第10話 勇者の幼馴染達との寝泊まり会
「じゃあ、ご飯も食べたし、一息ついたら始めようかしら?」
麗花が不意に言ってくる。
「始めるって何を?」
「勉強よ。その為に来たんですもの……3~4時間はできるわね」
「え? 今日はもう遅いぞ!? みんなぁ、そろそろ帰んないとヤバイんじゃね!?」
「大丈夫よ。その為に、他の部屋も綺麗に掃除したんだから」
「え?」
「にしし~♪ 今日はサキん家でお泊り会だよ~ん☆」
「なんだってぇぇぇっ!?」
詩音の唐突な発言に、俺は驚愕する。
「と、泊まるって……三人が俺ん家に!? どうしてぇ!?」
「勉強するに決まっているじゃない。他に何があのよ?」
「そ、そうだけど……だけど、麗花……生徒会長として、こういうのはよくないんじゃない? 男子の家に泊まるなんて?」
「大丈夫よ、親には適当な理由を言ってるわ。それに狭いアパートとかなら抵抗もあるかもしれないけど、これだけ広いお家だもの。他のお部屋もあるんだし、シェアだと思えばいいんじゃない? 第一、私達はサキ君を信頼しているから問題ないわ」
そっちが問題なくても、俺が大有りだわ!
「ユウの家なら絶対に泊まらないよ~、それこそ何されるかわからないからね~。でも、サキは大丈夫だね~、エッチなグッズもなかったしね~♪」
いえ、詩音さん。
それは貴方が気づかない場所に隠蔽しているだけです、はい。
「やっぱり迷惑かな、サキくん?」
「そ、そんなことないよ、愛紗……みんなさえ良ければだけど」
別にお泊り自体は問題ないさ……俺自身が節度を守れば。
正直、そこが問題なわけで……。
幸い二人っきりってわけじゃないから……いや、幸いなのかこれ?
寧ろこんな魅力的な三人が俺ん家に泊まる状況ってやばいんじゃないか?
けど結局、俺の優柔不断のおかげで、三人が泊まることになった。
とりあえずリビングで囲む形で勉強会をする。
「ねぇ、勉強終わったら、みんなでトランプしょー!」
「たまにはいいわね」
詩音がテンション上げて提案し、麗花も嬉しそうに頷いている。
なんか修学旅行気分で俺も楽しくなってくる。
「サキくん、迷惑じゃなかった?」
ずっと気にかけてくれる優しい愛紗。
「うん、楽しいよ。こんな賑やかな状況って久しぶりだからさぁ」
「そういえば、サキって、ヒノッチ以外に友達いないの~?」
「詩音、失礼だよ!」
愛紗が慌てて制してくれるが、俺は「気にしなくていいよ」と返答する。
「俺、中学の頃は割と友達いたんだけど、高校に入って友達と離れてから孤立することが多くてね……特にウチのクラスってああだろ?」
あの遊井といい、それに取り巻くグループ連中といい。
どうも肌に合わなかった。
それ以外の男達とも挨拶とか世間話するくらいで、リョウのような親友と呼べる間柄じゃない。
みんな何を考えているか、わからない連中ばかりだからな。
「……ごめんね、サキ~」
「いや、詩音が謝る事じゃないよ……あくまで俺の問題だから」
詩音も色々噂は立てられていたけど、同じクラスになっていた時から眩しかった。
とても俺と接点があるとは思えない、遥か遠い存在だと思っていたから。
だから、こうして彼女が家に泊まるなんて、つい最近までの俺では想像できる筈もない。
「当時、リョウも俺と同じように孤立していてね。まぁ、あいつの場合は入学式初日で上級生ボコったのが周囲にバレて密かに危険視されていたようだけどね」
そんな中、俺が声を掛けて孤立している者同士仲良くなったってわけだ。
実はリョウが元ヤンって知ったのは後々だけどな。
「ヒノッチの彼女さんは~?」
「ああ、千夏さんね。隣のクラスにいるよ。付き合うようになったのも、その上級生に彼女が絡まれていたところを助けたのがきっかけだからね」
「ヒュ~ッ! ヒノッチ、カッコイイ~!」
この場にいないのに、詩音から褒められて悔しいがその通りだ。
奴は男気溢れてカッコイイ。
きっと身体的スペックなら、遊井を超えていると思う。
「その時の千夏さんの気持ちわかるなぁ。わたしも同じだから……」
愛紗が頬を染めて、俺の方を見つめている。
「え? どうした、愛紗?」
「なんでもないもん……」
少し唇を尖らせる愛紗。ちょっぴり怒り顔だが、そこも可愛い。
どうして怒っているのかはわからないけど。
勉強会も終わり、なぜか俺の部屋でトランプ大会が始まった。
俺はパジャマ姿で、三人ともそれぞれ用意した寝衣を着ている。
今思えば、みんなやたら荷物持ってきていたが、初めから泊まることを計画していたのだろうか?
まっ、楽しいからいいけどね。
にしても、三人の寝衣姿……。
愛紗はピンク柄でフリルがついた如何にも可愛らしいパジャマだ。髪型もサイドポニーテールがよく似合っている。
麗花は無地のシンプル系だが、その強調された胸の曲線美と抜群のスタイルで思わず見惚れてしまう。
詩音はもこもこしたルームウェアで、動物の耳がついたフードを被っている。ぬいぐるみのような可愛さに、このまま家に置いておきたくなる。
う~ん……。
改めて、この女神達の姿を俺が独占していると思うと、逆に罪意識を感じてしまう。
彼女達の信頼があってからこそとはいえ、本当に勘違いしてしまいそうだ。
俺、しっかり。
ババ抜きにて。
「いぇ~い、あがり~ぃ♪」
また詩音が勝った。この子、案外強いぞ。
かなりダーティな心理戦を仕掛けてくるし、実は勝負師なのか?
「こんなの可笑しいわ、イカサマよ!」
麗花がムキになってキレている。
けどババを持った瞬間、必ず顔にでるからすぐバレる。
多分、敗因はそこだろう。
イコールとても正直な性格なのだとわかった。
「うふふ、面白いね」
愛紗は勝敗よりも周囲の雰囲気を楽しんでいる。
穏やかで優しい彼女ならではだ。
おかげで詩音と麗花のよい調和的存在となっている。
ほんと、個性はバラバラだけど仲がいいよな。
これが本来の幼馴染ってやつなんだろう。
俺にはそういう存在はいないから少し羨ましい。
だからこそ、遊井という人間がわからない。
こんな素敵な子達を自分のカーストを上げるため利用して蔑ろにする奴の心理が……。
多分、一生理解することはないだろう。
しかし、ふと思う。
夕食後に考えていた、遊井のこと――このまま黙って三人を放置していくのだろうか?
もし彼女達に危害を及ぼすような真似をしたら、その時は俺が赦さない。
楽しかった遊びも終わり、女子達は空いている親の寝室で寝ることになった。
別室とはいえ同じ屋根の下で寝ているというドキドキはあるも、俺は賢者として自分の部屋で大人しく寝ている。
ほとんど眠れなかったけどね。
次の日、午前午後と遊びと雑談を交えながら勉強し、楽しい時間はあっという間に終わりを告げた。
「サキくん、とても楽しかったよ、ありがとう!」
「こちらこそ、愛紗。色々としてくれてサンキュ」
「じゃあね、サキ君。あとはサキ君次第よ」
「うん、色々と教えてもらって助かったよ、麗花」
「サキ~、バイバイ~☆ 次は必ずエログッズ見つけるからね~、にしし♪」
「いつでもかかって来いや! 詩音が永遠に見つけられない所に隠してやんよぉ!」
俺もなんか、この子達とのやり取りというか、接し方が板についてきたような気がする。
――しかし、その傍らで。
俺が懸念していた通り、あの男が少しずつ動きを見せていた。
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