13. 交流(上)

 俺たちのチームは結局四人になった。

 まずは俺、ローラン・ヒルベルト。オペレータ兼考案者だ。


 次に、事前に舞踏会で知り合っていたナナ・ギャビン。

 小柄でクセが強い茶髪の女性だ。

 彼女は<土魔術>が得意で、自分で魔術版という板に刻印を掘った物を作る事が好きだという。ルーン他数種類の<魔術文字>の知識もあるらしい。


 <魔術文字>というのは”世界を書き換える方法を記述する、『力ある文字』の事を指す。<魔方陣>などに書かれているのが<魔術文字>だ。


 三人目はダミアン・ゴロビン。

 褐色の肌に黒髪を伸ばした男性だ。身長は百六十センチ程度で痩せ形。

 彼の家系はゴーレムメイクなどに向いているそうで、本人も簡単なゴーレなら作れるそうだ。ゴーレムにも<魔術文字>を使うため、是非に! と言ってメンバーになって貰った。

 

 四人目はヤング・ベローズ。

 色白で、スカイブルーの髪を七三に決めた男性だ。百七十センチ程度で、瞳はよりはっきりした青色をしている。

 彼はある程度<魔術文字>が扱える上で、得意なのは魔法石などの動力源周りだという。

 家系は<意味魔術>を武器に付与するような<付与>自慢の武器屋らしい。家系といっても本人は貴族出身では無く商人の出らしいが、彼の親父さんが技術力で一代で家を大きくした人だから魔術教育には力を入れていると言っていた。


 全員<文字>を扱えるように選んだのは、作成する魔道具に必要だからだ。俺が予めこの大会で確実に優勝できる魔術理論を考えておいた。

 俺たちのチームは、コピーキャットの刻印入りの<指輪>のようなものを強化して作る方針だった。魔術版に<刻印>を彫り、それを連結させる。


 今までに無い、ユニークな魔術になるだろう。


 作業が始まって、順調に進んだ。


 パーツとなる魔術に小分けしてそれを一時的に完成させたのが一週目、第二週は魔術板の作成に取りかかった。

魔術板も完成はしたが、動力が足りない問題が発生して買い出しに行ったり、魔術板を改良したり、加工をしたりして三週目が終わった。


 準備はちゃくちゃくと進んだ。チームメンバーや他のチームとも情報交換をしたりして、人間関係もできた。そのなかで、どのチームがどんな魔術を作ろうとしているかのリサーチもできた。


 特にトムソン兄妹とは帰り道でよく一緒になって、何度も三人で帰る中で親しくなった。


 アンドウにバカウケだったトオナキウシの鳴き声の真似を披露した時には大スベりしてし

まったり。


 一度、ブルタニアに遊びに来たという恋人のアネータが見学に来た。アネータはブロンドの美しい女性だった。


 貴族にも自由恋愛という概念はある。基本的に一夫多妻制なので、趣味として恋愛を楽しむ貴族もいるらしいとエミリーから聞いたことがある。だが、ジェームズの表情からは誠実さと、アネータとの時間を心から楽しんでいる事が伝わってきた。


 ジェームズが「パートナーはいないのか」と聞いてきた時に、「魔術が恋人だ」と答えた俺の気持ちはお察しである。


◆◆


 最三週の最終日に、全体の企画で交流会、というか食事会があった。準備期間は来週で終了となる。ラストスパートに向けて頑張ろう、それと同期で交流する機会を作ろう、という会だ。武道館の試験運転スペースに机が並べられ、立食形式で食べ物が並んだ。


 ある程度形が出来ているチームも、魔道具が全く動かずに焦っているチームも、様々な人が出席していた。

 思えば、ずっと一緒に作業していたチームメンバーとも一緒に食事をしたことは無かったな。


「ダミアン、食いすぎじゃないか?」

 褐色のダミアンはさらにパンとグラタンを山のように盛ってガッついていた。

「なんだ、ローランも食べなよ。こういうのは早い者勝ちだよ」

「まぁ、そうか」

 言われてみれば確かに。俺はダミアンを見習って自分の皿にパンやハム、シチューを山のように盛った。

 それを見たスカイブルーのヤングはやれやれといった顔をし、じっさいに「やれやれ」と言った。やれやれなんて本当にいう奴、実在したのか、と思いながらシチューを口にいれた。結構美味い。

 無口なナナは会話にはあまり参加しないが、同じ集団で飯を食べていた。偏食家なのか、ハムとパンばかりをもしゃもしゃと食べていた。


 メンバーで話していると、自然と魔術の話になった。


「ローラン、俺達の魔術は、このまま行けば期間内に完成しそうなんだよな?」

 今のところ、パーツが完成している状態だが、俺達の作業台の上には部品がゴロゴロと転がっている状態で全体の完成に近づいているような印象はなかった。

「大丈夫だ。残りの工程は組み立てだけだ。ほぼ計画通りだよ」

 ヤングは神経質な方で、メンバーの中では進捗状況を一番気にしていた。

「このチームの魔術の全体像を知っているのってお前だけだからなぁ」

 そのせいで心配になるのは仕方が無いのかもしれない。

 説明はしたはずなんだけどな。

「大丈夫。エラーは起こるかもしれないけど、そんなのはいつもの事だ。ラストスパートも頑張っていこう」


 ある程度腹を満たしたところで、情報収集を始めることにした。他のグループに混ざってそれとなく話を聞き出すのだ。メンバーとはいったん離れ、他のチームが溜まっているあたりに飛び込んでみよう。


 すぐに目についてのはアンドウだった。アンドウは簡素な服装のメンバーと固まって飯を食べていた。

「アンドウ」

「ローランか。覚えてるかな? 孤児院の皆だ。皆、友達のローランだ」

じゃ分からないだろうが」

 金髪でブルーの瞳、そばかすが目立つのがルーク、赤髪でぽっちゃりなのがアンソニー、ブルーの髪で大人っぽい雰囲気の女の子はダリア。

 ダリアは孤児たちのお姉さん訳だったためうっすらと覚えていたが、他の二人はすっかり忘れていた。

 アンドウは俺の事を彼らに伝えていなかったらしい。


 俺の出自の話をするとダリアは歴史あるヒルベルト家だと驚いていたが、ルークとアンソニーはノーリアクションだった。最近のヒルベルト家は名家と言えるほどの勢力ではないのだが、ダリアは歴史好きなのかもしれない。

「ローランのチームは順調?」

「今のところ予定通り。本番で度肝を抜いてやるよ」

「ふーん。それは良かった。魔道具が完成しなかったから負けた、なんてみっともないからね」

「ほほう。アンドウ貴様、俺に勝つつもりかね?」

「当たり前じゃないか」


 アンドウのチームの魔道具はかなり出来上がっている様だった。

 アンドウの<泥魔術>は、魔道具のサポート無しでもかなり自由自在に泥を生成、操作できる。一か月で作れる魔道具でもかなり強力な魔術を使えるだろう。強敵だ。


 やる気が高まった俺は次の情報収集に向かおうとアンドウのチームと別れようとした。

 そのとき、ダリアに呼び止められた。


「ローランさん、ケータ君は絶対凄い魔術師になりますから、これからも仲良くしてあげてください」

「ああ、そのつもりだよ。ダリアもアンドウのことよろしく。あと、さんは要らないよ」

 ダリアは優しく微笑んだ。

「......あ、ローランさん。どうしてアンドウって姓で呼ぶんですか? そんなに仲がいいのに」

「ん? えーっと、初めてあったときにアンドウ・ケータって名乗ったから、名前がアンドウだと思ったんだよ。それでアンドウって呼んでたんだ。アイツも訂正しないから、それで慣れたんだ。じゃあ、また」

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