第2話 勇者の幼馴染達にお礼される




 次の日。



 朝、教室に南野さんが入って来た。

 別クラスのこの子がお昼以外にくるのは珍しい。

てか初めてだな。

 

 学園一の美少女と謳われるだけあり、クラス中が彼女に釘付けだ。


「お、おはよう……愛紗、昨日は――」


 遊井はしれっと彼女に話かけるも無視される。

 あの醜態を晒せばそうなるだろう。


 ん、待てよ?


 それじゃ、彼女は何の用事で来たんだ?


 南野さんは俺が座る席の前に立ち、深々と頭を下げる。


「神西くん。昨日は助けてくれてありがとう」


 なんと、俺に昨日のお礼を言ってきてくれた。


「あっ、いやぁ。別に大したことしてないよ……怪我なくて良かったね」


「うん、神西くんのおかげ……あのぅ、放課後空いている?」


「えっ? 何?」


「……昨日のお礼がしたいの」


「そう、でも俺、友達と帰る予定が――」


「サキ、俺のことは気にするな。昨日すっぽかしたんだから、今日はその子に付き合えよ」


「はぁい、リョウくん! ちょっとおいで~!」


 俺は南野さんから少し離れ、親友の肩を組んだ。


「お、おい、リョウ! 何言ってんだよ……そこは引くところじゃないだろ?」


「お前こそ、何言ってんだよ! 彼女がせっかくお礼したいって言うんだろ? 誘いに乗ってやれよぉ!」


「け、けどぉ! 相手は学園のアイドルだぞ!? あんな子と二人で歩いているところを他の男連中に見られてみろ! 変に注目されて目をつけられるの嫌だよぉ!」


「大丈夫だってぇ。んなの俺がさせねぇよ! それに見ろ、あの遊井の顔ッ! めちゃくちゃウケるんですけどぉ~っ!」


 俺の親友は中学ではバリバリのヤンキーだったらしく喧嘩が強い。


 現に入学式早々、奴に喧嘩を吹っ掛けた上級生達をたった一人でボコボコにしたからな。

 成績もそこそこいい方なので、どうして高スペックの遊井グループには入らず俺と友達になったのか不思議なくらいだ。


 けど、リョウじゃないけど、遊井が唖然とした顔でこっちを見ている。

 南野さんに無視されたのが、よほどショックなのだろう。


 自業自得とはいえ――こりゃ、ざまぁですな。


 リョウも以前から遊井のことが大嫌いだからな。俺も嫌いだけどね。


 とはいえ、俺とて自分の身の丈ってやつは知っているつもりだ。


「あのぅ、神西くん……わたしじゃ迷惑かな?」


 南野さんは下唇を噛んで、両手でスカートをぎゅっと握る。

 その残念そうな表情に、俺の胸がきゅんと疼く。


「そ、そんなことないよ! うん! お礼ね! あくまでお礼ね! それなら当然だもんね! お礼だからね! 行くよ、行かせてもらうよぉ、だってお礼だからさぁ!」


 俺は周囲に向け、あえて大声で「お礼だから」と強調し、特に男達からやっかみを回避するよう試みる。


 けど、男連中の誰もが突き刺すような視線で俺を見ていたのは言うまでもない……。





 昼休み。



 遊井は相変わらず仲間達に囲まれている。

 けど、南野さんの姿はなかった。

 

 なぜか生徒会長の東雲さんの姿も見えない。

 そういや二人は無二の親友らしい。


 もう一人の親友である北条さんは同じクラスなので、なんとなく輪の中に入っているが普段より、どこか表情が暗いと感じた。

 なぜか時折、俺の方チラ見してくる。


 ついでに遊井までチラ見してくる。

 なんでモブキャラの俺が南野さんに誘われたのか理解できないって感じだ。


 アホか、こいつ。


 どうやら自分でやらかしたことに気づいてない、おめでたい男らしい。





 放課後。



 俺は約束通り、とあるカフェで南野さんから丁重なお礼を受けていた。



「神西くん、ここのパフェ美味しいんだよ。いっぱい食べてね」


「うん、ありがとう……」


 甘い物は嫌いじゃないが食べる量にも限界がある。

 天使のような微笑みを浮かべている彼女には言えないけどね。


 南野さんはまだいいよ。そういう約束だからね。


 けど俺は腑に落ちないことが一つだけある。


 それは――


「……どうして、東雲さんまでいるんだい?」


「いたら迷惑?」


 そう、にっこりと微笑む南野さんの隣でしれっと座っている、東雲さん。

 美人だけど無表情でなんか怖い。

 眼鏡の奥で、俺を観察しているような眼差しだ。


 大方、俺が学園アイドルで親友の南野さんからお礼を受けているのに納得いかないのだろう。


「そ、そんなことないけど……生徒会、忙しいのかなって」


「忙しいわ。でも親友を助けてもらったから、そのお礼よ」


 え? 今、塩っぽい口調で、俺へのお礼って言ったのか?


「東雲さんが、俺にお礼……?」


「ええ、そうよ。勇哉の最低バカが、愛紗を見捨てて逃げて窮地に陥っているところ、貴方が颯爽と現れて不良達から助けてくれたのでしょ? 失望したこの子がどれだけ救われたか……これくらい当然じゃなくて?」


「そんな、俺はただ嘘ついて追っ払っただけだから……ははは」


「でも嬉しかった……とても、カッコ良かったよ、神西くん」


 カッコいい?


 異性から初めて言われたぁ……しかも学園一の美少女である南野さんからだ。


 やばぁ、超嬉しいんですけど!




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