第15話 勇者の幼馴染達の話合い
「今日の朝、ある女子生徒から内密で相談を受けたわ。生徒会長であり、勇哉を知る幼馴染としてね」
重々しく麗花は口を開いた。
冒頭で彼女が念を押した通り、本来なら他生徒からの相談は幼馴染とはいえ外部に話すべきではない。
しかし、「遊井 勇哉」の人間性を誰よりも知る彼女には二人に話さざる得ない心境だった。
彼女達にとっても、それほど困窮に瀕する事態だと判断したから……。
「――その子話によると、勇哉は彼女の友達の子を妊娠させたらしいの」
「え!?」
「嘘ッ!?」
愛紗と詩音は驚く。
麗花はこくりと頷いた。
「本当よ。だから私達が彼から離れても予想以上のアクションがなかったんだと思う。つまり自分の不始末を払拭することで精一杯で、その余裕がなかったんでしょうね」
「だからユウの奴……最近、遅刻も多かったのかなぁ?」
「それで、麗花。その妊娠した子はどうなったの?」
「中絶したらしいわ……勇哉の手引きでね。しかも彼の両親が経営する病院でよ」
「そっかーっ、その子かわいそーっ」
「……彼ならやりかねない。そういう人だもん」
「愛紗の言う通りね。まぁ、そんな感じて親のコネを上手く使って隠蔽できたまでは良かったのだけど……」
「けど?」
「その妊娠した子は親には一切相談しないで、まず勇哉に相談したらしいわ。けど、勇哉は有無言わず強引に中絶を進めて、その日に病院へ行かされ処置を受けたようなの」
「え? それ、ヤバくない?」
「ええ、詩音……かなりまずいわ。しかも、その子の父親、弁護士でね。今、勇哉と彼の両親、病院に対して訴訟を起こしているらしいの」
「……訴訟?」
「下ろした子もショックで、ここ数日くらい登校拒否して発覚したことよ。勿論、その子の親はカンカン……まだ表沙汰になってないけど、学校も訴訟対象になっているみたいよ」
「そんなに大事になっているんだね……無理もないけど」
「さらに、この事がマスコミに流れてごらんなさい……勇哉の両親が経営する病院なんて一瞬で終わるわ」
「自業自得だよ」
「…………」
きっぱりと言い切る詩音と違い、愛紗は口を噤み黙って俯いていた。
その反応に、麗花は眉を顰める。
「どうしたの愛紗? まさか今更、勇哉に同情?」
「ちがうよ……でも、勇くんの気性だとそのイライラを誰にぶつけるのかな? それが心配……」
「そうね……もう一番の八つ当たりの被害者だった愛紗はいないし、詩音も完全に相手にしてないからね」
「きっと、あのグループの誰かじゃない~?」
詩音の言葉に、愛紗は首を横に振るう。
「多分、違うと思う……おそらく、私達が離れるきっかけを作ってくれた……」
「――サキ君ね」
「うん……逆恨みしてくるかも。麗花もそう考えて、さっきサキ君に訊いたんでしょ?」
「ええ、まだ大丈夫みたいだけど。でも兆候はあるように感じたわ」
「ヤバイよぉ! すぐに、サキに知らせないと~!」
「待って、詩音! まだそうなると決まったわけじゃないわ! 今、サキ君に知らせるべきではないわ!」
「麗花?」
声を張り上げる彼女に、愛紗が首を傾げる。
「サキ君には火野君がいるわ。まず彼に味方になってもらいましょう」
「そうだね、ヒノッチはいい人だからきっと大丈夫だよ~! あたしから、こっそり知らせておくから~!」
「じゃあ、火野君の件は詩音にお願いするわ。席替えで近くになったのは幸いね。クラスで何かあったら、すぐに教えて。私と愛紗は外部からの変化に気を配りましょう」
「「うん、わかった」」
こうして、『三美神』達による『幸之を守る会』が結成される。
そうとは知らない、当本人は呑気に自宅でテスト勉強していた。
**********
~火野 良毅side
夜、俺が自分の家でくつろいでいる中、詩音ちゃんから連絡がきた。
最近、サキを通して仲良くなったのでLINEを交換したばかりだが、直接連絡がくるのは初めてだ。
余程、何かあったんだろうと思い応答に出る。
すると、思いがけない内容を聞かされた。
――遊井 勇哉が、俺のマブダチのサキに何かしてくるかもしれない。
その根拠も、詩音ちゃんは話てくれた。
とてもクソみてぇな理由だった。
「――教えてくれてありがと、詩音ちゃん。俺も気配って見てみるわ……ああ、大丈夫だ。サキには俺が手出しさせねぇーよ。じゃあな」
俺はスマホを切る。
「……クソ野郎が。ついに尻尾を出しやがるか?」
遊井 勇哉。
俺は中学の頃から奴を知っている。
人前ではカースト上位のエリート顔し、女子ウケを狙ったように一見して物腰の柔らかい態度だが、本性はそんな紳士的な奴じゃない。
自分勝手、自己
まさにその塊のような男だ。
中学の頃、俺はバリバリのヤンキーだった。
だからこそ、余計に奴の素行を見る機会が多かった。
俺が校舎裏で隠れて一服している中、遊井は女子生徒をこっそり連れ込み、イチャついているのを何度も見かけたことがある。
時には幼馴染の愛紗ちゃんを呼びつけ、目立たないよう腹を殴ったり蹴りを入れていたこともあった。
なんでもストレスの捌け口とか言って笑ってやがったな。
俺も助けることはできたが、あんなクソ野郎に依存している彼女にも問題あると思い見て見ぬフリをしていた。
けど今のサキを純粋に想っている愛紗ちゃんなら速攻で助けに行くけどな……。
その遊井が今じゃ、幼馴染達に見捨てられ、自分が犯した不始末でえらいことになっているらしい。
ざまぁっと、腹を抱えて笑ってやりたいが、怒りの矛先を関係のないサキに向けるのなら別だ。
――そん時は俺がシメてやる。
それがきっかけで停学、いや退学しても構わねぇ。
唯一のマブダチを助けられるなら本望だ。
俺はサキがいてくれるおかげで、こうして楽しく高校生活を送ることができているんだ。
そう、ヤンキーだった俺も、たまたま今の高校に受かって足を洗う決心をした。
けど、いきなり普通の連中に馴染めるわけがない。
しかもあの遊井と同じクラスだ。
入学式早々から、上級生に絡まれていた千夏を助けて問題を起こしたばかりだし、周囲から異質の目で見られていた。
けど、サキだけは違った。
気さくに声を掛けてくれて、色々と話し掛けてくれる。
おまけに、奴も遊井や周りにいる連中を嫌っており、よく悪口を言い合っては盛り上がった。
けど、サキは俺が元ヤンキーだと知らなかったようだ。
だから思い切って話してみる。
もし怖がられ、びびられたら、こいつとの関係もそれまでだなっと思いながら……。
そして、サキは――
「へぇ~っ。リョウ、なんかカッコいいな~」
「カッコイイ?」
「だってそうじゃん。実は俺はって感じでイキれるじゃん! 俺なんて何もねーもん」
「……んなことねーよ。お前凄いわ、へへへ」
嬉しかった。普通な奴なのに、心が広いっていうか寛大すぎてガチで感動しちまった。
同時に遊井じゃなく、こういう奴が『勇者』と呼ばれるのに相応しいんだろうなって本気で思えるんだ。
だから遊井、テメェなんぞに手出しさせねぇーよ。
俺のマブダチにな。
数日後、期末テストが行われた。
その結果が掲示板に張り出された時……。
――ついに事が大きく動き出した。
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