第5話 勇者の幼馴染達をNTRした扱いされる




 翌日の朝。



「サキぃ~、チィース☆」


 同じクラスの詩音が敬礼して挨拶をしてくる。


「ああ、おはよう」


「今日さ~お昼ぅ、アイちゃん達と一緒に食べよぉ~?」


「うん、俺はいいけど……」


 チラッと親友のリョウの方を見る。


「火野っちも、どう?」


「ひ、火野っち? まぁいいや。遠慮するわ……俺は千夏のとこで済ませるから気にしないでくれ」


「そう、ざんね~ん♪」


 いや、詩音。大した残念そうに見えないぞ。

 ついでにリョウに声かけたって感じだろ。


 詩音は「バイバイ~またね~」と手を振って自分の席へと戻った。


 その時、遊井と目が合う。


 あくまで無表情だが、俺達のやり取りをじっと見ていたようだ。

 奴にどう思われているかわからないけど……。

 

 愛紗だけでなく、詩音とも急接近しちゃったもんだから不思議に思われるのも無理ないかもなぁ。


 昨日の話だと遊井と幼馴染であるあの子達も、これまで奴から受けた仕打ちに前々から、いい加減見切りを付けたがっていたようだし……。


 俺が愛紗を助けたことで、きっかけを作る形となってしまったのだろうか?


 だけど本を正せば、これまで彼女達を踏み台にしてきた遊井が悪いんじゃね?




「おい、サキ」


 ふとリョウが声を掛けてくる。


「ん? ああ、昼の件ごめんな……」


「いや、俺のことは気にするなって言ったろ……まぁ、困ったことがあったら相談に乗るから、いつでも言ってくれ」


「え? ああ、サンキュ」


 どういう意味かわからなかった。



 ――でも、すぐに理解する。



「どうして北条が、神西なんかと?」


「名前で呼び合っていたよな……?」


「昨日の南野ちゃんといい……どうなってんだ?」


 まずくね?


 他の男連中が、俺達のこと何か囁いているじゃねぇか?

 どういう状況だ、これ?


 リョウの奴、これを懸念してああ言ってくれたのか?

 




 そして昼休み。



「サキく~ん、一緒にお昼食べよ♡」

 

 ガラッと教室のドアを開け、愛紗が入ってくる。

 その後ろには当然と言わんばかりに、麗花も立っていた。


「ええ~っ!?」


 驚いたのは俺じゃない。


 遊井と同じグループの男子どもだ。



「ねぇ、サキ君。キミに面白い話があるから、良かったら屋上で食べない? 愛紗がね、みんなのお弁当用意してくれたのよ」


「えへ、手作りだよ」


 愛紗は手に持っていた大きめのバスケットを自慢げに見せてくる。

 

 手作り? 愛紗の? 嘘、マジで? うわ、ヤベ超食いてぇ!

 にしても麗花も俺に面白い話だと? それはそれで気になるぞ。


「わかった、行くよ」


「待って~! あたしもぅ~!」


 詩音が仲間外れにしないでと内股で走ってくる。

 


「おい、勇哉! 一体、どうなってんだ!? どうしてあの三人がいきなり、神西と!?」


「お前、あの子達に何かしたのか!?」


「ねぇ、勇哉! 答えてよぉ!」


 ああ、遊井グループがトラブっている……。

 奴ら勝ち組の象徴と言える『三美神』が、いきなり村人モブキャラの俺に懐いているもんだから、そりゃ普通に驚くわな。


 俺もこの状況が信じられねーし。


 他の男子生徒にも相変わらず不審な眼差しと、俺に対してひそひそ話が囁かれている。

 皆まで言うな者共よ。

 俺だって自分の身分くらいわきまえているさ。


「プププ……サキッ、お前もう最高!」


 唯一、遊井グループを嫌うリョウだけは腹を抱えて笑いを堪えていた。

 親友よ。お前の存在だけが唯一俺のメンタルの支えだよ。

 でも、こいつ……俺を餌に楽しんでいるような気がするんだけど?



「――ったく、僕への当てつけかい? 三人ともぉ?」


 いきなり遊井が周囲に聞こえる大きな声で、溜息を吐いて言ってきた。


 クラスのほとんどが、そんな勇者様に注目する。


「一昨日、ちょっと彼女達とこじれちゃってね……それで、神西君を巻き込んでああ言う態度に出ているんじゃないかな?」


 遊井のもっとらしい説明に、奴のグループと周囲は「なんだ、そうか……」と妙に納得する。

 要は幼馴染の彼女達は、遊井に不満があり当てつけのつもりで、一時の気の迷いで俺と仲良くしだしたと言いたいのだろう。

 

 つまり、彼女達の機嫌さえ良くなれば、いつでも自分達の下へ戻ってくるぞっと周囲に言いたいらしい。

 流石、腐っても成績優秀。実に上手い切り返しだ。


 ってか、実際にそうかもしれないしな……。


「――違うもん」


 愛紗は俯き小声で呟く。


「愛紗?」


「わたしは、サキくんと本当に仲良くなりたいから……一緒にいたいから、誘っているんだもん……気まぐれや利用なんかしていない!」


 涙声で訴える主張に、周囲の誰もが何も言えなくなる。


 ……見た目だけじゃない。この子は心も綺麗だ。

 俺は自然とそう思った。


「勿論わかっているよ、愛紗。それに麗花と詩音も……俺は大丈夫だから、ね?」


「そうね。早くお昼を食べに行きましょう――ここは空気が悪いわ」


 麗花は眼鏡越しの切れ長の双眸で、キッと遊井達を睨む。

 

 俺達は何も言わず、そのまま教室を出て行く。


「にしし~♪ すっかり寝取られてやんの~、だっせ~♪」


 最後に詩音が捨て台詞を吐いていた。


 にしても、寝取られって……もっとマシな言い方あるだろうに……。


 下手な誤解を生むようなこと言わないでくれます?





 屋上にて。


 生徒会長の麗花の特権で用務室からシートを借りて敷き、俺達四人は輪になって座る。


 愛紗がバスケットを開けて、中身を披露してくれた。


「うおっ!? これ全部、愛紗が作ったのか!?」


「……うん。サキくんのお口に合えばいいんだけど……」


 そんなの俺の口が合わせるよ!

 いや、その必要はないな。どうみても美味しそうだ。


 玉子焼き、手作りハンバーグ、タコさんウィンナー、等々が綺麗に並べられている。

 沢山食べれるように、一口サイズのおにぎりやサンドイッチも嬉しい。

 手間暇かかった感が満載だ。


 きっと随分と早起きしたんだろうなぁ……。


 そのあまりにもゴージャスな内容に俺は思いっきり感動してしまう。


 愛紗は紙の小皿を用意し、一人ずつ装って渡してくれる。

 随分と気配りのできる子だ。

 まるで優しいお母さんみたい……いい意味でね。


 んで食べてみると、これが美味いのなんの・ ・ ・って……南野なだけに。

 特に玉子焼きは絶品だね。

 絶対に、いいお嫁さんになれると思う。


「サキくん、どう? 美味しい?」


 愛紗は自信なさげに控えめに訊いてくる。


「うん! 凄く美味しいよ! それに久しぶりに手作りだから嬉しくてぇ!」


「……サキくんって、一人暮らしなの?」


「うん……かなぁ? 両親は二人共、海外で単身赴任だからね……帰ってくるのは正月くらいかな。一軒家だから掃除とか大変でね、全部独りでやらなきゃいけないじゃん?」


「そ、そうだね……ふ~ん、サキくんって一人暮らしなんだぁ」


 愛紗は意味ありげに納得している。


 何を考えているかわからないが、こんな可愛い子が妙なことを考えるわけはない。



 この時の俺はそう思っていた。




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