第6話 勇者の幼馴染に褒められる
俺は学園カースト最上位の『三美神』と称される彼女達に囲まれて楽しく昼食を食べている。
昨日までなら、とても信じられない状況だが、夢ならどうか覚めないで下さい。
……神様。
っと、心の奥で考えている中、俺はある事に気づいた。
「あっ、そうだ。麗花、なんか俺に面白い話があるって言っなかったけ?」
「ええ、サキ君のこと色々と調べさせてもらって、ある事がわかったんだけど――」
「ちょっと待って? 調べたって何を?」
「貴方が高校に入学してからの成績表や身体測定表なんかをね。あとは生活指導とかかしら」
「一体どうやって、そんな情報仕入れてくるんだよ?」
「それは生徒会長だもの……色々と裏技は持っているわ」
なんだろう? 急に麗花がおっかなく見えてきたぞ?
ある意味、塩姫どころかマッド臭がする。
「んで、俺の何が面白いの? 特に悪いことした覚えはないんだけど……」
「そうね。凄く平凡だった。類に見ないくらいの普通……そう普通だったわ。普通すぎて驚いたくらいよ!」
あれ? 俺、ひょっとして麗花にイジられてない?
必要以上に『普通』って連呼しすぎだよね?
「麗花……そんなにサキくんのこと『普通』って言わなくても……別に、わたしはいいと思うよ」
「そうそう、決して見劣りしているわけじゃないんだからね~ん。でしょ、サキぃ~、にしし」
愛紗や詩音までフォローしてくれる。
けど、何故だろう……悲しくなってきたなぁ。
目頭が熱くなってきたわ……。
「――そう! 詩音の言う通り見劣りしていないのよ、サキ君は……どの分野においてもね! これは凄い才能よ!」
「え? 才能? 普通なのに?」
「あのね、サキ君。人間って何かしら長所があって短所があるのよ。勿論、人によって格差はあるわ。でもサキ君にはそれがない。数字化してグラフにしても、ほぼ同じボーダーラインなのよ……」
「それってどういう意味?」
「つまり、サキ君には欠点がないの。逆にいいところもないんだけどね」
やっぱり悪口じゃねぇか?
そろそろ、この眼鏡美人姉さんに怒っていいか?
「まぁ、そうムッとしないで、サキ君。私はとても高評価しているんだから……ね?」
言いながら、麗花は俺の手を握ってきた。
「え? あの、麗花さん!?」
「短所がないってことは、貴方は他の男子より優れている証拠よ。長所なんて努力次第でいくらでも伸ばせるわ……私なら貴方をいくらでも磨き鍛え伸ばすことができる」
「そ、そぉ?」
「ええ、そうよ……あの勇哉なんて、ものともしないくらいにね。つまり、サキ君はダイヤの原石ってわけ」
「ダ、ダイヤの原石? 俺が?」
「そっ、可能性が無限大ってことよ……うふ」
麗花は俺を見つめながら微笑みを浮かべる。
切れ長の目尻が下がり、凛とした美人顔がちょっぴり可愛らしくなる。
あの塩対応で有名な生徒会長が、こんな風に微笑んでくれるなんて……。
しかも俺限定で……。
す、凄げぇ、胸が高鳴ってくる。
やばい……これって反則だと思う。
「れ、麗花! 抜け駆けは駄目ぇ!」
愛紗が両腕を振って、俺達の間に割って入ってくる。
握っていた手が離された。
「フフフ。ごめんなさいね、愛紗……」
「まったく、レイちゃんはすぐトランスに入っちゃうからね~! まだ、サキはみんなのサキだからね~!」
いえ、詩音さん。サキはまだ誰のモノでもありません。
「まぁ、俺も麗花の評価を前向きに受け止めるよ。でも、あの勇者様をものともしないなんて大袈裟かなぁ?」
「勇者様って?」
愛紗が首を傾げる。
そっか……カースト最上位である、この子達は奴が陰でなんて呼ばれているかなんて知るわけがないか?
俺は、みんなに「遊井が、みんなに勇者って呼ばれている」旨を説明した。
「……カースト上位の勇者ねぇ。まぁ、そう思わせている点では勇者なんでしょうね」
「麗花、わたしは違うと思う! 本当の勇者ってもっと勇敢でカッコイイと思うの……サ、サキくんみたいに」
愛紗の最後の言葉だけ、俺の耳に聞こえないくらいの小声だった。
「あたしも違うと思うな~。勇者が幼馴染を利用して勝手に嘘の噂流したりするぅ? セフレだなんて言ったりするぅ? ありえんてぃ~……」
被害者の詩音は当然ながら呆れ口調だ。
さっき教室から出る前も結構緊迫したからな。
幼馴染とはいえ、三人との亀裂は相当根深いようだ。
「――まぁ、次第に勇哉もこれから少しずつメッキが剥がれていくんでしょうね。もう私達がいないんですもの」
「どういことだい、麗花?」
「前に喫茶店で少しだけ話したわね? これまで勉強面やスポーツ面は、ほとんど私が見て支援してきたのよ。先程、サキ君に話したみたいにデーター則って助言したり色々とね。早い話、勇者様のプロデュース兼トレーナーってところかしら?」
勇者のプロデュースとトレーナーねぇ。
それまた凄い女子だな。
「これからは勇くんが一人で全てやらなければいけないね……わたしも、もうあのグループには一切近づかない。お母さんにも、これまでのこと全て話した上で納得してもらったから……」
愛紗が親に相談してまで縁を切りたがるなんて……よほど決別の意志が高いようだな。
「……あのプライドの高いユウが同じグループの男仲間に頼るとも思えないしね。それこそ、本物のセフレにでも頼むんじゃね~?」
「本物のセフレだって? じゃ詩音、そっちの噂は本当なのか?」
「そだよ~。きっと同じグループ女子の何人かだね~。あたしは、それがバレないようにするためのカモフラージュに使われたってわけ。ほら、あたしって金髪に染めているし、ハーフだから目立つじゃ~ん? 見た目もこんなだしぃ~」
「……酷い、なんか最低だな」
「うん。だからこそ、あたし嬉しかったよ……サキにああ言ってくれて、あんがと☆」
「あ、いや、俺なんて……あっ、でも詩音はそのままでいいと思うよ。個性的でかわいいと思う」
「えへへへ……照れちゃうっつーの、にしし♪」
詩音は、真っ白な歯ときゃぴとした笑顔を見せてくれる。
うん、ガチでかわいい。
「ぶーっ、詩音ばっかりずるいもん! サキ君と同じクラスだからいいじゃない!」
妙なキレ方をする愛紗。今の会話と同じクラスとか関係ないような気がする。
こうして楽しい昼食とお喋りが終わった。
一つ感じたことは、三人とも以前から遊井に対して気持ちが離れていたということ。
その原因も遊井自身が招いたことであると知った。
こんな素敵な子達を奴は散々自分の格上げと虚栄のために利用し、傷つけたことにあると思った。
きっと遊井だけが「幼馴染」という立場に甘えきっていたのかもしれない。
それこそ、ゲームのように自分の都合のいい所でリセットすれば、彼女達といつでもやり直せる感覚なのか? チョロインとして何も考えずに軽んじていたのか? 俺にはわからない。
でも、彼女達はゲームキャラじゃない。色々と悩み考え生きている女の子だ。
甘えるのもいいけど、時には守って一緒に悩んであげる必要だってある。
俺もこうして、彼女達と仲良くなれたのも何かの縁だ。
これからは『三美神』とかカースト最上位とか、周囲の目なんか気にしないで接していきたいなぁと思う。
いや、そこが一番難しいんだけどねぇ……。
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