8. 蜂
翌日。朝飯に前日に買っておいたパンと干し肉を齧りつつ出発準備をしていると、アンドウがランニングから帰ってきたようだ。
「ローラン、おかしいよ」
「どういうことだよ」
「見張られてる......いや、探している?取り合えず逃げよう」
幼馴染で親友で相棒の言葉であるし≪戦士≫の直感は信用できる。魔術師が入口を見張っているかもしれないため、窓から逃げることにした。
「誰の仕業だ?」
「わからない」
「どんな<使い魔>?」
「蜂だった。不自然に宿屋の周りを数匹ブンブン飛んでたんだ。こっちが先に見つけたんだけど、追ってきた。ちゃんと撒いてから宿に入ったよ」
捜索用に使える<使い魔>なら鳥か虫がポピュラーであり、今回もその例に漏れず、蜂だったという。
一般的に<使い魔>は頭が悪いから、俺の水魔術 <
≪
俺達の宿は探索者が多く集うアイテム屋や武器屋が集まっている大通りから1本北側の裏道に入ったところにある。
宿屋の1階は玄関、水浴び部屋とラウンジ、居室は3つ。2階は居室が6つで通路をはさんで3つずつだ。
玄関があるのは南側だが、俺達の部屋は北側の最も東の角部屋だった。
魔術で霧を発生させてから、アンドウは窓から手を出し、泥魔術で地面から泥を細く伸ばして、魔力で補強することで木の棒程度の強度にした。
階化の居室に注意しつつ、棒を握って減速させながら滑り降りる。
都市の主要道路はレンガで整備されているが、田舎町の裏通りは整備されていない事は多い。だから簡単に泥の棒を作ることができた。
宿の周辺は民家が多い。ここに限らず、ブルタニア王国の歴史ある地域は大体人口が密集している。
都市の中心部は商人の町、外周では農業や畜産が行われている。このフルトゥームは人口増加によって、長い年月をかけて城壁内の畜産地域をつぶし、農民や商人向けの民家や魔道具工場にした。そのうえで新しい都市外壁を築き、二重壁の間に畜産業を移転させている。ブルタニアの歴史は都市拡大とそれに伴う問題の戦いの歴史とも言える。
窓から外にでた俺たちは、周囲を確認しつつ裏路地へ進み角をを曲がりかけた。
そのとき、人影が見えたため、先頭のアンドウはすぐに引っ込んだ。急に止まったアンドウにローランがぶつかった。
「なんだよ」
「人だ。黒いローブに長身。髪は赤かったと思う」
逃走経路を変更し、細々とした民家の間を駆け抜ける。
アンドウの直感によって追っ手を撒いたところで息をついた。
「...うん、大丈夫、撒いた」
「ふぃー。...蜂の<使い魔>か」
虫が<使い魔>になることは多いが、蝶、蝿などは魔術的な意味を持つ虫もいる。伝承によれば蜂は、たとえそれが姿形が全く同じ双子の兄弟であっても、魔力から特定の人間を見つけ出すことが出来るという。
それに、<世界の小記録簿>によれば、蜂は1日に100キロメートル近く飛飛ぶことが出来るという。蜂は目が悪く、3メートルくらいまでしか見わけられない上にブンブンうるさいから分かりやすいが、丸一日中都市全体を探し回られたら厄介だ。
いずれ見つかってしまう。魔術士を捕らえる方が合理的かもしれない。
“コピーキャットと泥人形ルイス” はここしばらくはフルトゥームに来ていない。とすれば一昨日の盗賊団関係者と考えるのが可能性が高い。盗賊団はまだ捕まっていないのか?
考えられるのはマフィアのペローネファミリーかストリートギャングだ。
まずいことになった。
最悪の場合、マフィアを相手にしなければいけない。
だがマフィア相手だと分が悪いため、その場合はギルドに頼んでひっそりとフルトゥームを出るしかない。探索者は信頼の商売だ、任務の放棄はなるべくしたくないが。
騎士団に相談するにしても協力してもらえないだろう。騎士団のうち第一騎士団は都市の治安維持、犯罪捜査を担当しているが、これはもっぱら力を持たない市民のための剣であるということになっている。被害が出ていない場合、探索者は自分で対処するという暗黙の了解だ。
「はぁ。なんでこんな目に......」
[盗賊団の報復と考えるのが妥当だろうな。盗賊団のモグラ使いめ、蜂も使えたか」
「≪調教師≫が一人とも限らないよ」
「そうだな」
問題は、盗賊団のメンバー構成じゃない。より緊急性のある問題は
「追手が何者か、俺らで対処できる勢力なのか、だ」
思い出すのは昨日のこと。トラッシュがクレアとレオナを追っていた。”蜂”と関係があるのか、無いのか。あるとしたら、どう関係するだろうか。
「マフィアさん達だったらどうする?真っ向勝負?」
「マジにマフィアだったら任務を放棄してさっさと逃げよう」
「門番を買収していなければね」
こうして”蜂”使いの≪
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