12. 『新魔会』説明回
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あなたを失うことが何よりも怖かった。
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新魔会の初日。今日プログラムは説明会とチーム結成のはずだ。
参加者は大手探索者ギルド『地平の巨人』が所有する訓練用の武道館に集合していた。俺はアンドウと並んで会場に入った。
「アンドウ。<結界>だ」
「え? うそ、こんな建物に?」
武道館には結界が張られていた。内部には張られていないが、外壁に沿って魔力を感じた。
<世界の小記録簿>から結界の魔力であると確信できたが、この<結界>の詳細は分からなかった。
<世界の小記録簿>は秘匿された情報を<想起>出来ないのだ。
<結界>に加え、不正防止で出入口で不要な魔道具の持ち込みが無いかチェックされていた。その様子に、アンドウは感心していた。
「<結界>に受付、持ち物チェックなんて、厳重なんだね」
「お前、結構落ち着いてるな。前に大会に出たことあるのか?」
「そんなわけないよ。初めてさ。予想以上に警備がしっかりしてたから」
「まぁ、貴族にとっては跡継ぎに魔術の才能があるかどうかってのは関心が集まるからな」
この大会は多くの人間が関わるし、魔術は貴族にとって軍事力であり財産だ。たかが大会とはいえ、貴族家にとって魔術の開発能力は軍事力に直結するから、大きな大会で大勝・惨敗なんてことがあれば
例はないが、不正を働くことが無いとは言えない。家系伝来の高級な魔道具を部品として使われては、能力を判断することが出来なくなるからだ。そのための荷物チェックだということだ。
チェック方法は、魔力に反応する術式と経験豊富なギルド職員の目視のダブルチェックだった。
チェックを抜け、受付を終えて武道館内で待っていると、ほどなくして開会式が始まった。
俺はアンドウと並んで、集団の左端で話を聞くことにした。
全体の説明をしている男は『新魔会』実行委員のカルバンと名乗った。
カルバンは五十歳くらいに見える小柄な男だった。膨らんだビールっ腹に白のシャツ、糸目で、頭髪は薄くなっていた。
あまり探索者らしくない男だが、魔術師は見た目では無い。
「『新魔会』はまず始めに交流会でチームを結成し、その後1ヶ月間の準備期間を経て審査とトーナメント戦を行います。トーナメントの結果は順位によって点数化され、審査点に加算されます。優勝は、審査点とトーナメント点の合計で決まります。他に、審査員の協議によって特別賞を与える場合もあるので皆さん、頑張りましょう!」
貴族は小さい頃からの知り合いがいることが多いから、既にチームが出来ているケースが多い。アンドウもな。
だが、知り合いの少ない俺のような奴は今日も急いで勧誘しなければならない。
探索者ギルド連合主催の『新魔会』は騎士や探索者の育成を目的としているため、騎士や探索者求められる要素を含んでいる。魔物と戦闘するときに大抵は数人のパーティを組むことになる。
なぜ数人なのかと言えば、騎士団の騎士は一人一人が優秀な魔術師であるため、大人数いたとしても十分に能力を発揮できないからだ。
例えば、<必ず切断する魔剣>を持つ剣士と<超絶怒濤の稲妻魔術>が使える魔術師がそれぞれ五十人ずつの部隊を編成して竜種1体と戦う事を考えるとする。
魔剣士が一人いれば竜種に有効なダメージは与えられるし、魔剣師達が連携して竜の注意を分散させる戦略を取ったとしても、その間に稲妻魔術師は手を出せない。味方の魔剣士に魔術が当たってしまうかもしれないからだ。
そのため、主力になるような魔術師が沢山いたとしても、チームとして強いとは限らない。むしろ、盾役になれる戦士や索敵・警戒ができる≪調教師≫等と組ませた方が能力を十分に発揮できる。
そういう理由でパーティはチームの方針や役割に合わせてメンバーを組み替えながら少数精鋭にするのが良いとされている。
また、一人一人の魔術に使用する魔道具ついても、本人が一人で作成しているわけではないケースが多い。
魔道具は、一つの機能を実現させる様々な動力や刻印などの要素の準備を重ね、一つの物にコンパクトに纏めたものだ。魔方陣が書いてある紙を持って行ったり、より戦闘で使用しやすいような形に落とし込んでいることが多い。多くの人間が共同で作成した方が強く、バリエーションのある魔術が開発できる。
チームで魔道具を作る場合、魔術を戦場で使用する魔術師のバックには魔術や魔道具を支えるためのメンバーがいる。道具制作専任の魔術師は『ピット』、戦場で使用する魔術師は『オペレーター』と呼ばれている。
オペレーターは本人が魔術が使えなければならないため、優秀はオペレータは強力な固有魔術を持っている場合が多い。一方、ピットはオペレータの魔術と類似する魔術を専門としている魔術師が、オペレータにも使える形で魔術を実装する。
そのため、優秀な騎士や魔術師の魔術は、本人だけの特別な魔道具と見ることもできる。そのような魔道具は『礼装』と呼ばれる。
ちなみに俺の<世界の小記録簿>のように、本人が居さえすれば魔道具無しで発動可能な魔術もある。そういった魔術は出力が弱く、戦闘向きではないことも多い。それでも有用であるから、そういう魔術師はオペレータ向きということになる。
強い魔術師の要因には、魔術が優秀という以外にも剣術が上手いとか、魔術以外の要因もある。その場合、魔道具として沢山の機能を付けるより、厳選された機能を一つだけ付けて他は省いて軽量化する、という方針の方が戦力が向上するかもしれない。
何を選び、何を捨てるのかという勝負だ。
だから審査では魔術のみで点数を付ける
「今日以降はこの建物で各自チームで魔術開発をしていただくことになりますが、注意事項があります。まず、予算額を超えないこと。経済力ではなくて開発能力で勝負してください。それと、一ヶ月間で自分達で作った魔術のみです。ただし、市販の部品は使って大丈夫です。あとは、この建物内で作ってください。建物の外で誰かに作って貰ったりされたら、すぐには気づけませんからね」
作品として認められるのは自分たちが作った魔術のみで、他の誰かが作ったもの、或いは自分が長年掛けて開発改良してきたものを持ってきてはいけない。だから、たとえば俺で言えば魔術回路が刻まれた指輪を組み込むことは認められていない。
ただし、全て一から作るのは無理がある。そのため、動力装置などのような必要と思われる部品は大会側が準備してくれており、申請すれば提供してくれる。
また、予算内に収まれば部品を買うことが出来る。さらに、大会側が用意した加工技師達の力を借りることも出来る。
大手ギルドが手を組んで運営している大会だけあって結構羽振りが良い。
一方で、不正への監視も厳しい。そのための入口のチェックであり、<結界>だ。
そういった不正防止のために、建物の中で加工すること、不要な物は持ち込まないこと、というルールになっている。
武道館は朝九時から夕方十八時まで開いている。
「えー、では皆さん。これからチームを組んでいただくことになります。目安とする為に、オペレーター志望の方は私から見て右側に集まってください」
オペレーター志望の十四人がぞろぞろと移動した。メンバーの中で知っているのはアンドウ、クレア、それに社交会で知り合った緑髪の双子の兄ジェームズ・トムソン、プライドの高そうな藍髪の御曹司ニコラ・クラジウスだ。
天才≪
≪
それぞれの魔術の系統など、チーム結成に必要な情報を順番に話した後、自由な交流を行う流れになった。
◆◆
「こんにちは、クレアさん」
「先日お会いしましたね。ローランさん」
終わり際、クレアに声を掛けた。
クレア達も解散したばかりのようだった。
「準備は順調ですか?」
「ええ。今日は予定よりも人数が増えたので、予定していた魔術をもっと強くしようかなって思ってたんです」
「クレアさんのところは何人ですか?」
「五人になりました」
一チームの上限は五人までだ。ちなみに最小は一人。
クレアは同期の中では有名人だから、人はいくらでも集まるだろう。
「レオナさんもですか?」
「ええ。そうですよ」
「事前に知り合いで組んでいたのは何人だったんですか?」
「四人でした。いつも仲良くして貰っているメンバーなんですが、今日はもう一人すごく優秀な方が入ってくれたんです」
「それは楽しみですね」
なんだろうな。調子が狂う。なんだろう、このよそよそしい感じをどうにか出来ないだろうか。
「......えっと、今更ですが、俺のことはローランで、敬語では無くていいですよ、もし良ければ」
「じゃあ、ローラン。私の事もクレアでいいよ」
「うん。良かった」
「チームの話、ローランは? 何人のチームなの?」
「俺のところは四人だよ。俺は普段の知り合いが少ないから、結構焦って探したんだ。あの舞踏会も、目的は仲間探しだったんだ」
「ふふふ。正直だね。私、ホストだったんだよ?」
「はは。ごめん。でも、予想してたより面白かった」
「ダンス勝負とかね」
「勝負のつもりじゃなかったんだけどなぁ」
「え!?そうなの?」
そうやって、何分か話をしていた。たいして中身の無い会話だったかもしれない。
そのうち閉館の時間になった。クレアを従者が迎えに来て、解散になった。
アンドウに声を掛けられて一緒に門を出ると、緑色の双子トムソン兄妹がいた。彼らのチームはギリギリまで会議をしたあと、立ち話をしていたらしい。
合流して帰り道を途中まで四人で一緒に歩いた。
二人と別れたあとは、アンドウに「あの兄妹こそあるべき貴族の子息の姿だ」「僕のイメージ通りだ」「見聞が広がった」などという話をされた。
俺だって一応貴族だぞ。どうなってるんだ。
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