第4話 勇者とわたし~愛紗 side




 ~南野 愛紗side



 わたしは幼馴染の勇くんと決別し、神西くんこと「サキくん」とお友達になった。


 颯爽と現れ、不良達からわたしを助けてくれた、まるで王子様のような男子生徒だ。



 勇くんなんて、あっさり見捨てて逃げて行ったのに……。


 けど別に悲しくもないし失望もしていない。


 だって、彼はそういう人なのは前々からわかっていたから。




 幼馴染である、遊井 勇哉くんとは幼稚園からのお付き合いだ。


 その頃から彼は誰よりも目だっており注目を浴びていた。

 

 私の母はシングルマザーであり看護師だ。

 勇くんの両親が経営している所に務めていることもあり、仲良くしておきなさいと言われた。


 当時のわたしはよくわからないまま、勇くんと接し溶け込むように仲良くなった。

 麗花や詩音とも、その頃に一緒になり今では姉妹のような関係になる。


 今思えば幼稚園から小学生低学年の頃が、みんな仲が良く一番楽しかったのかもしれない。



 問題はそれ以降からだった。



 勇くんにも男友達ができ、彼は次第に色んなことを覚え始める。

 良い事から悪い事まで、子供らしく吸収していく。


 けど、いつからか他人を見下すようになっていた。

 

 おそらく彼に逆らう者はなく、思い通りになんで手に入る。

 周囲と見比べると、自分を王様か何かと勘違いし始めたように思えた。


 それでも、わたしは彼の傍にいた。


 別に好きだったとか優しさからじゃない。



 ――傍に居なければいけなかったからだ。



 最初の犠牲者は、麗花だった。


 彼女は他の女子よりも発育がよく、小学生の高学年では胸が大きかった。


 勇哉は教師の目を盗み、クラスのみんなの前で麗花の胸を触って自慢する。

 まるで麗花を自分のオモチャだと言わんばかりだ。

 酷い時には羨ましがる男子達を並べさせて順番に触らせようとまでした。


 見るに見兼ねて、わたしと詩音が止めに入った。

しかし男子達は悪ふざけで、そんなわたし達のスカートをめくったりしてくる。


 昔は麗花も大人しい方だったし、詩音は今と変わらず泣き虫のままだ。


 唯一、わたしだけは絶対に涙は見せず、毅然して二人を守ってきた。


 意外でしょ?



 中学に入り、少しだけ状況が変わる。


 麗花が強くなったことだ。


 元々、秀才で頭の良い彼女は学級委員長や生徒会長を率先してやることで、教師と生徒達から注目を集めることで自分の身を守るようになった。


 そして勇くんに勉強や運動やスポーツなどサポートすることで、彼の成績や立場をより上げ、一目置かれるようになり標的から外させた。


 良かったと思うと同時、今度は彼の標的がわたしへと移った。



 中学二年ある日――



「おい、愛紗。ヤらせろよぉ」


「何言っているの、勇くん? 嫌よ!」


「周りに言っちまったんだよ。お前と僕が初体験済みだってなぁ」


「どうしてそんなこと言いふらすの!? 信じられない!」


「その方がカッコつくんだよ! いいからヤらせろ!」


「嫌よ! 絶対に嫌ッ! そこまで勇くんに従う義務はない! お母さんに言いつけてやるんだからぁ!」


「言えよ。僕の父さんに言ってお前の母親をクビにしてもらうから。父さんが駄目でも、僕の母さんは絶対に言うことを聞いてくれる。お前、父親いないだろ? 母と子で路頭に迷うよなぁ?」


「さ、最低ッ!」


「うるせーっ!」


 ガッ!


「うぐっ!」


 勇くんは拳でわたしの腹部を殴りつけた。


「この僕に向かって、その口の利き方は許さない! 愛紗、お前は僕の言うことを聞かなければいけなんだ!」


「……それでも嫌ッ! 殴りたければ殴ればいいでしょ! これ上、力づくでわたしをどこうしようとするなら、この場で舌噛んで死んでやるんだから! そうなったら一番困るのは勇くんよ!」


「ぐっ……こいつ……まぁ、いい。初体験はその辺の女子ですまわ。お前はフリだけでもしておけよ。一応、男子どもには人気が高いんだからな、見た目だけのアイドルさん」


「……アイドルじゃないもん!」


「どうでもいい……愛紗、僕から逃げられると思うなよ。麗花には手を出せなくても、まだ詩音がいるんだ。それと母親のことも忘れんなよ」


「わかっている。でもフリよ、あくまで……。わたしは勇くんにそこまで屈服しない!」


 勇くんは、わたしの言葉を無視し何事もなかったようにグループの中へ溶け込んでいく。


 容姿端麗で成績優秀のエリート、遊井 勇哉として――

 


 今のわたしでは、彼から逃れる術はない。



 いずれ、彼もわたしに飽きてくるだろう。


 それまで待つしかないと思った。



 その後も勇くんはイライラする度に、陰でわたしを呼びつけ当たり散らすようになった。


 わたしは何も言わずに堪えた。

 我慢することで、詩音への被害が軽減されると思ったから。


 後はお母さんかな……ずっと女で一つで育ててくれたから……。



 表向きは仲の良い懸命な幼馴染を演じつつ今に至っている。


 周囲から『三美神』とか学園のアイドルとか言われているけど全然嬉しくなかった。

 

 だってグループや周りのみんなは、わたしの表面しか見てないから……誰も内に秘めた内面まで見てくれるような人達ではないと思えた。



 ――けど転機が訪れる。



 勇くんが、わたしを見捨て逃げたことだ。



 これで、わたしの中で本当の意味での踏ん切りがついた。

 

 麗花と詩音と結束して、彼から離れることを誓う。


 たとえ何か言われても無視すると決めた。


 しつこく何かしようとすれば声を大にして、これまでのことを打ち明ける。

 わたしがみんなの注目を浴びる存在なら、きっと声は届く筈だから。


 勇くんの弱点は知っている――とにかく自分をよく見せたいこと。

 常に誰よりも周囲の風評を意識しているのだ。



 決意したその日、お母さんにも今までの事を含めて打ち明ける。

 わたしのことを抱きしめて謝ってくれた。

 お母さんは務める病院を変えるから、気にしなくていいまで言ってくれる。


 もう、わたしには怖いモノは何もない。

 

 これからは自分のために生きるんだ。



 そんな、わたしも素敵な人と友達になれた。



 ――サキくん。



 わたしを助けてくれただけじゃなく、わたし達の話を嫌な顔せず聞いてくれて、傷ついた詩音にも誠意を見せて場を和ませてくれた。


 あんな素直で堂々とした男子は初めて……。


 本当にカッコイイと思った。


 同年代の男子に向けてそう思えたのも初めてだった。


 サキくんのこと思うだけで胸がドキドキしてくる……。


 これが、初恋なのかな……?


 ねぇ、サキくん。


 わたし、サキくんのことがもっと知りたい。


 もっと仲良くなりたいの。



 迷惑でなければ……わたし……ね。



 サキくんの彼女になりたい――




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