第3話 勇者の幼馴染達と友達になる
「お待たせ~♪」
金髪ギャルの北条さんが店に入ってきて、こっちに向けて手を振る。
「詩音、遅いよぉ」
「アイちゃん、めんご~☆ 勇がなかなか解放してくんなくてぇ~」
きゃぴっと謝りながら、彼女はなぜか俺の隣に座って来る。
しかも、やたらと密着して。
この子って気に入れば、遊井以外の男でも寝てしまうと言うビッチの噂もあるからな。
けど、いい香りだなぁ……おまけにぷにゅっと柔らかい。
「詩音、一体何をしていたの? 貴方達二人で?」
「ん~? レイちゃんとアイちゃんが悪いんだぞ~? 昨日の件から、LINEでもずっと無視しているでしょ? だから同じクラスのあたしが、ユウに捕まって問い詰められるんだっつーの!」
「それで、勇哉はなんて言っているの?」
「ん~、なんであんな男に礼をするんだ? どこ行っているんだ? とかそんな感じぃ~♪」
あんな男って俺の事か?
やっぱ、ああいう奴は、俺なんてその程度の存在なんだろうなぁ。
「それで、愛紗への謝罪は?」
「あるわけないじゃ~ん。プライドだけは一人前以上なんだから~、にしし♪」
北条さんは白い歯を出して悪戯っ子のように笑う。
対照的に東雲さんは両腕を組んで、わなわなと両肩を震わせている。
「……堪忍袋の緒が切れたわ……もう、勇哉とは絶交ね!」
「麗花……」
東雲さんの発言に南野さんは悲しそうに見つめる。
「愛紗、これでわかったでしょ? あいつはそういう奴なのよ……これまで散々私達を利用してきた癖に、最後に貴方を見捨てた時点で終わっているのよ」
「……うん」
なんか凄い話になってんぞ。
俺はどんな反応をすればいい? いや空気でいるべきか?
「ごめんね。神西くんの前で、こんな話して……」
南野さんが謝ってくる。
どうやら空気でいることは許されないようだ。
「いや、俺は別に……でも三人とも確か遊井君とは幼馴染で仲もいいんだろ? 昨日のことは、相手が相手だし仕方ないところもあるんじゃない?」
俺は軽蔑しているけどな。
けど、こうして南野さんが無事だったことだし、きちんと謝罪すれば水に流せる話でもあるだろう。
東雲さんは深く溜息を吐く。
「……神西君っていい人ね。気に入ったわ。私達が怒っているのは昨日の件だけじゃない。これまでのこと全てよ」
「これまでのこと?」
「そう。子供の頃から私に悪戯したり、大人しい愛紗をイジメたり、気の弱い詩音を顎でコキつかったり……散々な目に合わされていたのよ」
「でも、なんだかんだ幼馴染だし、みんな仲は良かったんだろ?」
「……彼の両親は有力者だから。私達の両親も仲良くしとけって、うるさかったのもあるわ。あとは……まぁ色々とね。特に私は彼に頼られることが多いから、その時は助けてあげたわよ。勉強やスポーツ向上の支援したり……時には彼女のフリもしてあげてたわ」
それじゃ中三の頃、東雲さんと遊井が付き合っていたって話は嘘だったのか?
「けどね……高校に入ってから、どうしても赦せないことがあったの」
南野さんは悲しそうな表情で、俺の隣にいる北条さんを見つめる。
さっきまで元気だった北条さんもこの時初めて、しゅんと顔を背けた。
「――神西君、聞いたことあるわよね? 詩音のこと……」
「え? な、なに?」
東雲さんに問われ、俺は思い当たるもあえて知らないと装う。
「詩音が勇哉のセフレって噂よ」
「あ、ああ……まぁね」
「……しかも、気に入った男子といつでも寝れる子だって」
南野さんまで言ってくる。
清楚系で普段なら絶対に言わなそうな台詞だ。
「う、うん……それね。けど、あくまで噂だし……」
俺は再び北条さんに視界を置く。
すると……。
「あ、あたし……そんな女じゃないしぃ……そんなんじゃないしぃ……」
北条さんは悔しそうに瞳に涙を溢れ出し、ぽろぽろと大粒の涙をいくつも流していた。
「全て勇哉が流した噂よ――」
「え?」
「勇哉が自分の権威をより大きく見せるために、
「嘘だろ? そこまでする?」
「――するよ。神西くんはいい人だからわからないけど、勇くんはそういうことを平気でするの……わたしも彼と中二で初体験した相手になっているから……まだ誰ともキスだってしたことないのに……」
えっ!?
つーことは南野さんは、まだ誰とも……。
いや、食いつくところ、そこじゃねぇだろ!
日頃から優しそうな天使の南野さんが、ここはできっぱりと言い切るなんて……。
しかし、あの遊井が、自分の地位を守るために、幼馴染達を利用してそこまでしていたなんて……。
当然、噂を立てられた側としては堪ったもんじゃない。
まさに彼女達側にとっては名誉棄損以外何者でもないなぁ。
「えっく……だから、あたしぃ……しょっちゅう、一緒にツルんでいる男子達にも裏で声を掛けられてさぁ。勇哉なんかより俺の方がいいぞなんて……あいつら、ユウの前じゃ何も言えない癖に……」
北条さんは手で零れる涙を拭いながら訴えている。
あの一見、爽やかグループが裏でんなことしてたのかよぉ……。
もう、何がカースト上位だ! 品位の欠片もねぇじゃんか!
北条さん、可哀想に……。
俺はスッと、その場から立ち上がる。
「神西くん?」
南野さんがきょとん瞳を丸くする。
俺は人目も
「……神西?」
「北条さん、実は俺も誤解してました! どうもすみません!」
「え?」
「けど、嘘っぱちだってわかったよ! 北条さんは身も心も綺麗だよ! だから今度、そんな噂を聞いたら、俺が全否定してやるからさぁ! だから安心してくれよぉ!」
俺は頭を上げると、北条さんを始めとする南野さんと東雲さんの三人は唖然として完全にフリーズしていた。
あれ? これ? まさか、やらかしちゃったやつ?
すると、
「……きゃは☆ 何、それ~っ。超ウケるぅ~♪」
「え?」
突然、明るい声を出す北条さんに俺は困惑する。
「神西、見た目によらず熱いっつーの……でも嬉しい、あんがとぉ」
「ああ、うん……」
「ねぇ、神西って、火野から『サキ』って呼ばれているよね~?」
「うん、どうして知ってんの?」
「そりゃ、同じクラスだしぃ~。男子のことは大体チェックしているよ~♪」
おい、北条さん。そういう事言うと、せっかく払拭しつつあるビッチ説がまた浮上してくるぞ。
「あたしも、サキって呼んでいい~?」
「ああ、いいよ。北条さん」
「詩音でいいよ~、サキ。えへへへ~♪」
詩音は白い歯を見せニッコリと微笑む。
うん、可愛い。こっちまで元気になってくる。
やっぱり、詩音は笑顔が一番だ。
「あのぅ、神西くん! わたしも、そう呼んでいいですか!?」
南野さんは挙手して懇願してくる。
「いいよ。じゃ、俺も下の名前で呼んでいい? あ、愛紗って……」
「はい! サキくん、よろしくお願いしますぅ!」
愛紗も嬉しそうに手を合わせ喜んでくれる。
まさか学園のアイドルである彼女と名前で呼び合う仲になるとは……。
思い切って言ってみて良かったぞ!
「それじゃ、私もいいわね、サキ君」
「うん、勿論だよ、東雲さ……いや、麗花?」
普段からオーラのある生徒会長だからか、つい緊張してしまう。
同級生とは思えない大人びた美人ってこともある。
「ええ、それでいいわ。よろしくね」
麗花は柔らかく微笑む。
普段の塩姫とは想像もつかない、こんな風にも笑えたんだと思った。
こうして、ひょんなことから。
学園カースト最高位とされる『三美神』と距離がぐんと縮まり親しい間柄となった。
その後も、みんなで自己紹介を交えながら会話を楽しむ俺達――。
けど、
あれ? 待てよ……。
これって俺の夢が叶っているんじゃね?
ほら、男なら一度は――のアレだ。
ハーレム展開ってやつ。
まぁ、俺のモテ期なんて、どうせ今日だけさ。
明日になれば、きっと普通の生活に――
――んな、ワケなかった。
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