第29話 夏休み。お祭りと花火大会
楽しかった海水浴から数日後。
今日は夏祭りだ。
「みんなぁ、浴衣が超似合っているよ……」
愛紗と麗花と詩音、そしてニコちゃんが浴衣姿を披露してくれていた。
「えへへへ……ちょっと照れちゃうなぁ」
「浴衣なんて小学生以来かしら……」
「きゃは☆ サキ~、どうよ~?」
「サキ兄ぃ、あんまじろじろ見ないでよねぇ、恥ずかしいんだから……」
うん、みんな可愛い。
つーか俺、日本人に生まれて本当に良かったと思う。
「よし、リョウ達も待っているから、みんな行こう!」
俺達は親友カップルと合流し、祭り会場へと向かった。
リョウは刺繍入りの甚平に下駄と、ちょっぴりヤンキーが残っている。
千夏さんはみんなと同じ艶やかな柄の浴衣姿だ。
ちなみに俺も浴衣を着込み慣れてないから足元がすーすーしている。
「天気もいいから、花火もばっちり見れるなぁ」
「楽しみだね、サキくん」
愛紗は天使のように微笑んでいる。
夏祭りと花火を一番楽しみにしていたのは彼女だからな。
俺もこうして彼女達と一緒に過ごせて、未だに奇跡だと思っている。
本当に楽しい夏休みだった。
このままみんなと仲良く楽しく過ごせればどんなに幸せなことか……。
あり得ないと思いながらも、ついそう想いが過ってしまう。
せめて高校にいる間はこうしていたい。
それからの俺の未来、俺の将来……。
俺はどうしているんだろう?
この中の誰かと付き合ったり結婚したりするのかなぁ?
誰と? つーか選べるのか、俺?
「サキぃ~! 射撃やろーっ、ヒノッチもぉ!」
出店の前で詩音が袖を引っ張ってくる。
「よぉぉぉし! 俺の射撃テク見せてやるぜ~!」
リョウが妙なテンションを上げている。
そういやヤンキーって祭り好きだと聞いたことがある。血が疼くのだろうか?
「オッケーッ。なんか景品取れるといいなぁ」
俺もノリよく参加してみる。
勝負師の二人はそれなりの景品をゲットしていたが、俺はノーヒットだった。
「サキ兄ぃ、クジ引きしょ?」
ニコちゃんが誘ってきた。
「和心ちゃん、出店のクジはやめた方がいいわ」
「麗花さん、どーして?」
「効率が悪いからよ。はっきり言うと、当たった試しがない」
コラッ、ここでぶっちゃけるのはやめなさい、麗花!
「でも、大きな景品当たっている子もいるよ、ほら」
ニコちゃんは大きなぬいぐるみ持って歩いている子供に向けて指を差している。
「サクラよ。きっと賄賂を渡して雇っているのよ」
んなの、ただの疑心暗鬼じゃねーか!?
「まぁ、宝くじみたいに夢を買うと思えばいいんじゃね?」
俺は必死でフォローを入れてみた。
「でも、お小遣いは限られているわ。ここは無駄な経費は避けて、遊戯系か食べ物系に徹するべきよ」
うん、流石秀才と言われる生徒会長。こういう場面でも効率を優先するんだね。
「じゃあ、型抜きしょっか? わたし昔っから得意なんだぁ」
中立主義の愛紗が妥協案を提示する。
彼女は手先が器用だから本当に上手そうだ。
「……そうね。でも高額なのは狙っちゃだめよ。所詮は店主の主観で完成度がジャッジされるんだから」
もう、麗花! 言いがかりにもほどがあるじゃねーか!?
しかも行くとこ行くとこ店の前で言うもんだから、店のおっちゃん達に睨まれてんじゃん。
誰よ? このポイズンみたいな美人娘、連れてきたの……あっ、俺だ。
「んもう! レイちゃんはこれでも食べてなさい~!」
詩音が麗花の口にリンゴ飴を咥えさせる。
「……美味しい♡」
説明しよう。
麗花は塩姫と呼ばれるも、実は大の甘党である。
特に甘いスィーツに目がなく、食べているとしばらく小動物のように大人しくなるのだ。
「これでしばらく静かだよ~ん! にしし♪」
詩音さん、マジすげーっ!
しっかり麗花の対処方法を熟知してんじゃん!
「サキくん、もう少しで花火が始まる時間だよ~、見に行こーっ!」
愛紗が俺の手を握り引っ張ってくる。
幼女のような無垢な笑顔だ。
純粋に夏祭りを楽しんでいる。
俺にはそう見えていた。
不意に手を握られ一瞬ドキッとしたけど、彼女の笑顔を見ていたら、俺も純粋に祭りを楽しみたくなってくる。
「うん、行こう!」
俺の握り返し、一緒に花火会場へと向かった。
混雑している会場から、離れた場所で花火が打ち上げられる。
色鮮やかな輝きが夜空に花を添えて、光の残像を帯びて儚く消えていく。
幾つも打ち上げられる夏の風物詩に誰もが魅入り、「たまや~」と歓声が上がる。
俺はふと、隣にいる愛紗を見つめた。
うっとりと眺める瞳はとても綺麗だ。
やっぱり、この子は可愛い……誰もが認めるくらい。
優しくて家庭的で一緒にいて安心できる。
好きになって当然の子だろう。
でも、詩音だっていい子だと思う。
一緒にいて元気が貰えるし、いつも明るい気持ちにしてくれる。
麗花だっていい子なんだよなぁ。
いつも一生懸命で頼もしくて時折ドジでズレたところがまた愛らしい。
もし選べと言われたら……俺は一体誰を……?
そう考えてしまう俺は一番優柔不断で最低なのかもしれない。
ぎゅっ。
誰かが俺の手を握ってきた。
チラッと視線を向ける。
ニコちゃんだ。
「サキ兄ぃ、あのね……ニコね、来年の受験必ず合格するから、それまで待っててほしいの」
「え?」
「……お願い」
寂しそうに瞳を潤ませる、ニコちゃん。
いつも俺を気にかけてくれる従妹であり、本当の妹のような可愛くて大切な子だ。
何を言わんとしているのかわからない。
いや、なんとなくだが伝わっている。
けど、今の俺には訊き返す勇気と資格がない。
俺はニコちゃんの手を握り返す。
「わかった……受験頑張れよ」
「うん」
ニコちゃんはニッコリと微笑んでくれる。
その笑みを見て、俺は安心すると同時に妙な罪悪感が芽生えてしまう。
まずは、こんな自分を変えてからだと思った。
素敵な彼女達に相応しい男になるために――
そして夏休みも最終日となる。
ニコちゃんが地元に帰ることになった。
バス停前にて。
「サキ兄ぃ、色々とありがとうね……ギリギリまで居てごめんね」
「ああ、別にいいよ。冬休みにまた来いよ。連休続いた時でもいいからさぁ、待ってるよ」
「うん」
可愛い笑顔を見せる、ニコちゃん。
なんだろ? 前よりどこか素直になった気がする……。
「ニコちゃん、またね」
「前に渡した学習課題、やっておけば必ず成果を出せるわよ」
「まぁた、あそぼーねー♪」
愛紗と麗花と詩音も見送りに来てくれている。
「ありがとう、みなさん。こんなサキ兄ぃですけど、これからもよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて見せる。
すっかり愛紗達と打ち解けてくれたのはいいけど、「こんなサキ兄ぃ」は余計だよ。
「うん、勿論」
「次に会う時は、サキ君はさらに進化を遂げているわよ」
「あたし達がニコッチの分までイジってやるからね~、きゃは☆」
なんだろう? 愛紗以外、嫌な予感しかしねぇ。
「あっ、ニコちゃん、それとね……」
愛紗はニコちゃんの耳元に顔を近づける。
「サキくんの件……来年、待っているからね。それまでイーブンだよ」
「はい、愛紗さん」
俺の聞こえない声で何やら意気投合している。
まぁ、仲がいいのや良い事だけどね。
こうしてニコちゃんは地元に帰った。
三人も各々の家に戻っていく。
俺達の長く素敵な夏休みが終わった――。
そして秋。
――二学期が到来する。
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