第2話 そんな幼稚な趣味を持つなんて、みっともないと思わないんですか?
「………という事が昨日あったんだ」
憂鬱な月曜日。私は職場の同僚に昨日の出来事を多少のフェイクを交えて言った。
「えー。猫が気持ち悪いって、君の奥さん変わ…かなりエキセントリックな感性の持ち主だな」
言葉を選べる同僚を私は評価した。
「うん。てっきり女性はみんな猫好きかと思ったけど、あそこまで嫌悪しているとは思わなかった。皆が猫を敵視しているから俺の方がおかしいのかと少し不安になったんだ」
「まるで☆新一先生とかSF小説みたいな話だな」
ああ、世の中で起こりそうもない事をまじめな顔して書いてる幼稚な本みたいな出来事だった。
そこから読書の話となり『いい大人が読むなら自己啓発本やビジネス書だよな。漫画とか小説とか読むのはみっともないよな?』と言うと同僚は少し渋い顔をした。
あれ?もしかしてSFとか好きなのだろうか?
「いや、本なんて今時読んでるのかと思ってな」
ああ、そうか。今は電子書籍の時代だものな。
そんな事を話していると休憩時間の終了まであと10分となった。だから、
「なあ、ちょっといいか」
「なんだ?」
いい加減聞いてみようと思った。
「なんで君はハイヒールを履いているんだい?」
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第2話 そんな幼稚な趣味を持つなんて、みっともないと思わないんですか?
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誤解の無いように言っておくが、同僚は男性だ。
35歳の妻子のある身で、少し背は低いが、がっしりした体格の男である。
そんな彼が高さ10cmはあろかという真っ赤なハイヒールを履いていたのだ。
今朝から。
そう聞くと彼はムッとした顔で言った。
「お客様に不快な思いをさせないために決まってるだろ。君」
何をそんな基本的な事を聞いているんだ?といった感じである。
「男は男らしく180cmの身長を保つべし。背が低くて見下ろされるような男なんてみっともないだろ?だから社会人として大変な思いをしながらもこうしてハイヒールを履いてるんじゃないか」
「いやいやいや」
身長が低いと社会人として失格?こいつは何を言っているのだろうか?
とはいえ、こいつの怒りは本気だ。とりあえず話を合わせてみようか。
「だったら、シークレットブーツだっけ。あの上げ底の靴を履いた方がいいんじゃないか?」
「はぁ?あのな君、僕は働きに来てるんだよ。それなのにそんな靴を履いてこいなんて、どれだけ世間をナメてるんだい」
「男がハイヒールを履いている方がよっぽどナメてるだろ」
思わず彼にツッコミを入れた。すると
「あのさぁ…会社というのはきちんとした服装でお客様に不快な思いをさせずに迎えるのが常識だろ。スーツにスニーカーとか履いてたらみっともないじゃないか」
うん。
「だとしたら革靴やハイヒールを履くべきだろ」
「君が女性ならな」
そういうと、同僚はあきれたようにため息をつく。
なんだよ。
そういうと後ろにいた新入社員の女の子が
「センパイ。ハイヒールは女性が履くものというのは男女差別ですよ」
と咎めるように言ってきた。
「そもそも、ハイヒールとはフランスでルイ16世が作らせた男性用の履き物だよ。女性がそれを履くように強制されていた時代は終わったんだよ。そんな事も知らないのか君は」
男のくせに真っ赤なハイヒールを履いている変態から怒られた。
しかも、職場でサンダルなんか履いてる女性からも軽蔑の目で見られた。
「って!オフィスでサンダルっておかしいだろ!!」
そういうと、職場中から白い目で見られた。
またかよ。
曰く「女性は今まで不自由な靴を履くように強制されていたが、長年の解放運動で好きな靴を履けるように働きかけたおかげで今ではハイヒールを強制するのは男女差別になる」らしい。
みれば来店しているお客様も女性はサンダルである。営業に来た男性はふつうの革靴だ。
「あー、彼は180cmあるからね。自然でも人に不快感を与えないからね。いいよね背の高い人は自由なおしゃれができて」
どうやら背の低い男性の靴の選択肢は、身長が180cmないとハイヒールしかないらしい。
いじめだろ、これ。
「センパーイ。あなたたち男性が女性に強制していたのがそれなんですよ。男性に靴の選択肢がないのは当たり前じゃないですか」
「いまどき、そんな事も知らないとか、お前 別の世界から来たんじゃないのか?」
同僚も興廃も、冗談めかしているけど、明らかにこちらをバカにした顔でさげすんでいる。
もしかしたら、ここでも猫は嫌われ者なのだろうか?そんな不安を感じていると
「ところでセンパイ。机の上に猫のフィギア置いてますよね」
あ、先に言われた。ということは…
「あんな気味の悪い生き物を公共の場に置くなんて恥ずかしいと思わないんですか?」
やっぱりか…
げんなりした気持ちで後輩の言葉を聞くと
「いい年して小学生じゃあるまいし…。皆が嫌がる生き物のおもちゃを飾るなんてセクハラ、いえ常識の無いモラハラです!」
ビシッ!と一点の迷いも無く彼女は私に指を突き付けた。そして
「こんな事、年上に言いたくないんですけど、みっともないと思わないんですか?」
身長170cmの私を威圧的に見下ろしながら、後輩は私に謝罪しろと言い出した。
………会社、辞めようかな。
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