第28話 夏休み。女子トーク大会




 ~女子side



 夜、宿泊部屋にて。


 女子達は広い一室に寝泊まりすることになった。


 サキとリョウの男達は普通の二人部屋で休んでいる。


 時折、詩音と和心ニコが男子部屋に襲撃しに行き、サキに「もう遅いんだから寝ろよぉ!」と怒られていた。

 なんでも朝の5時に麗花と砂浜でランニングをすることになっているらしい。


 詩音は舌打ちしながら、和心を連れて自分の部屋に戻って来る。



「サキ達、ノリ悪いんだけどぉ!」


「疲れているのよ、サキくんだって……明日、早いんでしょ?」


 仏頂面で頬を膨らませる詩音に、愛紗が優しく諭している。


「チェ……まぁ、いいよ。サキの乱れた浴衣姿も見れたしねぇ、ニコりん♪」


「え? いえ、ニコはそこまでマニアックじゃないっていうか……まぁまぁっていうか」


「嘘、やだぁ。ちょっと、わたし見に行きたいんだけどぉ!」


「愛紗、貴方まで……睡眠は大事なのよ。今日は男子同士でゆっくり休ませてあげなさいよ」


 麗花は言いながら、しれっとドアを開けてる。


「ちょっと、麗花。どこへ行くのよ?」


「サキ君と明日の打ち合せよ。火野君も参加しないか訊いてくるわ」


「そうやって何気にサキくんに会おうとしているんでしょ? ずるいよ、わたしも行くぅ!」


「んじゃ、あたしも~♪」


「「詩音はもう行って来たでしょ!」」


 愛紗と麗花はハモりながらツッコミを入れる。

 流石、幼馴染。姉妹以上に波長が合ってしまうようだ。


「フフフ……」


 黙って見ていた千夏がクスクスと笑みを零している。

 

 名取なとり 千夏ちなつ

 ショートカットが似合う清楚で可愛らしい雰囲気を持つ女子。

 

 サキの親友である火野ひの良毅りょうきと付き合っている彼女だ。


「千夏ちゃんも一緒に行く?」


 愛紗が誘ってみる。


「ううん……リョウくんも、たまにはサキくんと男子同士で過ごしたいだろうからいい」


 彼氏思いの千夏の気遣いに、愛紗達は結局行けなくなってしまう。


「でも、チナッチ(千夏)はいいよね~。ヒノッチに一途に愛されているもんね~」


「ええ? 北条さん、そうかなぁ?」


「そうだよ~。ヒノッチ、ことあることに言っているよぉ。『俺は千夏一筋だからなぁ』って」


「……初めて聞いた」


 千夏は頬を桃色に染めている。

 どうやら、リョウは彼女の前ではそういう事を言うタイプではないらしい。


 愛紗は「ふ~ん」と納得している。


「そっか……なんか火野くんらしいね」


「周囲伝手もいいけど、当人からも直接言葉も欲しいかもね……私はよくわからないけど」


「東雲さんは、サキくんのこと好きなのよね?」


 首を傾げて訊く千夏に、麗花は見る見る顔中が赤く染まっていく。


「す、好きよ! でもまだその段階じゃないっていうか……私だけ勝手に想いを打ち明けられないていうか……」


「麗花だけじゃない。わたしだってサキくんのことが好きだよ……けど、今はみんなと一緒にサキくんの傍にいたいと思っているの……」


「そだね~。あたしもみんなと過ごす今が一番楽しいなぁ~。けど、やっぱりサキのこと大好きだし……ずっと一緒にいたいし」


 麗花も愛紗も詩音もそれぞれの想いを打ち明ける。


 同じ男子をほぼ同時に好きになってしまった三人。

 姉妹以上の結束で結ばれた彼女達だからこそ、想うところもあれば悩むところもある。


 サキが答えを出せないように、また彼女達もどうしたいのか応えが出せてない。


「……やばいなぁ。この人達相手じゃ、このままだと勝てないよ」


 和心は小声で呟く。

 女子として明らかにハイスペックな三人の気持ちを聞き、改めてそう思ってしまった。


 また夏休みが終われば、自分は隣町に帰ってしまう。

 そうなれば、サキの心はまた離れてしまう不安が過っている。


「ニコりんもサキのこと好きなんでしょ?」


 詩音の言葉。最近、特に気が合い一緒にいることが多くなっている。


 和心は無言で頷く。

 これでも中学三年生の彼女にとっては精一杯の勇気だ。


 その様子を見て、詩音と愛紗と麗花は優しく微笑んでいる。


「大丈夫だよ、ニコちゃん。わたし達は抜け駆けしないから」


「特にサキ君に関してはフェアで行きたいと思っているわ」


「たまに、サキの写メ送ってあげるからね~♪ 来年待っているからね~」


 三人の思いやりが、和心の胸を疼き熱く込み上げさせていく。


「うん……ありがと」


 自然と頬に伝う雫。嬉しいのか何なのか、和心もわからない。

 ただ三美神っという女神達に影響されているのは確かだと思った。


 例え勝っても負けても……。


 この人達と対等に張り合えるなら、それはそれで凄いことなのかもしれない。


 

「サキくんって幸せだなぁ……」


 千夏は微笑ましく、そんな彼女達を眺めていた。



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