確かに、坂本が怪我して試合に出られなかったことで漁夫の利を得たっぽいところもあるけど。


 悪いのは全部、遊井の奴だし。

 けど、それと俺が内島に目を付けられる理由と何か関連があるのか?


「内島は、また北条先輩を狙っているらしいっすよ。奴と昔つるんでいたヤンキー仲間の話だと、『北条ちゃんをモノにするのは、まず目の上のたんこぶを排除してから』って言っているらしいっす」


「目の上のたんこぶ? それって……」


「お前のことだ、サキ」


 リョウに名指しされ、俺は戸惑ってしまう。


「……どうして俺が?」


「はっきり言うぜ。学校中の大半は、お前が遊井を負かして、詩音ちゃん達を奪い取ったと思っている」


「それは知っているけど……けど実際は仲のいい友達であって、別に付き合っているわけじゃ……」


「んじゃ、お前は内島から逃げて、詩音ちゃんを見捨てるのか?」


 あっさりと切り捨てる言い方に、俺はカッと感情が湧き上がった。


「そんなわけないだろ! 俺は詩音を守る! 彼女だけじゃない、愛紗や麗花だって……そういう気持ちで、普段からあの子達と一緒にいるんだ!」


「……やっぱり、サキだな。安心したぜ。万一、彼女らを見捨てるようなら、ブン殴って絶交しているところだぜ」


 リョウはニッと笑う。

 だろーなっと、俺も愛想笑いを浮かべる。

 こいつ結構、人を試すの好きだからな。


「それで風瀬君、内島はどうやって俺を排除するとか言ってるんだ?」


「内容まではわからないっす。けど奴も今じゃ、ちょっとした有名人だから暴力沙汰とかはないと思うっす」


「前にも少し説明したが、当時の内島はクズだった。何度も傷害や窃盗を繰り返しては、その都度あの王田に頼んで揉み消してもらっている。俺とのタイマンでボコられて以来、ヤンキーから足を洗ったようだがな」


「それを俺に向けてやり兼ねないかもな……」


「ああ、だがよぉ……俺から見て内島よりも一番注意しなければならない奴がいるぜ」


「……王田 勇星か?」


「そうだ。内島の背後には決まって、幼馴染であるの影がちらつく……まるで内島をけしかけているようにな」


 確かに、これまでの話の流れから可能性はあるか……。


 俺も夏休みで会った時……奴が愛紗を見る目が妙に気になったんだ。


「あと、神西さん。間藤まとう 翔って奴にも注意してくれっす」


「間藤? 確か王田の幼馴染の一年だっけ?」


「そうす。こいつは内島と違って『戦闘力0ゼロ』っすけど、年上の女好きで有名っす。好みの女なら見境なく、ヤクザの人妻でも平気で手を出そうとする変態エセ美少年っす」


「それはそれで凄げぇな……」


「確か、耀平と同じクラスだったよな?」


「そうっす。見た目から同級生にも人気があって、とにかくムカつく野郎っす。なんっつーか、甘え上手で女を利用することに長けているんっすよ」


「ヒモ系って奴か?」


「そうっすね。現にこいつに利用され泣かされた女子もいるっすから……」


 なるほどね……色々な意味でヤバそうだ。


 しかし、あれだな。


 遊井が居なくなったことで、また妙な連中が浮上してくるようになった気がする。


 まるで遊井という存在が目立ちすぎて、その陰に隠れていたような……。



 これって偶然なのか?






──────────────────

【次話の更新予定のお知らせ】


いつもお読み頂きありがとうございます!


次話は、19日の0時頃の更新予定としておます。

その後、午前・午後に一話ずつ更新する予定です(^^)

計3話の更新予定です。


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

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