第20話 勇者のいない最高の夏休み
――遊井が海外留学のため転出だと!?
俺を含む生徒全員が耳を疑った。
昨日の俺の配慮で傷害事件は円満に解決させたとはいえ、これまでの経過から退学になっても可笑しくないと思ったからだ。
後々耳にした噂では、殴られた仲間の女子と骨折させたサッカー部のエースの親に多額の慰謝料が支払われ示談が成立し丸く収めたらしい。
なんだよ……結局、金かよ。
俺も請求してやりゃ良かったぜ。
んな汚れた金なんていらねーけど。
いやマジで……。
それで、どうして海外へ転校することになったのか?
「――中絶した女の子の親との話し合いで合意されたらしいわ」
放課後、生徒会室にて。
麗花が俺に話してくれた。
愛紗と詩音、それにリョウも同席している。
「女の子の親? 確か父親が弁護士だったよな?」
「ええ、そうよ。父の話だと、言い出したのは勇哉の両親らしいけどね。このまま日本にいても、更生しないだろうから海外へ転入させることにしたらしいわ。当分は日本に戻ってこないでしょうね……」
「現に自宅で謹慎しても簡単に抜け出して、同級生を刺しに行くくらいだからなぁ。だから鑑別所か少年院にでも入っとけば良かったんだ。サキが最後にあんな野郎を赦したからだぜ?」
「お、俺は……なんて言うか……」
リョウにずばり指摘され言葉を詰まらせる。
やっぱり甘かったかな? これで良かったのか?
けど、普通の高校生である俺にそんな判断ができるわけがない。
多分心のどこかで、遊井に対して後ろめたさがあったのかもしれない。
きっかけはどうあれ……
――俺が遊井から幼馴染の三人を奪ったことに変わりないのだから。
彼女達の前では言えないけど……。
「わたしは……サキくんが間違っているとは思わないよ」
愛紗が控えめな口調で呟いた。
「え?」
「サキくんはあの人に立ち直るチャンスを与えてくれたんだと思う。海外に行っても、彼が立ち直るかはわからないけど……サキくんの想いは伝わったと信じたい」
「愛紗……ありがとう」
どこまでも清らかで心優しい彼女の手をそっと触れ握りしめる。
「サキくん……」
瞳を潤ませ、俺のじっと見つめてくる、愛紗。
思わず吸い込まれそうになるくらい、綺麗な瞳。
やばい……胸が高鳴る。
束の間。
「はい、ストーップ! アイちゃん、お互い抜け駆けは駄目って言ったよね~っ!?」
「え? あ、あのぅ……わ、わたしは」
詩音に厳しく指摘され、愛紗は手を放して無実アピールする。
「サキ君も案外、チョロいのかしら? それとも、もう決めてしまっているワケ?」
麗花が両腕を組み、イラついた口調で問い質す。
切れ長の鋭い眼光で俺を睨み、塩姫と化している。
「いや、俺は……決めているってなんだよぉ!?」
「そう……まだ、その気がないならいいわ……ブツブツ」
麗花は頬を染め一人で何かを呟いている。
「イヒヒッ。サキ~っ、羨ましいじゃねぇかぁ、おい?」
リョウまで冷やかすように言ってくる。
絶対そう思ってないぞ、このリア充野郎め!
ただ俺の困惑している姿を見て楽しんでいるだけじゃねぇか!?
しかし色々あったけど、こうして無事に終わってよかった。
これも、みんなが俺なんかのために親身になってくれたからだと思う。
本当にありがとう……。
そして一学期の終業式も終わり夏休みが始まった。
「「「お邪魔しまーす」」」
「よぉ、みんな……やっぱり強化合宿するのね?」
愛紗、麗花、詩音の三人が大きなボストンバッグと旅行トランクを持って、俺ん家の前に立っていた。
「そういう約束だったでしょ、サキ君?」
「まぁ、そうだけど……」
麗花に綺麗な笑顔で言われ、思わず照れてしまう。
「サキ~☆ 末永くよろしくね~、にしし♪」
「詩音、末永くって何がだよ~? ドキっとするから、からかわないでくれよぉ!?」
「サキくん……やっぱり迷惑かな?」
「そ、そんなことないよ、愛紗! ささ、みんな上がって、上がって!」
トドメに愛紗にうるうるされ、俺も開き直ってしまう。
この三段階攻撃もすっり定番になってしまった。
愛紗は変わらず家中の掃除をしてくれたり料理など家事全般をしてくれる尽しぶり。
その健気で懸命な姿に思わず胸がきゅんとなると共に、なんだか申し訳なくなってしまう。
「愛紗、そういうのはみんなで分担してやらない?」
「うん、でもわたし家事とか好きだから……サキくんのお世話も♡」
「え?」
「ううん……なんでもないもん、ふふ」
可愛らしくニコッと微笑む、愛紗に俺は顔中が火照ってしまう。
一瞬だが、彼女のお嫁さん姿を想像してしまった。
愛紗が俺のお嫁さん……絶対に幸せになると思う。
いつも献身的で母性的な優しく女の子だ。
麗花は早速、自分が考案した強化メニュー表を俺に手渡してきた。
相変わらず細かくわかりやすく書き込まれている。
「サキ君、この夏休みで学力だけじゃなく体力も付けるのよ。この強化メニュー通りに行えば必ず二学期に必ず成果が出るからね」
「ああ、いつもありがとう麗花。高二の二学期って特に進路とか重要だからな……それくらい俺にもわかるよ」
「そうよ。大丈夫……私が付きっ切りでサポートしてあげるから、ね♡」
「え? 何?」
「なんでもないわ。さぁ、始めましょう、くす」
美人さんなのに悪戯っ子のように微笑む、麗花。
この塩と飴の使いどころが、やっぱりズルイと思う……ギャップ萌えってやつ。
いつも俺のことを気にかけてくれるし、同じ年なのにしっかりした女の子だよなぁ。
詩音は一番暇そうだ。
気づけば大抵ゴロゴロしている。
「サキ~、ねぇあそぼーっ!?」
「いいけど……愛紗と麗花が色々やっているのに詩音だけ遊んでいていいのか?」
「ぶーっ! あたしだって色々やってんじゃ~ん。買い物とかぁ、サキの相手とかぁ、エログッズの捜索とか~?」
「俺はペットじゃないぞ! あと泊まり込みでエログッズの捜索はしてはいけません!」
んな24時間探されたら、流石にバレちまうだろーが!
それはそうと……。
「――詩音は、ずっとそのままでいいのか?」
「何がぁ?」
「いや、金髪とかキャラとか……だって、確か『あいつ』に強制されてたんだろ?」
俺が言った瞬間、詩音の表情を変える。
悲しいとかじゃなくて、なんて言うか……触れてはいけない部分に触れたような感じだ。
「サキはこういう派手な女の子嫌い?」
「いや、全然嫌いじゃないよ……お世辞抜きで今の詩音は可愛いよ、うん」
いきなり口調を変えてきたので、一瞬ドキッとした。
つーか今のが『素』なのか?
まぁ、どうするかは詩音が決めることだしな。
それに、俺も詩音は今のままでいいと思う。
「もう少しだけ考えさせてね、サキ……」
「え? 何?」
彼女のぼそっと呟く言葉が聞き取れず、俺は訊き返した。
詩音は首を横に振るい「なんでもないよ~だぁ!」と元気に振舞う。
「あんがとぉって言ったんだよぉ! あたし基本、サキが嫌じゃなければなんでアリ~♪」
またころりと表情と口調を変えてくる。
カメレオン女優じゃなく、カメレオンギャルだな、まるで……。
その後は普段通りの彼女に戻ったようだ。
「ねぇ、サキ~っ、あーそーぼー! ねぇ~?」
「……わかったよ、愛紗と麗花も誘ってみんなで遊ぼう、な?」
「きゃはっ☆ サキのそういうところ、だ~い好き~♡」
詩音の弾けるほどの眩しい笑顔に、俺の表情が緩んでしまう。
おねだり上手っていうか。思わずなんでも許しちゃうんだよなぁ。
一緒にいるだけで元気が貰えるというか、不思議な女の子だと思う。
このように、素敵な女の子達に囲まれて
俺の人生で最も楽しく贅沢な夏休みを満喫していく――
……筈である。
そして、
これは二学期に入った後に、ある連中から嫌でも知されることになるのだが……。
俺達の見えない所で……。
遊井 勇哉もまた、
今までの自分が犯した罪と向き合うための試練を与えられようとしていとは――
これから夏休みを満喫しようとする、俺達では気づく筈もなかった。
─────【次回予告】───────
いつもお読み頂きありがとうございます!
次話である第21話で事実上の第一部完結する形となります。
第21話では、勇者と呼ばれた男がどういう流れでそうなるに至ったかのお話しです。
また作者は少年法とかそれほど詳しくい方ではないので厳しいツッコミ等はどうかご勘弁ください <(_ _)>
あくまでエンターテインメントの作品として温かな眼差しで楽しんで頂けると嬉しいです。
それから番外編ちっくに、夏休み編と新キャラ等が登場します。
第二部(二学期編)に向けての伏線もありますので、どうかご期待ください。
第二部も新たな展開になり、勇者と呼ばれた男が結局どうなって何をしているのかが語られます。
主人公もパワーアップしたりと見所満載です!
ヒロイン達との恋愛模様や関係にもご注目ください(#^^#)
またストック次第で、毎日2回更新から1回に変更する場合もございます。
その際はご了承お願いいたします。
今後とも応援のほどよろしくお願いいたします<(_ _)>
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