16. アクシデント
まずい! めちゃくちゃまずい!!
作業開始後直ぐにテスト駆動をしてみたところ、魔道具がおかしかった。
「駆動しようとしてもつかない!」
「ローラン、電源回りがダメだ!素材にひびが入ってる!」
「くそ!修復できるやつか?」
「魔石とその周りが壊れている。魔力加工のオーク材は
「なんでだ?ヤング、魔石が爆発したのか?」
「わからん」
「変換器は?」
「もうちょい点検に時間が掛かる。まずオークと魔鉄を発注してくれ」
「わかった」
魔法石は魔力を宿した石で、大抵は宝石だ。ものによるが、魔力を多く宿している分だけ扱いが難しい。物をぶつけたりする程度ではある程度強度があるが、魔力を当てるとすぐに不安定になり、爆発を起こす。
そのため、触れるときには魔力を遮断する手袋を使用することが推奨されている。適切に使用しなければ爆発することがある壊れやすい部品だ。
一見事故に見えるが、設計をした俺は、故障具合に違和感を感じた。
動力装置に無理な魔力が集まるようなことは無いはず。設計ミスか、部品が不良品だったか?
「ナナ、動力周りの刻印とかプラグに問題は?」
「無いみたい」
「ほんとに?」
ヤングが肩を竦めた。
「原因不明だな」
「とりあえず設計の変更はなし。安全装置の交換だけにしよう」
ギルドの係員が<精霊>の件で代表のクレアに状況を確認していた。要件は同じだから彼でいいか、と俺達も自分たちの魔道具が壊れている事を伝えた。
何かしらのサポートが無いかと期待して確認したところ、審査員への説明はするが、今日の評価では特段、加点等はしてくれないようだった。
「ローラン。ごめんなさい。私たちのせいだよね」
「......いや。その<魔術陣>におかしいところはないみたいだし。大丈夫だ」
「え、でも...」
「本当に大丈夫。じゃあ、俺は作業に戻るから」
作業台に戻ると、メンバーが各所を点検していた。
「電源、発表までに直すのは無理だ! ローラン、テストで使った動力装置でプレゼンだけししないか?」
「......そうだな。運営に借りてくる」
俺達はギリギリまで粘って修理を続けた。結局修復は間に合わず、性能の一部を駆動させるまで直したところで発表になってしまった。
◆◆
「これは<万能魔術盤>です。これ一つで入力信号に応じて無数の魔術を再現できます。装置は大まかに三つの部分に分かれています。ここが動力源。ここが、基本的な魔術が内蔵されている部分で、セルと呼んでいます。ここが魔術板が並んでいる部分で、魔術板は様々な魔術を再現できるように刻印が施されており、分岐を選択することで魔術を選択、調整、合成できるようになっています。動力から魔術板に魔力が注がれ、スタンバイ状態になったら、ここにある入力板の手をおいて入力します」
魔術板は三十センチかける二十センチ程度で厚さ二センチ程度の板で、加工がしやすい合成石で作られている。それと同じものが養蜂場の蜂の巣のようにケースの中で並んでいる構造だ。
ケースには布のロープが二本ついており、ここに腕を通して背に背負うことができる。
<魔術盤>の左側からは手のひらサイズの入力用魔力が接続され、右手の手袋を通して魔力が出力されるようになっている。
使用可能魔術は基本属性すべてである火風水土光闇と<意味魔術>のうち、基本的ないくつかを選んだ。流し込む魔力量を調整することで属性、規模、位置、補正などが指定できるようになっており、さらに調整のための判断機能も実装されている、はずだった。
「現在、動力源の不具合のため、完全な状態では使用できません。今日はテスト駆動のために使った外部電源を使って、<火の玉>の位置制御、規模制御をお見せします」
故障によって、<
実践を想定している大会だから、使用できなければ意味がない。
故障は大幅な減点だ。
審査員の「それが出来たら凄く良かったよ」という言葉が頭に来た。出来たらじゃない、出来るんだよ。内心ではそう思っていた。
発表に合わせて来てくれたエミリーの顔を俺は見ることが出来なかったし、「凄い魔術ですよ!」と言ってくれるのにも反応できなかった。
発表が終わってからも俺達はトーナメントに向けて修理を続けた。
魔力板には異常が無く、セルにも異常は無く、結局動力周りの部品の故障が原因みたいだった。動力源の故障に伴って、制御盤やセルの一部に魔力が流れなくなっており、動力周りだけの故障と言っても、かなりの機能に影響が出た。
壊れたパーツだけを取り外すのは現実的に難しかったため、余っている予算内で付け替え、あるいはある程度の仕様変更を余儀なくされてた。
暗い雰囲気のまま俺たちは黙々と作業を続けた。
◆◆
発表の後、エミリーがサンドイッチを持ってきてくれたが、内心穏やかでは無かった。顔も穏やかではなかったらしい。アンドレアに『表情が穏やかではありませんわ』と言われた。
明日のトーナメントに向けて急いで修復作業を進めなければならないが、どうしても集中できず、昼休みには気分転換に外をぶらついていた。
なぜ故障したんだろう。
脱走した<精霊>が原因では無い。<精霊>は特に命令されていない状態では徘徊するだけだ。クレアはそう言っていた。ほかの魔道具に触れるような事は考えにくい。
あるいは、クレアが事故に見せかけた?それこそ考えにくいし、考えたくない。
ほかの原因で壊れたとすればどうだろう。
入力魔力と動力は別だ。動力は変換器を通してそれぞれのセルに分岐している。さらに魔術板本体の動力とセル内の魔術を起動させる動力も別々だ。壊れるなら魔術板の方だと思っていたから安全装置は十分につけた。
それなのに、実際に壊れたのはセル側の動力装置のパーツだった。
それほど負荷は掛からないと考えていたが、それが間違いだったのか? 理論上そうはならないんじゃ、と思ったが。
いや、実際に壊れたのだ。設計ミスなのだろう。
納得しようとしても、どうしても壊れ方が不自然だという感覚が拭えなかった。
じゃあ、誰かの不正か?
「ダメだ」
今の俺は冷静ではない。考えがまとまらなかった。
思考を整理するための短い散歩のつもりだったが、結構遠くまで来てしまった。
「あれ、ローラン君じゃないですか?」
「アンナ! ちょうどいいところに!」
歩いているところで声をかけてきたのは友人の自称名探偵、アンナ・ハルトマンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます