第23話 夏休み。誰にするのよ
とりあえず、ニコちゃんには家に入ってもらうことにした。
「きゃは☆ 散らかっているけど上がってぇ、上がってね~ん、ニコりん♪ 」
ごめん、詩音、ここ俺ん家……。
そして、今。
みんな集まって居間で、愛紗がお昼に作ってくれた素麺を食べている。
みんな無言なので妙な沈黙と、ズズズっと麺をすする音だけが空しく響かせていた。
せっかく美味しい素麺なのに空気が重いなぁ。
「……サキ兄ぃってば、信じられない」
食べ終わった後、ニコちゃんはぽつりと呟いた。
完全に不信感を抱かれてしたまったサキ兄ぃこと俺。
下手に誤魔化そうとした俺に責任はあるんだけどね……。
「さっきも説明した通り、この子達は同じ高校で仲のいい友達であって、みんな俺のために色々と支援してくれているんだ。だから別にやましい関係じゃないからな」
「でも泊まり込みでしょ? 見たらわかるよ」
「そうだけど……別に寝る部屋だって別々だし、俺だって毎晩自制の荒行……いや、そうならないよう、みんなでルールを設けているわけだし……」
「……んで、誰が本命? そこのエプロンのアイドルお姉さん?」
ニコちゃんは愛紗を指して言った。
「え? わ、わたしぃ!?」
満更じゃなさそうな、愛紗さん。
「ぶーっ! そこまだブラックボックス! これからサキに吟味してもらうんだからねぇ~!」
「和心さんだっけ? 私達はその審判の時をずっと待っているのよ」
詩音、ブラックボックスはまだいいとして吟味って何よ!?
悪代官か俺は!?
あと麗花、地味に厨二病っぽい言い方だよ。
「ふ~ん……」
ニコちゃんは猫目を細めながら、三人を凝視している。
本当にやましい事は一切ないのに俺達の素行が完全に問われてしまっている。
年頃の彼女にとっては、そう見られても仕方ないのかもしれない。
でも俺はともかく、愛紗や麗花や詩音もそういう目で見られるのはなんか嫌だなぁ。
「ニコちゃん……別に叔父さんと叔母さんに言ってもいいよ。俺は胸を張って大切な友達として、みんなと付き合っているって言えるから……」
これが今、自分の出せる精一杯の答えだ。
俺は純粋に、これからも彼女達と仲良く向き合っていきたいと思っている。
「サキくん……そうだね」
愛紗も頷き微笑んでくれている。
彼女もこの曖昧な関係を楽しんでくれているようだ。
「……わかった。お父さんとお母さんには言わないよ。でもね、サキ兄ぃ」
「はい」
「ニコが泊まるのは譲らないよ……お姉さん達も無理に帰す必要ないから」
「ああ、わかったよ。ありがとう、ニコちゃん」
「その代わり、お姉さん達と寝る部屋は別々にしてね。なんなら、サキ兄ぃの部屋でもいいよ」
「え!? いくら親戚どうしても、そりゃまずいだろ、流石に!」
「どうして?」
「いや、だって……ニコちゃんだって年頃じゃないか?」
「別にいいでしょ? 昔はよく一緒に寝てくれたし、お風呂だって一緒に入って洗いっこしたよね?」
「「「え!?」」」
中学生の言葉で過剰に反応する、愛紗達。
「ちょ、ニコリン! つまりアレだよね!? サキの全てを隅々まで知っているってことだよねぇ!?」
「そうですね」
「しかも、サキ君と……一緒に寝屋まで」
「そうですね」
「サキくんとお風呂で洗いっこ……いいなぁ、ニコちゃん」
「そうですね」
何故、ニコちゃんはドヤ顔なんだろう?
つーか、三人とも何か思い違いしてんじゃねーの?
「もう、子供の頃の話だろ? 従妹なんだからぁ、そういうこともあるじゃないかぁ? ニコちゃん、俺と同じ部屋は駄目だからね。他の空き部屋使ってくれよぉ」
「……それでいいよ」
こうして従妹のニコちゃんが愛紗達と同様、夏休み中泊まることになった。
はっきり言ってトラブルの予感しかしないんだけど……。
空き室で自分の荷物を置いき、ニコちゃんは何気に俺と詩音の間を割って入るように並んでソファーでくつろいでいる。
なんかやたらと狭いんっすけど……。
麗花はクッション座りながら、テーブル越しでひたすらパソコンでデーターの打ち込みをしている。
愛紗は相変わらず、せっせと掃除したり片づけたりと俺の母親以上に動いているようだ。
俺はチラッと隣のいるニコちゃんを眺めてふと過った。
この子も随分大人っぽくなったと思う。
しかも結構可愛らしく。
昔は本当の妹みたいに、俺にべったりくっついて来たもんだ。
俺も可愛くて仕方なくて、今でも兄妹みたいな関係は続いていると思っているんだけど。
思春期なのもあり最近じゃ、遠ざけられたり、ウザがられたり……そんな感じだ。
でも暇さえあれば、こうして泊まりに来てくれるんだよな。
冒頭のように俺の身を案じてくれるような言い方をしながら。
まぁ、放置できない兄貴だと思ってくれているのだろう。
ニコちゃんもツンデレな所があるから、そう割り切ることにしている。
「そういや、ニコちゃん。来年はウチの高校受けるんだろ?」
「うん。受かったら、しばらくこの家に住むから、お兄ぃよろしくね」
俺が「そう、わかったよ」とあっさり割り切る一方で、詩音が眉を顰めてきた。
ちなみに、愛紗と麗花の手がピタッと止まる。
「……ニコりん、それってサキと二人で一緒に暮らすってことだよね? 少なくても高校卒業するまで?」
「そうなりますね。何かありますか?」
詩音の問いかけに、すまし顔で答える。
一方の詩音は「う~っ!」と唸り声を上げている。
愛紗は体を小刻みに震わせ、麗花は眼鏡のレンズをキュピーン光らせている。
え? みんなどうした!?
また違う空気が居間中から流れているような気がする……。
な、何これ!?
一触即発!? なんか、やばくね!?
すると――
「――絶対に合格してね~っ! 学校来るの待ってるよ~ん! ニコりん♡」
「ちょっ、何するんですか!?」
詩音は満面の笑みでハグしてくる。
「わたし、神社で合格祈願のお守り買ってくる!」
愛紗はエプロンをたたんで出て行った。
「和心さんの成績教えてくれる? 私が100%受からせるようサポートするわ!」
麗花まで興奮して、変なスイッチが入っている。
三人の意外な反応に、ニコちゃんは困惑した表情を浮かべている。
その光景に、俺は「なるほど……」と妙に納得してしまった。
「もう、サキ兄ぃ! この人達、なんなのぉ!?」
「みんな、こういう子達なんだ。いい人だろ?」
詩音にもみくちゃにされ、麗花に言い寄られながら、ニコちゃんは「うん……」と首を縦に振っている。
最近、三人とこうして一緒にいることで理解したことだが、みんなこれだけハイスペックにも関わらず所々ズレていると思う。
おそらく、あの遊井 勇哉に幼少期から散々振り回され鍛えられた分、一般人との感覚が異なっているのかもしれない。
っと考えれば、この夏休みの連続お泊り会やこれまで、これまでの俺に対する必要以上の恩遇も大まか理解できる。
つまり、愛紗も麗花も詩音も、三人とも個性はバラバラだけど、とても優しくて素敵な女の子達なんだ。
俺はその魅力に改めて理解する。
同時に心に迷いがある自分も存在することに気づきつつある。
――俺は最終的に彼女達とどうなりたいんだ?
いつまでこの関係が続くのかな?
ふと、そんな不安が過っていた。
……ところで。
愛紗は、結局どこまでお守り買いに行ったんだ?
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