第7話 勇者と私~麗花 side
~東雲 麗花 side
神西君、いえサキ君が介入してくれたことで、私達三人の中で新しい風が吹いたと思う。
――遊井 勇哉と完全に決別する鋼の意志だ。
私達の幼馴染とされる、勇哉。
愛紗と詩音はどうか知らないけど、私は昔からあいつが好きではなかった。
理由は家庭内にある。
私の家庭はシングルファーザーで父は医師。
勇哉の両親が経営する病院で努めている部長職。
だからよく父に「勇哉君と仲良くしなさい」と強く言いくるめられた。
――私は嫌だった。
あの周囲の注目を集めるためのワザとらしい演技とか、見ていて痛々しく耐えがたい不快感をずっと抱いていた。
唯一良かったことは、愛紗と詩音の存在だろう。
二人とも似たような境遇なのか、すぐに打ち解け姉妹以上の絆が生まれた。
皮肉なことに、勇哉のおかげかしら……。
小学生高学年になり、勇哉が私をいやらしい目で見るようになる。
他の生徒の前だというのに、私の胸を触りだし周囲の男子達に自慢しだしたのだ。
凄く嫌だった……屈辱だった……とても怖かった。
けど、愛紗と詩音が必死で守ってくれた。
普段大人しい愛紗はどんな目に合っても毅然とし、詩音も泣きながら身を挺して私を庇ってくれる。
この子達がいなければ、私の心はとっくの前に壊れていたでしょう。
逆にこのままやられっぱなしは悔しいと思った。
中学に入り、私はある作戦を思いつき実行した。
クラス委員長を自ら率先して行い、生徒会長に立候補する。
教師にも気に入られ目立つように優等生となり、自分の地位を確立する。
はっきり言うと、勇哉がしてきたことを私流のやり方で実践したのよ。
結果、私はみんなから注目を浴びる存在となった。
中には『塩対応の塩姫』って呼ばれたけど、まるで気にしない。
かえって拍が付くと手を叩いて喜んだくらいね。
そうすることで、勇哉は私に手を出せなくなる。
完全に標的から外れることができた。
けど、その代わり愛紗が次の標的になってしまう。
密かに勇哉に暴力を受けたり、初体験の相手として噂を広められた。
愛紗も家の事情から「自分は我慢できるから大事にしないでほしい」と言われ、同じ事情を抱える私は黙って見守るしか術がない。
考えた私は勇哉の機嫌をよくすれば、愛紗や詩音への対応も変わると考え、彼にある事を提案することにした。
「――僕をプロデュースだと?」
「そっ、貴方の成績表や身体測定表を見せてもらったわ。流石だけどムラもある。特に、少しでも躓くと総崩れのところがあるでしょ?」
「くっ……それがなんだ! それでも僕は誰にも負けてないぞ! どの分野でも上位には入っているんだ!」
「でも最近、一位は取れてないでしょ? 事あるごとに、二位の王田君に負けているんじゃなくて?」
「……確かに。奴とはいつも僅差だけどな」
「私が貴方を支援してあげる」
「支援だと?」
「プロデュースよ。貴方の能力スキルを効率よく向上させるわ。そうすれば、貴方はどの分野でも誰よりもトップとなる」
「……面白い。より僕の地位もあがるというわけだな?」
「ええ、勿論。但し条件があるわ」
「条件だと?」
「愛紗と詩音、あの二人に酷いことするのはやめて……異性としての株をあげたいのなら、私もフリでよければ協力するわ」
「う~ん……わかった、善処しよう」
こうして私は勇哉のプロデュース兼トレーナーのような役割となり、彼の成績が上がると共に愛紗と詩音への暴力も減ったわ。
でも私も彼の彼女の一人として噂で名前が上がったりしたけどね。
別に気にしてないわ。それで、私の地位が崩れることはなかったから。
高校に入学し、状況がまた一変する。
詩音が勇哉のセフレとして噂を広められ、誰とでも寝れるビッチと見られるようになった。
噂を信じた同じグループの男子達があの子をしつこく狙い言い寄ってくる。
これには私と愛紗も堪忍の尾が切れた。
勇哉を激しく言及し事を治めるように頼んだ。
ビッチの噂は払拭できないも、勇哉の専属セフレという形で、なんとか男子達からは避けることができた。
けど、詩音のショックは計り知れない。
表向きは仲のいい幼馴染を演じながら、私はこのままでいいかずっと考えていた。
――サキ君との出会い。
彼のおかげで、私達三人は勇哉と決別する意思を固める。
私の父にもこれまでのことを全て隠さず打ち明けた。
父は私に謝ってくれて、今勤めている病院を辞める決意をし、今地方だが別の病院へ移ろうとしてくれている。
しばらく離れ離れになるが、今回のことでお互い親子としての信頼と絆が深まったと思う。
これも、サキ君のおかげ。
私は正直、男子に苦手意識を持っている。
小学生に受けた仕打ちがトラウマになっていた。
だから今でも男子が怖い……。
けど、サキ君は違った。
上手く表現はできないけど……他の男子と違い、ズルさがない。
どこまでも純粋無垢な男子……。
そんなサキ君のことをもっと知りたくて調べていく内に、面白いデーターを入手する。
お昼休みに話した通りよ。
――サキ君はダイヤの原石だ。
もうピークである勇哉なんかと違い、彼には無限の可能性がある。
ただ、サキ君は自分のスキルを伸ばす方法を知らないようだ。
知らなければ、私が教えればいい。
勇哉と同様……いえ、それ以上に親身にプロデュースして、常に一緒に見守れば……。
常に一緒にいる?
私がサキ君と……。
一緒にいたい……サキ君の成長をずっと見守っていきたい。
彼が変われば、私も変われるかもしれない……。
変わりたい……サキ君の傍で……。
一緒にいたい……そして、いつか恋人に……
ねぇ、サキ君?
塩姫とか呼ばれている、こんな私でもその資格はありますか?
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