7. 肉を食べよう

 貧民街に行った後も細々と情報収集した。

 どうやら盗賊団はまだ捕まっていないらしく、探索者達への注意喚起がギルド内でなされていた。まぁそんなもんだろう。

 盗賊団はまだ外に隠れているのであろうが、何日もつのか。実はもう竜種の餌食かもしれないな。

 俺達も夕飯にするべく、トレイシーに教えて貰った飯屋に行った。


 フルトゥームの周辺は川や沼など水が豊富で、淡水魚が良く取れる。

 また山々にも恵まれており、北西には多様な植生をもつ大山”ベリアの森”が、南西には霧に包まれた"ヌービスの森"がある。これらの森ではツチイノシシやキリジカ、シシジカが取れる。 

 ツチイノシシは鼻を地面に突っ込んでキノコを探し回る生態を持ち、肉が美味い。

 キリシカは水魔術<惑いの雨ミスティミスト>で、霧を発生させて隠れながら生活しており、肉が美味い。

 シシジカは幻の獣、シシのような顔から首全体を覆う黄金のたてがみを生やし、森の中を高速で駆け回る。また、体長1メートルのシシジカでは、頭部から1本、0.5メートルの鋭い角が生えており、魔術で再生する事が出来る。ヒットアンドアウェイで次々と角を打ちこむ事で時には中型竜種すらも撃退するが、角を持つのはオスだけである。

 大変稀少だが、餌にありつけるからか強い魔物ほど肉が美味い。


 んで、やって参りました、飯屋ヤマメシ。

 市街地を少し外れ、アングイス川沿いを上流にむけてしばらく歩いたところにある、フルトゥーム近隣の山で取れるのジビエ肉の専門店だ。

 昨日のメシは山菜だったから成長期の俺達には物足りなかったが、今日は肉を食うのだ。

 店は簡易式ではなく立派な作りの木造風、内装はこざっぱりとした雰囲気で、シカの頭部の骨が飾ってあるのが目を引いた。

「おい、アンドウ。こりゃ完全にアタリだ」

「ローラン、見てよ、この美しい桃色の肉!ミソの香り!」

 囲炉裏のようになっている席に着き、注文したのは四人分のぼたん鍋である。

 このあたりの地方ではマメが良く取れる。他国伝来の万能調味料ミソはマメを元に作るらしい。なんであの白っぽいマメが茶色になるのかは謎だが、そんなことはミソ屋が知ってさえいれば良いのである。重要なのはフルトゥームミソは魚を煮ても肉に付けて焼いても美味いと言うことだけだ。

 ネギ、数種のキノコ、ツチイノシシの肉をどっさり入れ、酒とミソが合わさったスープでぐつぐつと煮る。ふたが閉まったままですら、この食欲を爆発的にそそる香り。何かの香辛料を加えているのかも知れない。

「おちつけ、まだ火が通ってないぞ.......」

「冷静になるんだ、最高のタイミングを見逃してはならない......」


 店主の合図を今か今かと待つ二人。

 体感としては永遠にも等しい時間ののち、二人のどちらかが暴走する日と思われた時。

「出来たz 」

「「いたたきまーーーーす!!!!」」

 実践で鍛えたれた瞬発力でお玉をつかもうとした手は二つ、勝負を制したのは≪戦士≫アンドウであった。

「ぐぬぬぬぬ!」

 思わず呻くローラン。

 彼は人類に討伐される寸前の竜種のような強い意志と恨みの表情をしているが、アンドウの瞳にはぼたん鍋しか映らない。

 アンドウが渡したお玉をひったくるようにしてつかみ鍋の肉を装い、脂でてらてらと輝く肉を頬張った。

「うまーーーーーーーーいいいいい!!!!」

「うめえええええええええええええ!!!!」

 濃いめに足付けされた汁の中でも、キノコのダシは決して負けることはなかった。

 その香り、戦場に凛と立つ騎士のごとし。ツチイノシシは赤身のしっかりした肉質であるが、脂も多くに含んでいる。褐色の汁に輝く黄金の脂の玉、汁のからんだ肉を含めば少年たちの求めていた肉の味、脂の旨味が口いっぱいに広がった。

 キノコを主食にしているからか肉本体からもほのかに感じる。次にキノコを食べてみればプリプリとした食感が新鮮だ。ツチイノシイとキノコを余すところなく楽しめる贅沢な鍋である。

「あ、お前肉取りすぎんなよ!!」

「いやいや、大体半分でしょ」

 鍋に対して取り皿はあまりにも小さく、肉を多くキープするような事は出来そうにない。

 そして、彼らは食の紳士でもあった。

 先に小皿を食い切った物から先に次を装う権利を与えられるとう暗黙の了解に従い、ぼたん鍋がなくなるまで、ぼたん鍋を楽しみつつ、二人の戦いは続いたのだった。


◆◆


 深夜、飯屋の帰り道。昼間は人で賑わう商店街も夜は人通りが少なくなるが、住宅街に近づくとパラパラと人が見えるようになった。若者が多い気する。

 警戒するに越したことはないため、ローブのフードを深く被って足早に移動することにした。

 しばらく道を歩いていると、違和感を感じた。同じ足音が続いている。

 尾行されている?

 蔓が絡まった家の前を通る道から一本裏道に入り、そこからさらに細い道に入った。

 曲がる際にちらりと来た道の方を見ると、先ほど見たのと同じ二人若者たちが二人見えた。間違いない、追ってきている。

 次にもう一度曲がってから、低いレンガ造りの家の屋根によじ登って、地面を瞬時に泥と氷魔術でツルツルにして彼らを待ち受けた。足元にはトラップ,上には俺たち,という布陣だ。

 二人はろくに軽快せず早歩きで曲がった瞬間に、突如摩擦を失った地面を勢いよく踏んでしまい思いっきり尻餅をついた。

 そこでアンドウすかさず降りてナイフを構え、俺は二階から火魔術の指輪を輝かせて「動くな!」と叫んだ。

 若者達は突然の事態に目を白黒させたが、黙って従った。


 二人を頭の上に手を組んだ状態で壁際に立たせ、ローランが質問した。

「何の用だよ?」

「すまない!」

「俺等は悪気があったわけじゃない!むしろ人助けをしようとしたんだ!」

 右の170センチくらいの黒髪の青年は端的に答え、左の青髪で175センチのくらいの青年は慌ただしく言い訳をした。

「青いの、どういうことだ?」

「トラッシュに頼まれたんだ。女が二人、狙われているかも知れないから見つけたら助けてやれって!」

「お前らはダウンストリートか?噂の "flack of frags" のメンバーなのか?」

「ああ、そうだよ!」

「俺等が女だってのか?俺が可愛いと思うのかよ?」

「ちっ違う!あんたらはフードを被ってたし、背は高くないし、動きが、その、変だったから......」

アンドウがナイフの先で青髪のを軽くつついた。

「嘘じゃないだろうね?」

「マジだよマジ!追いかけたのはすまなかったって」

「トラッシュか。その二人の特徴は?」

「一人は緑の瞳に金髪のロングでポニーテールにしていることが多い、もう一人は青いショートカットで剣を持っている、若くて綺麗な二人組だって言ってたぜ」

 俺をアンドウは顔を見合わせた。

 クレアとレオナの特徴と一致する。

 トラッシュが二人を追わせている?何のために?

 だがまずはこの二人に確認しないといけないことがある。

「キミたち、その二人がほんとに綺麗だったらどうするつもりだったのかな?」

「あぁ?そんなもん......その、匿ってあげたヒーローとしてお友達になってだな......」

「そんで?」

「まぁその将来的にはお胸とかとだなぁ」

 俺と相棒は奴らのふくらはぎを思い切り蹴った。

 俺も8歳くらいまではそういう物語を信じていました。

 何かされたわけでは無いから痛めつける必要は無いだろうと判断し、一通り話を聞いた後解放してやった。

 彼らもなぜトラッシュが二人を匿おうとしているかは知らなかった。どういう訳だろうか。

「あの二人、以外と人道的だったね。」

「アンドウお前......」

「え?あれ?」

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