四
家に帰ってからも僕はずっと、君とクジラのことを考えていた。
おかげで家族の目を気にしないで済んだ。君と会ってからずっとな気がする。僕の世界は家の中だけじゃないって分かったからなのかな。
次の日の朝、またゆっくり起きてゆっくり準備しようとしていたら、伯父に呼び止められた。今日は親族のお墓参りに行くらしい。昨日のうちに言ってくれればよかったのにと心の中で思ったけれど、聞いていなかっただけかもしれない。目とともに声もシャットアウトしてしまっていたのか。
お昼までに終わるかと聞いたら、お昼から行くと言われた。じゃあ今から出かけてくると伝えようとしたけれど、だんだんと上がってきた暗くて冷たい空気が僕の頬を撫でて、やめさせた。彼は、僕が自分の意にそぐわないことをすると不機嫌になるし、確実に反対する。言うだけ無駄だ。
お昼まで夏休みの宿題をやりながら家族を待った。家族よりも先に自分で昼食を用意して、食べた。クジラのことを考えながら、また家族を待って、十三時過ぎに車の後部座席へ乗り込んだ。君は僕を待っているだろうか。
狭い車の中で家族と話す気はないし、彼らにも僕と話す気はなかっただろう。だから僕はひとり窓の外を見て、クジラを探していた。
二十分ほどで墓地に着いた。彼らに従って母が眠る墓に向かった。
僕がお参りをしたら、母の霊が微笑んでくれたり、僕に語りかけてくれたり、そんなことが起こらないかと期待したけれど、全くそんなことはなかった。石は石だし、骨は骨らしい。「生んでくれてありがとう」と「安らかに眠ってください」とだけ祈った。曾祖父母に特に言いたいことはなかった。
その後は違う墓地で、よく分からない誰かに安らかな眠りを祈った。こんな気持ちで参ってよかったんだろうか。まあ仕方がない。
そこからまた車に三十分ほど乗り、祖父のいる病院へ向かった。彼があの家にいる頃、彼だけは僕の味方だった。だから少しだけ明るい気持ちで彼に話しかけたのだけれど、まるで他人に向けるような目つきで僕や家族を見たので、落胆してしまった。彼にも僕にも罪はないけれど、とにかく、どこか残念に思った。
結局家に帰ったのは十七時頃で、もう君に会いに行こうと思える時間ではなかった。
お風呂や夕食を済ませてから、意味の無い一日だったとため息をついて、僕は布団に入った。
明日こそは君に会おうと決意した。
カーテンの隙間から見える夜空は、厚い雲に覆われていた。
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