4. フルトゥーム

 盗賊団の追撃はなく、俺たちの荷車は奇跡的に全くの無傷だった。護衛の探索者、特にクレアは負傷していたが、命に関わるようなケガではなかった。そのため残りの移動もスムーズに進み、無事目的地フルトゥームに到着した。

 日が傾いてきていた。

 門番に盗賊を捕らえたことを説明する手間が増えたが、同じ時間帯にここに着いた団体がいなかったためスムーズに都市に入ることが出来た。

 門にかかっていた時計は、18時04分を指していた。探索者にとって必須アイテムの懐中時計も門の時計と同じ時間を指していた。


 フルトゥームはブルタニア王国の最も西に位置し、衛星都市カエルムの南西、都市ノクスの北西にある。

 それぞれに向けて、北東と南東に大きな城門が開かれているが、他に西の方向にも門がある。これは探索者達や猟師のための門であり、大きくはない。

 また、都市は北西から南東へかけて大きなアングイス川が流れている。少し幅の狭いラムース川が、アングイス川と都市中心部で合流している。

 町並みは、北東のカエルム側城門と南東のブルタニア側城門が主要であり、この二つを結ぶようにカーブした大通りが並行に2本通っている。この大通りはアングイス川とアングイス橋で交差している。

 その周辺が人々が集う商店街であり、商人や民家等が密集している地域だ。

 家々はレンガ造りか木造が半々である。街並みは竜種の襲撃を想定した作りになっているからだ。

 <火の玉ファイアボール>を再現する一般用魔道具<火蜥蜴の杖>をはじめ、戦闘魔術に対して木造は脆すぎる。一方で、材料が豊富で木魔術で簡易的に建築できるため木造建築は安価だし、修復も早い。このトレードオフの選択を過去と現在の住民が繰り返した結果、かなりちぐはぐな町並みになっている。

 ただし、最近では大きな竜主災害に遭っていないため人口が増加し、都市部の人口密度が高まっている。それによって、街の雑多な印象が増しているように思えた。


 俺達はギルド『夜明けの天馬』フルトゥーム支店に向かった。ギルドはアングイス橋の少し北側、フルトゥームの中心部にある。

 そもそも探索者ギルドとは、探索者の情報収集、探索者への任務依頼、都市の出入りの許可証の発行などを行っている民間の集団であり、複数のギルドがある。

 探索者には、門番に許可証とギルドカードを見せる事に加え、帰還したらギルドに報告する義務がある。王家と役割を信託されたギルドには、市民の命を守る責務があるとされているからである。

 商人達の間で同じような役割をしている商人ギルドというのもある。捕縛した盗賊の引き渡しはどちらを経由しても良いが、こういった事は商人ギルドよりも探索者ギルドの方が得意であるため、盗賊団員は俺がギルドを通して騎士団への引き渡すことになった。

 受付で盗賊ABCを引き渡せば今回の任務は一時的に終了となる。帰路も護衛任務をするため、帰りの直前にまた再度集合する事となっていた。

 

 帰りまでの滞在期間はギルドの安宿に依頼主の金で泊まれるし、一般的な食事代金も出してくれる契約だ。

 だが今回の働きにいたく感激したフィリップは、飯代を多めに出してくれるようだ。おそらくトレイシーの口添えだろうが。それを聞いた俺とアンドウはがっちりと握手を交わした。

 後でトレイシーにちょっと豪華なディナー情報を聴きに行かなくては。飯を楽しめるのは一日に多くて3回しかないのである。有意義に使わなければ!


◆◆

 

「お疲れ様です、コピーキャットさん」

「お久しぶりです、ジェフリーさん」

 ギルドの窓口のジェフリー・グエンさんに声を掛けた。

 真面目そうな雰囲気にメガネ、その奥の鋭い金色の瞳。男性だが長く明るい赤毛をポニーテールにまとめている。ナイフが真面目な人の仮装をしているような人物だ。

 彼はかつては『熱線のジェフリー』として暴れまわっていたと聞くが、怪我で左腕が上がらなくなってしまってからは恩のあるギルドで職員として働いているらしい。

 ギルド職員はジェフリーさんのように現役引退した探索者が働いていることが多い。荒くれ者は多いギルド内には、現場を知り、かつ腕の立つ探索者が適任だという。

 フルトゥームのギルドは小さいため、ギルド職員の人数が少ない。ここに来たときはだいたいジェフリーさんに対応して貰うことにしている。


 まずは今回の盗賊について、見た事などの事実と推測を報告した。

「その盗賊団はずいぶん手慣れていたんですね」

「かなり計画的だと思いました。イタチモグラ4頭を飼育出来るような広いアジトがあるんと考えれば、バックにはデカい組織がいるんじゃないでしょうか」

 魔術は安全を守る為だけに使われる訳じゃない。

 都市内部は騎士が治安を維持しているしギルドには荒くれ者の働き口としての側面もあるが、都市が大きければ大きいほど大規模なギャング、マフィアといった非合法な武装勢力が存在する。

 隠れる場所が狭ければ狭いほど、悪党はシステムに潜り込むものだ。

「...フルトゥームには確かにいます。『豪商』フィオレンツォ・ペローネが裏で怪しい取引きをしているという噂があり、騎士団第一師団も目を付けていますが、証拠が挙がらず、また商人達に大きな影響力を持っていまから、武力で争うことになれば様々な問題があります。」

 不穏だな...。

「もしもの時は、ギルドはどうするんですか?」

「現状、静観する方針です」

 騎士団とは独立した、大勢の戦闘員を抱える組織であるギルドが動くか動かないかは、ペローネファミリーにとって大きな影響を持つはずだ。

 我らがギルド『夜明けの天馬』は、裏でなにか取引をやってるのだろうか?怖い都市だ

 このあたりはギルドごとに方針が異なるはずだ、情報を集めるべきかも知れない。この都市の大手ギルドは他に『地平の巨人』『戦場の薫風』『白い踏破団』だったろうか。

「他に、若い衆が自警団と称して集まっているのを見ますが、実体はストリートギャングです。用心してください」

「分かりました、ありがとうございます」

 探索者ギルドが、逃した盗賊が帰還したとき、捕らえられるように門番や騎士団に連絡してくれるとのことで、これでお仕事前半は終了である。

 フルトゥームの治安の悪さは驚いた。

 その後、宿泊する宿を確認したりクレア達ことを気に掛けてやって欲しいことを告げて任務前半は終了した。

 まぁ二人は新米とはいえ探索者だ。もしストリートの若者に絡まれても、痛い目に合うのはそいつらの方だろうが。

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