第29話 抜粋終わり

 抵抗も虚しく、下着ごと服をまくられてあらわにされる裸体。悲痛な叫びも、怯む気持ちに押し潰されて喉から大きく発することすらできない。

 大きく腕を振り払ってみても、力では敵わず。引きちぎらんばかりにショーツと部屋着のホットパンツを擦り下ろされ、そのままベッドに押し倒された。

 ──もう無理だ。

 それが確信に変わった瞬間、一筋の涙が流れて、まくらを濡らした。

 遊んでた。

 たくさんの男たちをいいように扱ってきた。

 だけど貞操だけは大切な人へとと決めていたのに……。

 なのに無精髭の生えた汚くて臭い男に汚されることになるなんて……。

 宙に浮いたような現実味のない空間に意識が飛んで、まりこは次第に体感と意識が遠のいていくのを傍観していた。


「マリ! 無事か? 」

 いつの間にか気を失っていたらしいまりこの目に飛び込んできたのは、椎名さとみの父、拓海だった。

「……拓海さん! ……どうしてここに? 」

「家での話を聞いたんだ。君が全てを白状した後に、泣きながら家を飛び出したことも。僕は気づいたんだよ、僕には君が必要だ。家族とはもう終わりだ。僕と一緒に駆け落ちしよう」

 まりこに瞳から途端に大粒の涙が溢れ出す。

「でもっ……でも、もう遅いの。私、あの男に──」

「君は美しい。僕がきっと救ってみせる。大丈夫、僕と一緒に頑張ろう。だから、僕と一緒に行こう! 」

「拓海さん……」

 そう言ってまりこは泣きながら拓海にしがみついた。

 そのまま二人はしばらく抱擁したまま、一緒に涙を流し続けた。



 ──以上、抜粋終わり。

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