2. 荒野の闘い
レオナとクレアには囮役を任せた。ハスタデビルは気性が荒いため、人間に攻撃されたなら反撃に来るだろう。俺とルイスがある程度罠を作り終わった段階でレオナとクレアは出発した。
一方俺とルイスは罠を作っていた。俺は<土魔術>と<水魔術>でひたすら大量の土と水を作り出し、ルイスは自分で作った泥と混ぜ合わせていた。こうすることでルイスは俺が作った泥も支配下に置くことができるようになる。
この泥のプールは地面の凹みに溜まっているが、ルイスはさらに端の地面を削り、深さを増していった。仕上げに、ハスタデビルが向かってくる方から見て下り坂になるように地面を整えて完成だ。
ルイスの補助がある程度終わった段階で、俺は四人が十分入れるサイズの塹壕を泥のプールの手前に作った。
「あとは待つだけだな」
「完璧だね」
一仕事終えた俺達は身を低くして塹壕の陰から囮の二人を覗き見ると、無数の<力魔術>で狙われた二人が全速力で走ってきているのが見え、ほぼ同時にポケットの中の<蜂>が暴れる振動を感じた。獲物が掛かったサインである。
俺達は急いで塹壕に隠れた。
クレアが先頭、丸盾を背負ったレオナが後に続いて走り、そのすぐ後をハスタデビルが追ってきた。二人は槍岩を縫うように走り、<衝撃波>が槍岩に当たり、ガラガラと崩れた。ハスタデビルは槍岩の倒壊も物ともせず飛び越え、追ってきた。
ハスタデビルのうち一匹は回り込もうとしているようだった。
タイミングを合わせてルイスは<泥遊び>で泥のプールを固くし、クレアとレオナは泥地帯を走り抜けた。すぐにハスタデビルも泥地帯に踏み込みが、二人が泥地帯を抜け出し塹壕に向けて大きく飛んだ瞬間、泥は粘性を取り戻し、追いかけてきたハスタデビルの足がずぶずぶと沈んでいく。
「成功だ!」
「よし!」
上手くプールに捕らえられたのは四体。一体を捕まえ損ない、泥のプールの手前で足踏みしていた。一体は遅れて来ていて罠の直前で止まっていた。
「ルイスは罠にはまったやつのうち一匹を捕獲して他は倒してくれ。もう一体は俺がやる。もう一体は回り込んでくるはずだ」
「それは任せて!」
クレアの周囲で黄金の魔素がキラキラと輝き、彼女の周りにはブンブンと<蜂>が飛び回った。レオナが先頭になってハスタデビルを追いかけ、その後に<蜂>を準備したクレアが続いた。
俺は泥のプールの上に飛び出した。新技の練習台にさせてもらおう。
「<
飛び出した先、宙に浮いたままの足がその場で止まり、次の瞬間、大きく跳躍した。背中を<空の逆巻き>の突風が押し、バランスを保ったままさらに加速した。
竜魔術<打ち鳴らす翼>は、『空間に自身を食い込ませる』魔術であり、竜種が本能的に使える竜種だけの固有の魔術だ。以前戦った『はぐれフライドラゴン』から貰った。竜魔術だが、自分の手足で使えるようにアレンジして準備していた。ついにお披露目だ。
手足にバネがついて空中で跳ねるようなもので、<空の逆巻き>の風のアシストよりもはるかに瞬間的に早い移動が可能となる。さらにこれまで通りに<空の逆巻き>で姿勢制御も加わえたことで翼竜に負けない空中機動を獲得できた自信があった。
罠にはまったハスタデビルや岸の個体が何発か<力魔術>を放ってくるが、二歩、三歩と空中をジグザグに跳ぶことで、悠々と回避しつつ近づくことが出来た。ハスタデビルは噛みつきに来るが、手足を使った急制動で不意を突き、そのまま愛用の短刀で喉をかき切った。
一つ息を突き、周辺を見回す。もう一体は見つからない。
「こっちにはいない。そっちは?」
「すまん。逃げたようだ」
すると、ルイスが指を指しているのに気づいた。
ん?なんだ?
目を向けるとその方向からは、二十匹程のハスタデビルがこちらへ駆けて来ていた。あの群れはおそらく今倒したハスタでデビルの仲間だろうか。
数が多い。かなりまずい状況だ。
「逃げるぞ!!」
「逃げ切れないよ!!」
「迎撃しかないだろう!」
レオナが剣の<付与魔術>を強化したのを皮切りに、完全に戦闘態勢に移行した。
復讐するために俺達を狙ってきているなら逃げ切れないだろう。
「四人で背を合わせて固まろう。ルイスは<馬>で逃げられるように魔力を温存して」
「私がなるべく遠くで数を減らすよ。一か所に集められるように援護してくれる?」
「分かった」
『聖霊よ。聡明なる光の聖霊よ、我らの導き手よ』
クレアの<祈り>を聞きながら、俺は改造した大玉<
距離は四十メートル程。高純度で制御された光の魔素は周囲に漏れ出ることなく<蜂>に集まり、大量の<蜂>達がクレアの周りでぶんぶんと飛び回る。一匹一匹がこぶし程の光弾であり、太陽かと見まがうような高い魔力をうちに秘めていた。蜂の姿を持つ光りの弾丸は、変幻自在の弾道でハスタデビルに飛んでいった。
ハスタデビルの走行方向を誘導しながら、ドスンドスンと重たい音を立てて命中させ、着実に二体、三体と討伐していった。
一発一発の魔力濃度が高く、直撃したハスタデビルの肉は焼け焦げており、確実に獣どもの本能に危険を訴えていた。魔力操作の技量も魔力保有量も相当のものだ。
残りは半分。
「魔力はキツイ?」
「まだ大丈夫!」
「わかった、合図したらクレアは下がって援護に回って。レオナ、俺、ルイスが壁になって前で肉弾戦に移る。倒せるやつから倒していって」
「「了解」」
「二、一、今!」
前に出た俺達にそれぞれハスタデビルが襲い掛かった。<泥の弾>を周囲に飛ばしているルイスには多く食いついたようだ。レオナは対竜剣術である厳砕流の太刀筋で、ハスタデビルをざくざくと倒していった。
厳砕流の持ち味は、敵を一撃で屠ることに特化していること。すべての瞬間に、先手で必殺の技を出し、当てることが理想とされている。それを魔上面から実現しようとした質実剛健な流派だ。レオナの動きは、コンパクトで、かつストレートに大技を決めるために無駄を最小に抑えた動きだ。
この世界の武術には大きく分けて二つある。1つは対人、もう一つは対竜だ。違いは間合いだ。ドラゴンと戦うときは竜の体に傷をつけられるように、一般的には魔力で強化された身の丈程の大剣『竜刀』を用いることとが多い。かなりカッコイイのだが、まだ『道化旅団』のメンバーは誰も竜刀を持っていない。
厳砕流は魔術で強化した剣と相性がいい。レオナの直剣には<裁断付与>が施されていた。標的を断ち切る、その結果を手繰り寄せる性能そのものを向上させた大振りの一撃は、ハスタデビルを一度に二体、三体を両断した。
しばらくののち、敵を全滅させることに成功した。
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