仲良くなりたい

 今日もまた、遠藤さんは帰ってきそうにありません。


「はぁ……」


 既読のつかないLINE。トーク画面を表示したスマホをベッドに投げ、それを追うように私もそこに飛び込みます。

 ルームメイトの遠藤さんとは、正直仲が良いとはいえないのが現状です。同じ学年とはいえクラスも違いますし、寮ではそもそも顔を合わせる機会も少なくなってしまいました。

 私としては、もちろん仲良くなりたいです。とはいえ彼女はカースト上位グループに属するイケてる女子。私のような、教室の隅で本ばかり読んでいるような根暗女子と話したら評判が下がってしまうと思ってるに違いありません。だからこそこうして、自分の部屋に戻ってこないのでしょう。


(高橋さん達の部屋か、もしくは草薙さんの家――)


 遠藤さんと仲良くなるためには、まず好みを知らなければなりません。私達の距離を縮めるためにも、私は日課に励むことにしました。

 ノートPCを立ち上げます。

 続けて、GPS追跡ソフトを起動しました。


「今日は……高橋さん達の部屋ですわね」


 遠藤さんのスマホカバーに仕込んだGPS機器は男子寮から発信されています。ならばとGPS追跡ソフトを終了し、今度は別のソフトを起動します。

 PCの画面に、男子寮の一室が映し出されました。


「これは……何をさせているんでしょう?」


 深夜に忍び込んで取り付けた小型カメラからの映像には、高橋さんが吉岡さんにカレーライスをあーんで食べさせてる様子が映し出されています。

 過去のデータから察するに、これは遠藤さんが二人に接触行為を強いて、その光景を鑑賞することにより性的興奮を得ているのでしょう。性的嗜好は、人間の性格の中でも本質に関わってきます。彼女の性的嗜好を理解すれば、きっと私なんかでも仲良くなれるはずです。

 私は画面をまじまじと見つめながら、遠藤さんが特に嬉しそうな表情をする二人の行動をノートに記録していきます。


「なるほど……高橋さんに食べさせたスプーンで吉岡さんが食べると、遠藤さんは興奮するんですね……あら、吉岡さんが高橋さんを押し倒しましたわ。あっ、遠藤さんが鼻血を! これは重大ですわ!!」


 私はカメラを切り替え、真上からの映像に切り替えます。押さえつけられ、徐々に服を脱がされる高橋さん。ベッドから体を乗り出した遠藤さんは、興奮収まらんとばかりに両手でガッツポーズです。


「これは、しっかり記録しておかねば……!!」


 そして事が終わるまでの一時間、私は二人の接触行為についてつぶさに観察し、その様子を十数ページにわたって記述したのでした。

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