第24話 夏休み。 サキ兄ぃとお姉さん達の過ごし方
しばらくすると、愛紗が帰ってきた。
何故か、リョウも一緒だ。
「よぉ、サキ! ハーレムしてっか?」
「お前、またなんちゅうこと言ってくれるんだよぉ! せっかく話がまとまりかけているって時によぉ!」
「まぁ、キレんなって……こうして、愛紗ちゃんを送って来たんだからよぉ」
「愛紗、どうしてリョウと一緒に?」
「ごめんなさい、途中で道に迷っちゃって……丁度、火野くんが千夏さんとのデート帰りで遭遇して送ってもらったの」
愛紗は恥ずかしそうに頬を染めながら、購入した合格祈願のお守りを見せてきた。
「なんだよぉ、リョウ。俺のことハーレムとか言いながら、お前なんかすっかり名取さんとリア充野郎じゃねぇか?」
「うっ、うっせーっ! 外で千夏を待たせてんだ! 俺はもう行くからなぁ!」
相変わらず、自分がいじられるのを嫌う身勝手な親友。
「あ、リョウさん。お久しぶり~」
「おっ!? ニコちゃんじゃねーか? 久しぶり~、おっきくなったなぁ! サキのハーレムメンバーに入りに来たのか?」
いい加減にしろよ、この野郎!
喧嘩じゃ絶対に勝てないから、千夏さんとのラブラブをクラス中に言いふらしてやるからな!
「まぁ、そんなとこ……なわけないじゃん。暇だから泊まりに来ただけだよ。あと、来年同じ高校受けるから下見かなぁ」
「へ~え、そいつは丁度いいじゃん。麗花さんもいるしよぉ、生徒会長なら色々と便宜図れて学校内を案内できるんじゃね?」
「そうね(火野君……どうして私だけ『さん』呼びなのかしら? まさか老けて見られている?)」
「じゃあ、ニコちゃん。明日でもみんなで学校行こっか?」
「うん、わかったぁ」
俺の誘いに、ニコちゃんは満面の笑みを浮かべる。久しぶりに見た笑顔だ。
「ニコちゃん、これ……」
愛紗は合格祈願のお守りを渡す。
「これをニコのためにわざわざ?」
「うん。神社の人が一年間は効力あるって言ってたよ。気持ちだけど頑張ってね」
「ありがと……でも、愛紗さん。そんなに可愛くて綺麗なのに、なんかズレてる残念キャラだねぇ?」
「え?」
「なんでもない。お兄ぃの言っている意味……少しだけわかったかも」
ニコちゃんは恥ずかしそうに照れながら、お守りを大事そうに握りしめた。
「――あっ、そうだ。なぁ今度の土曜日、みんなで海に行かね?」
リョウが珍しく誘ってきた。
「やったーっ、ヒノッチ! 行く行く~♪ ねぇ、サキも当然行くでしょ?」
「勿論だよ、詩音。約束していたからなぁ、みんなで行こうぜ!」
俺の呼びかけに、愛紗と麗花は微笑みながら頷いてくれる。
「でもニコ……水着もってないよ」
「明日、学校の見学帰りに買いに行こーっ♪」
「うん、詩音さん」
ニコちゃんもすっかり詩音のペースにハマっているようだ。
「ちなみに近くに俺の親戚の叔父さんが経営している旅館があるからよぉ。そこで一泊できるぜぇ。部屋代もいらねぇから、安心してくれ~」
ほう、こいつにそんな親戚がいたとは初耳だ。
本当、リョウが誘ってくるなんて珍しいぞ。どうしたんだ?
リョウは言う事だけいうと、そのまま帰って行った。
~和心side
ニコこと私は、夏休みいっぱいまでサキ兄ぃの家に泊まることにした。
でもまさか、女の人を三人も連れ込んでいると思わなかった。
しかも三人共、凄く可愛くて綺麗でTVや雑誌に出てきても可笑しくないようは女子ばかりだ。
おまけに性格も優しくて素敵な人達……。
悔しい……。
今の私じゃ到底勝てないと思った。
ここだけの話……私はサキ兄ぃが好き。
幼い頃から結婚したいと思っていた。
今だって、そう思っている。
けど、最近ますます意識しちゃって……思うように話し掛けられなくて、ついキツイことも言ってしまう。
それにサキ兄ぃに限ってっていう油断もあった。
だって、これっといって特徴ないし、平凡を絵に描いたような人だったから。
でも凄く優しい……心の大きい人。
一緒にいるだけも、優しい気持ちになれる。
ニコだけが知っている魅力だと思っていたのに……。
でも、あの三人のお姉さんも凄い人だってわかった。
愛紗さんはそつなくなんでも家事や料理がこなせて、とにかくきめ細やで優しい。
おまけにアイドル、いやそれ以上に綺麗で可愛い女子だと思う。
麗花さんは知的で大人っぽく美人でとにかく頭がいい。背も高くモデルさんみたいにスタイル抜群だ。
詩音さんも一見ハーフ顔のギャルっぽい人だけど、前向きで明るくて同じ女の子のニコでさえ好きになっちゃうような天真爛漫な人だ。何故かゲームがやたら強い。
本当サキ兄ぃってば、どこで知り合ったのっと言わんばかりの女子達だと思う。
まぁ、三人とも少しズレている所はあるようだけどね……。
そしてサキ兄ぃも、しばらく見ないうちに変わったのも事実だ。
一晩泊まった次の日、朝7時にニコは目を覚ます。
キッチンで愛紗さんが朝ご飯を作っていた。
本当やっていることは専業主婦だと思う。
「おはよ、ニコちゃん。昨日は眠れた?」
「ええ、まぁ。おはようございます……サキ兄ぃはまだ寝ているんですか?」
「ん? 5時頃に起きて、麗花とトレーニングに出かけているよ」
「ト、トレーニング!? あ、あの運動嫌いな、お兄ぃが!?」
「そぉ。夏休み中に基礎体力を強化するんだって」
「どうして? なんか部活とかしてんの?」
「……さぁ。ああ、そういえば、勇者を目指すためだったかなぁ?」
ゆ、勇者!? 何、その厨二病設定!?
そんなの頑張ってなれるわけないでしょ!?
ここ異世界じゃないんだよ!?
現実との区別ついているよね? 大丈夫だよね?
サ、サキ兄ぃ……一体どこへ向かっているの?
まさか格闘家? プロボクサー?
でも勇者って……なんなの?
一時間が経過した頃。
「ただいま~っ。今日もハードだったわ~」
サキ兄ぃが戻ってきた。ガチで運動してきたみたい。
黒色のトレーニングウェアを着こんでいる。
なんで帰宅部の癖にアスリートしてんの?
「おっ、ニコちゃんおはよう」
「……サキ兄ぃ、何してんの?」
「運動」
「見たらわかるよ……何目的だって聞いてんの」
ニコが問い質している中、麗花さんも戻ってくる。
黒髪をポニーテールにして同じくスポーツウエアを着用している。
笛やストップウォッチ、黄色いメガホンまで持って、まるでトレーナーみたい。
「和心さん、夏休み中にサキ君の身体機能の強化を図っているのよ」
綺麗な顔の癖に、麗花さんはしれっと厨二っぽいことを言ってくる。
「サキ君の
「サキ兄ぃの成績を上げるため?」
「そうよ。あと運動能力を伸ばしておけば、何をするにも損はない筈よ」
「……確かに。ところで勇者ってなんですか?」
「勇者? ああ、そうね。サキ君にはそうなってもらいたいわね」
麗花さんはクスクスと笑いながら、泊っている部屋へと向かった。
やっぱり、この人達……。
本気で、サキ兄ぃを勇者にしようとしているらしい。
「愛紗、俺、シャワー浴びてからご飯頂くから……」
「うん、わかったぁ」
なんだろう……この二人、新婚夫婦っぽくて凄くいい雰囲気なんだけど。
ちょっとムカつく。
「おはようちーす」
詩音さんが起きてきた。まだ着ぐるみのようなパジャマのままだ。
しかも、やたらテンションが低い。
どうやら低血圧で朝が弱いようね。
「詩音さん、おはようございます」
「ん? おはよ。ごめんね、ニコっち……あたしシャワー浴びたらエンジン掛かるタイプだから」
気怠そうに言いながら、脱衣場でサキ兄ぃと遭遇してシャワー室の取り合いをしている。
結局、サキ兄ぃが負けたようだ。
締め切られた脱衣場の前で哀しそうに佇んでいる。
なんか、みんな楽しそうだな……。
ふと、リョウさんの言葉を思い出す。
ハーレムの一員か……。
いやいやいや、違うでしょ!
確かにお姉さん達は素敵でいい人なのはわかった。
サキ兄ぃとも、あくまで友達関係であり、やましい関係でないのも理解した。
今の所はって感んだけど……。
けど、やっぱりそれはそれだから……。
だから、ニコはやっぱり諦めたくない。
――この恋だけは譲りたくない!
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