第14話 勇者の様子について訊かれる




 翌日。


「よし、お前らーっ。席替えすっぞーっ」


 朝のホームルームにて。

 担任の田中先生がぶっきら棒に言ってきた。


 他の生徒から「え~っ!?」と声が上げられる。


「テスト前にすんじゃねーよ!」


「先生、今やる意味がわかりません!」


「いいじゃん、早くやろうぜ~っ!」


 中には前向きな発言も聞かれてはいるが。


 この学校は1年と2年のクラス替えはないが、席替えはしょっちゅうやっている。


 特にウチのクラスは頻繁のようだ。


 なぜなら……。


「先生な……日曜日に付き合っていた彼女と別れた……だからお前らの誰かに悲しみを分かち合ってもらいたい」


 ほとんど、田中先生の気分だ。


 しかも、そういうことを生徒の前でぶっちゃけるんじゃねぇよ。


「俺は今の席でいいんだけどな……」


 ぽつりと言ってみる。


 俺の席は廊下側で端の方であり、後ろには親友のリョウが座っている。


 あの遊井は窓側の後ろのほうで『玉座』と呼ばれる席だ。

 なので嫌な奴と離れている絶好のいい位置である。


 特に『玉座』周辺の席の生徒達は、他のクラスから来る遊井グループの溜まり場として休み時間など決まって席を乗っ取られてしまう。


 だから絶対にあの近くには行きたくない。


「先生~っ! 早く席替えしょーっ!」


 詩音が元気よく、「きゃは☆」っと嬉しそうに手を上げて催促している。

 彼女は、遊井から前の席に座っていた。


 絶縁した今じゃ、休み時間は決まって俺のところに避難してくる。

 なので詩音にしたら完璧に離れられる絶好のチャンスなのだろう。


「それじゃ恒例のクジ引きを行う。いいか、どんな席でもくれぐれも先生を恨むんじゃないぞ~! 恨むんなら……恨むんなら、俺をフッたあの女を恨んでくれ~!」


 いや、あんたしか恨まねーよ! 思いっきり生徒への八つ当たりじゃねーか!?


 左右端の生徒がジャンケンして、どちら側が先にクジを引くか決める。あとは順番でクジ箱が回ってきた。


 ちなみに遊井はどんな番号を引いても必ず『玉座』席が当たる。

 どうせ裏工作してるんだろう。


 俺もクジを引き番号を確認する。


 おっ!? 玉座付近は回避したようだぞ!



 そして、当たった番号順に生徒達は席へと座った。



「きゃはーっ☆ サキの隣GET-っ! にしし♪」


 俺に小顔を近づけ満面の笑みをみせる、詩音。


「やったぁ! サキの後ろGET-っ! イエーイ!」


 嬉しそうに両足をバタバタさせる親友のリョウ。


「お前は絶対に嘘だろ?」


 わざとらしくはしゃぐ、リョウに俺は冷たくツッコミを入れる。


 でもベストメンバーで周囲を固められたのには違いない。

 これはこれで超ラッキー♪


 一方の遊井はいつもの『玉座』に堂々と座っている。

 実力で当てたのかわかったもんじゃないが、どうでもいい。


 しかし、さっきから俺達の方をじっと見ているのが気になる。

 普段とは違う、明らかに睨んだような目つき。


 昨日の件もあり、俺に対してだろうか?

 または詩音に向けてなのか?


 少しだけ嫌な予感が胸に過った。




 昼休み。



「ずっるーい、詩音! サキくんの隣なんてぇーっ!」


 今日は悪天候なので食堂でランチしている。

 メンバーは、すっかり定着したいつもの四人だ。


 今でも周囲の生徒達の注目を浴びてしまうが、俺も『三美神』と呼ばれる彼女達と付き合っている以上、ある程度の覚悟も必要だと気にしないようにしている。


 あくまで友達としてだけどね。

 流石に、それ以上望むのは贅沢すぎるってもんだ。


「何よ~っ、アイちゃんだって毎朝、サキにモーニングコールしてんじゃん! あたしだって朝のサキの寝起き声、聞きたいっつーの!」


「だ、だって……そういう約束だもん。ねぇ、サキくん」


「ああ。毎日とても助かっているよ、愛紗」


 俺は微笑んで言うと、隣にいる愛紗は頬を染めて「えへへ」とはにかんでいる。


 照れ顔も超可愛い。


 あれから、俺は愛紗に毎朝モーニングコールして起こしてもらっている。


 甘え声で囁くように……おかげで朝から気持ちがトロトロになってしまう。

 けど糖分いっぱいになることで脳の働きがよくなるのか、目覚めよく元気が貰えるのも確かだ。


 本当に感謝しているよ、愛紗には。


「――貴方達、そうはしゃいでばかりもいられないかもね」


 向かい側の麗花が塩対応っぽい喋り方で言ってきた。もう聞き慣れたけどね。


「どういう意味?」


「……ここじゃ話せないわ。放課後、生徒会室に来て……愛紗と詩音もよ」


 麗花は言うことだけいい、それ以上口を閉ざし俺達の会話に入ってくることはなかった。

 最近、彼女の人となりを知った身としては珍しい態度だと思った。




 放課後。



 俺と愛紗と詩音の三人が生徒会室に入る。


 麗花と友達になる前は、ほとんど来ることがなかったので今でも緊張してしまう。

 ソファーなど置かれており、よく片づけられた綺麗な場所だ。


 窓際に生徒会長用の机と椅子が置いてある。

 麗花はいつもそこに座って生徒会長として活動しているんだろうなぁ。


「いらっしゃい。適当に座って」


 麗花に進められるまま、俺達はソファーに座った。


「それで、麗花。話を聞かせてもらえる?」


「ええ……サキ君に関係あるかどうかわからないけど、勇哉のことでね」


「勇哉……遊井がどうかしたの?」


「最近、彼、サキ君に何か話かけてきたりとかしてない?」


 一瞬、昨日の件が脳裏に過り、思わずドキッとしてしまう。

 別に俺がびびる必要は何一つないんだけど……。


「い、いや、特にないけど……そいや、今日の席替えの時、こっち睨んでいるような気がした。俺か詩音か……」


「多分、詩音ね。勇哉にとっては、その子は裏切り者みたいなものだから」


「へへ~ん。寝取られユウめ、ざまぁ~♪」


「詩音、言いすぎだよ……」


「ええ~っ! アイちゃん、まだあんなの庇うのぅ? ま、まさか――!?」


「何がまさかよぉ!? 違うよ! 今のわたしは一筋なんだから……」


 愛紗は否定しながら、チラチラと俺を見つめてくる。


「そう、どうやら私の気のせいみたいね……ごめんなさい、サキ君」


「いやぁ。俺は別に……結局なんなの?」


「確認よ。ある生徒から相談受けてね……最近、勇哉イライラしているみたいだから。私達のこともあるし、サキ君に何かあったら心配だから……」


「うん、ありがとう心配してくれて。俺は大丈夫だから」


 昨日の『愛紗達の虚言の件』は俺も釘を刺してやったから、奴も当面は大人しいとは思うけどね。


「でも些細なことでも、可笑しなことがあったら相談して。それも生徒会長としての役割だからね」


 麗花はニコッと微笑む。昼休みの様子が嘘のような優しい微笑み。

 このギャップが本当に反則だと思う。



 その後、生徒会長室でお茶を飲みながら雑談して、俺はテスト前もあり帰ることにした。


 麗花は生徒会の仕事があると言い、愛紗と詩音は少し手伝うと話している。



「それじゃ、みんな、また明日なぁ」


 俺はみんなに見送られながら、生徒会室から出た。


 結局、麗花は何を確認したかったのか……遊井がイラついている?


 遅刻が多いから? ある生徒の相談って何?


 よくわからないが……麗花のことだ。いずれ話してくれるだろう。


 俺はそう割り切って自宅へと帰った。





 生徒会室にて。



「麗花……何かあったの?」


「流石、愛紗はお見通しだったわね」


「幼馴染でしょ? 麗花がああいう言い回しは、勇くんのことでサキくんが巻き込まれてないか確認したかったのでしょ?」


「そうよ。でも良かったわ、何もなくて……」


「でも、ユウには何かあった……レイちゃん、話してよぉ」


「そうね。詩音も私の意図に気づいて上手く場を誤魔化してくれたことだし……いい? この事は他言無用よ――」



 麗花は幼馴染の二人に衝撃的な話をした。




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