10. 商人ギルドにて
「次はシーラにしよう」
「え!?たぶん今一番危険なのはレオナだよ。」
俺の提案をアンドウが否定した。
「ストリートギャングがレオナとクレアを探しているのは間違いないし、盗賊団にとって重要そうな情報を持っているのは≪
「確かに、その可能性が高い。でも、”蜂”が追手、つまり俺たちに敵意がある≪調教師≫が放ったとは限らない」
「”蜂”は味方かも、って言うんだ?」
「その可能性も考えるべきだってだけ。それで、もし”蜂”が味方だった場合、ギルドが味方か敵かで話は変わってくる。ギルドが味方なら俺たちをギルドで待てば良いし、急ぎなら職員に俺らの居場所を聞けば良い。理由が説明できるんならどうにかなる」
「そうか。”女王蜂”が味方っていう前提の場合、ギルド職員は信用出来ないってことになる」
「そゆこと。仮にギルドが信用出来るとしたら、拘束されて動けないけど、”蜂”と意思疎通ができることになる。<調教>だって立派な魔術だから、拘束した誰かがそんな事を許すとは思えないし、その場合でもギルドにメッセージを送るのが一番近道だ。コピーキャットとルイスを探す必要がある状況は考えにくい。」
「確かに、そうだけど......」
「それに、レオナとクレアは探索者だ。でもシーラは戦闘経験のある魔術士ではないから。あの二人ならあっさり殺されるようなことはないと思う」
「うん、そうだね。シーラからに賛成」
彼女は商人ギルド『クピディタース連盟』に斡旋されただけの派遣魔術士だ。探索者ではないから休日に外に出るようなことはないはず。
フルトゥームの中を歩き回られたら探すのに一苦労だが、今日は休日のはずだから早朝からは活動しないだろう。都市中を探し回るよりも宿を探す方が早いはずだ。商人ギルドで聞けば、信頼のある人間なら直ぐに連絡がとれる。
だが、商人ギルドの受付は面識のない人間に宿の場所を教えるとは思えない。
そこで、一芝居打つことにした。
◆◆
朝一のギルドは閑散としていた。
奥にカウンターに受付が3つ、それぞれの間には仕切りがある。仕切りは魔術がかかっており、前後方向は聞こえるが隣の会話は聞こえないようになっている。
もともと探索者ギルドと違って商人の取引なんかは事前にある程度話がついているものだ。商人ギルドの受付を使う奴なんて多くない。
目深にローブを被り、しわ枯れ声に変えて猫背で変装した俺は、若い受付嬢を選んで怒鳴りこんだ。
「おい!どういうことだ!加工屋のシーラを出せ!!」
「え、あ、お客様、どうされましたか?」
「商人のフィリップ商店のフランクだ!先日護衛任務を依頼したはずだ!」
「はい!承っております、です!」
受付嬢は突然の恫喝に目を白黒いさせていた。受付3人のうち見た目で最も経験の浅そうな受付嬢を選んでみたが、正解だったようだ。
どこかの商人の娘だろう、丸顔に赤い頬、背は160センチメートル程度の巨乳ちゃんだ。商人らしく交渉事になればゴネて呼び出してもらう予定だったが、可哀そうに、ビビっている。
早く警告を伝えられそうだからごり押しで、怒りまくってシーラの宿を調べる方針に移行した。
ちなみにフランクなんて奴はいない。
「荷車が故障しちまってる。シャーシが歪んじまってるんだがなんだか分からんが動かない
!今日は大事な商談で見本をたんまり積んで行かなくちゃあならんのに荷車が動かせん、どうしてくれるんだ」
「大変申し訳ございませんでした!い、今職員の中で木材加工系の魔術師を紹介いたします!」
「代わりじゃあダメだ。金は払っているんだ、シーラを呼び出せ、そうじゃなけりゃあ気が済まん!」
「それが、その、シーラは本日は非番でして、まだ宿にいるかと思うのですが......」
「じゃあ呼び出すか宿を教えるんだ、今すぐに!」
商人ギルドの偉い人が来ない程度に声量を調節したりと色々と気を回したが、うまくいったようでよかった。
アントニウスは、役割をこなす時に重要なのは、いかにそれらしいかだ、と言っていた。格好付けやがって、と思って聞いていたが、役に立ったな。
無事シーラの情報を得て、商人ギルドを出るとき、俺のポケットの中の泥団子がブルブルと動き出した。アンドウの連絡用泥団子である。
魔術<
しかし、泥団子に媒介となる魔石を入れればもう少し操作可能距離が伸ばせる。
動いたり震えたりする程度の簡単な動きしか出来ない泥団子でも、ポケットに忍ばせておけば緊急用の連絡手段になる。
右ポケットが”蜂”あるいは遠くに敵影、左ポケットが敵接近あるいはその他緊急の警戒、両方同時は今すぐ逃げろ、である。
今の信号は左だから、”敵接近あるいはその他緊急の警戒”。
元々ローブをかぶっているうえに顔をふせ、目だけ動かして周囲を確認しつつ、あたかも用事ついでに見ておく事にした、というように商人ギルドの掲示板の前に移動した。
すると、ギルド内にガラの悪い連中が入ってきた。
ガリガリのずるそうな顔立ちの男と背は低いが体格のいい男、そして建築系のオッサンのように頭にタオルを巻いた背の高い女性の三人だ。
全員動きやすい服装で、インナーの上に軽く上着をはおり、ブカっとしたズボンを履いている。
よく日焼けしているし、服も至る所に土が付いている。ストリートギャングの一人か。俺は彼らの話を聞いてみることにした。
三人組もさっき俺が怒鳴りつけた受付嬢を選んだ。ほんと可哀想な人だ。
話すのは女性で、他の二人はガンを飛ばしてる。
「ど、どうなさいましたか?」
「探索者は商人ギルドとも契約してるやつもいるんだよな」
「はいっ、中にはそういう方もいられます」
「なあ、人を探してんだ。背の低いのと背が高くて茶髪、それか黒とかの男二人組は商人ギルドにいるのか?」
金髪ポニテと青のショートじゃないのか。どういうことだ?
茶髪や黒髪に多いのは土魔術士だ。魔術の特性は魔術的価値がある部位、たとえば髪や目、血液や心臓に現れることが多い。小柄な男とコンビ......。
「あの、お名前などは分かりますか?どのような目的かをお聞きしなければ、お話出来ない決まりになっておりまして......」
「はぁ......。なぁ。頼むよ」
「いえ、その、どのような理由であるかを......」
「あぁ!?」
「っ!ごめんなさい!」
「なあ、お姉さんよぉ。偉い人出してくんねぇかな」
「はいぃ!!」
受付さんは涙目で裏に引っ込んでいった。
きっと彼女は今日で受け付けをやめるのではないだろうか......などと悠長なことを考えていると、怖い女性がちらりをこちらを見た。
不審がられる前に、芝居を続けながら商人ギルドを後にした。
そんなこんなでシーラの宿情報を手に入れた俺達は、その宿屋に向かった。
これもやはり安い宿で、俺達の宿の近くだった。
ここは一階に食堂もあるタイプだったようで、覗いてみるとシーラが新聞を読みながらくつろいでいた。完食した朝食の食器がテーブルの上に残っている。
すぐに見つけられたのは運が良い。
建物の中に入ってしまえば追手も気づかないだろう。アンドウに見張りを頼んで、ローブの中でコピーキャット用の仮面を被り、シーラに近づた。
「おはようございます、シーラさん」
「おら、猫さん。おはよう。どうしたの?」
「それが、マズいことになったかもしれません」
”蜂”使いの追手とマフィアの存在、今日は宿に籠っていた方がいいことを伝えた。
商人ギルドで一芝居打ったことにも伝え、後でギルドでフォローしてもくれるようにお願いした後、俺は足早に宿を後にした。
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