第11話 勇者とあたし~詩音 side




 ~北条 詩音 side



 サキの家にみんなで泊って、とても楽しかった。


 あんなに心から、はしゃいで笑ったのは何年ぶりだろうか?


 多分、小学校低学年くらいかなぁ……。



 それまでは、ユウともそれなりに仲が良かったんだよね~。


 幼稚園で出会った頃から、ユウこと「遊井 勇哉」はああだったけど、まだズルさはなかった。

 みんなを引っ張ってくれるリーダー的存在で、幼いあたしはそんなユウが好きだった。


 アイちゃんとレイちゃんは実はユウが苦手だったみたいだけど。


 あたしの家はパパが日本人でママがロシア人。

 髪も今は金髪染めているけど、本当は黒っぽいブラウンなんだぁ。


 これも、ユウの指示で染めたことだ。


 あたしはアイちゃんとレイちゃんと比べるとなんの取柄もない女の子だ。


 ただハーフってだけで目立っていた、それだけの存在だったと思う。


 泣き虫でいつもアイちゃんとレイちゃんに守ってもらっていた。


 同い年なのに、まるでお姉ちゃんのような関係だ。


 特にユウに関しては、三人とも同じ境遇だからか一致団結することができより絆も生まれた。


 あたしのパパは実業家で、ユウの親とは接点ないけど、ママが彼のお母さんと仲が良かったみたい。


 ママ友ってやつね。あたしのママは外国人で日本語もまともに喋れないから浮かないよう、ユウのお母さんが色々と面倒みてくれた恩人らしい。


 だから、お友達になってあげるよう言われたのがきっかけだ。


 けど小学の高学年で、ユウはレイちゃんをイジメるようになり、アイちゃんと二人で助けに行った。


 アイちゃんは気持ちが強いから、いつも堂々としていたけど、あたしは全然駄目だった。

 泣きながらでもなんとか守ろうと頑張ったけどね。



 そんな出来事もあってか中学生に入ると、レイちゃんはメキメキと強くなった。


 けど今度は、アイちゃんがユウにイジメられたり変な噂を流されるようになる。


 アイちゃんは必死に我慢していたけど、傍にいたあたしは堪えられなかった。



「ユウ! もう、アイちゃんに手を出すのやめなよ!」


「詩音如きが誰に向かって口訊いてんだぁ? 僕は勇哉だぞ?」


「知ってるよ! だから言ってんじゃん! アイちゃんはあたしの大事な幼馴染なんだから、もうやめてよね!」


「麗花と同じこといいやがって……まぁ、いい。お前は二人より使えないが、利用する価値はある」


「利用?」


「そうだ。お前、明日から髪を金髪にしろ。こういう格好をするんだ。口調も変えろよ」


 ユウは言いながら、あたしに雑誌を見せてくる。


 ――金髪の所謂ギャルの恰好だ。


「嫌だよ、こんなの! どうしてこんな格好しなければいけないのよぉ!」


「似合うからだよ、おまえのハーフ顔になぁ。それで僕の傍にいれば『勇哉はどんな女子とも仲良くできるコミュ力の高い奴だ』っていう評価になるだろ?」


「くっだらない! 何それ!? そんなことしなくてもいいじゃない!? あんたは十分みんなのヒーローでしょ!?」


 あたしが強く否定する。


 グッ!


 すると、ユウは急に首を絞めてきた。


「く、苦しいよ……ユウ……」


「無能なテメェにはそれしか価値がねぇんだよぉ! この白豚がぁ!」


「ひ、酷いよぉ……」


「それにいいのか? 僕の言うことを聞かなくても?」


「どういうこと?」


「お前の母さんのロシア人……もう何年も日本にいるのに、未だに日本語まともに喋れねぇじゃん。頭わりぃよな? どっかの野球かサッカー監督みたいだよなぁ?」


「ママの悪口言わないで!」


 あたしは悔しくて涙を流してしまう。


「また泣くか? 泣きゃ済むと思いやがって……だから、お前は愛紗と麗花と違って欲情すら湧いてこない。それで、よく男達に人気あるよなぁ? 珍獣のハーフだからだろ?」


「うううう……」


「詩音、おまえの母親だって、まだ僕の母さんにまだ助けられてんじゃないのか? いっとくけど、僕の母さんは僕の言う事をなんでも聞いてくれるぞ……たとえどんな理不尽な要求でもな……」


「……わかったよ。わかったから、もうやめてよぉ」


 こうして、あたしはユウに屈服してしまった。


 自分の弱さをつくづく呪いながら……。



 次の日、金髪に染め、服装を変え、話し方を変える。


 アイちゃんとレイちゃんは驚いたけど、「あたしの個性だしぃ~」とおどけて見せた。


 もう自分でも何が正しいのかわからなかった。




 高校に入り、あたしに変な噂が流れた。


 ――ユウのセフレであり、その気になれば誰とでもヤラせるビッチ。


 凄くショックだった。


 でも噂だけで済むならまだマシだ。


 ユウのグループの男子から、しつこく何度も声を掛けらてしまう。

 拒んでも、しつこくなんどでも……頭が可笑しくなりそうだった。


 またアイちゃんとレイちゃんが助けてくれて、男子達から声を掛けられなくなる。


 けど、セフレとビッチの噂はまだ残っている。


 何もかも嫌になっていた。


 もう開き直って、ビッチを演じるしかないと思い始めていた……。



 けど、その時。



 ――サキと出会った。



 ずっと同じクラスなのに、全然気づかなかった。


 あんなに真っすぐな男子だったなんて……。


 こんな、あたしに頭を下げて謝罪してくれた言葉……。



 ――超、嬉しかった。



 同時に初めて胸が高鳴る。


 あの時は普段どおりに、おどけてみたけど内心じゃドキドキして誤魔化して、お礼を言うので必死だった。


 ごめんね……キミのこと今まで気づかなくて……。


 でも良かった。


 サキと出会えて、ユウと決別することができて、ようやく吹っ切れることができたから。


 パパとママにも、これまでのこと全て話した。

 二人共あたしの味方になってくれて、ママもユウとの母親から支援を受けずに一人で頑張ると言ってくれた。


 あたしは、もう誰の奴隷でも家畜でもない。


 ビッチと思いたければ思えばいいよ。


 サキさえ、わかってくれるなら別に構わないと思っている。


 …………。


 本当にキミは不思議な男子だね、サキ。


 こんなあたしを受け入れてくれた、サキ。


 あたしに勇気をくれて強くしてくれた、サキ。


 どの男子よりも本当のあたしを理解してくれる、サキ。


 ……好き好き大好き、愛している。


 サキが望むなら、あたしどんな女の子にだってなれるよ……。


 だから、キミの彼女になりたいよぉ……サキ。



 こんな取り柄のない、あたしじゃ……駄目かなぁ?




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