3. 襲撃

 昼食後、14時過ぎ。道が荒れ、前方に林を見据える地点で敵襲である。不自然な魔力の高まりがあった後、荷車の進行方向から右後方で金属音が聞こえた。


「っ......敵襲!!」

「クレア!?」


 クレアの緊迫した声と、クレアを心配するレオナの声。負傷したか。

 それとほぼ同時に、左前方から多数の <火の玉> が飛来した。轟々と燃える拳大の炎の砲弾が3発。目を向け、塹壕から撃ってきている複数の敵を確認した。敵の姿は3。とっさに俺は <氷の盾アイスシールド> を前方に大きく展開した。左手中指の魔石が輝き、直径3mの氷の大盾が現れる。熱された空気に混じって、大盾からの冷気が左手から首元に抜けた。予め大盾を瞬間的に発動できるように仕込んでおいて正解だった。

 一瞬遅れてルイスが固有魔術 <泥の弾丸マッドバレット> を発動、拳大の泥の玉を射出すし、俺が防ぎきれなかった <火の玉>を相殺した。

 ”泥人形ルイス”の固有魔術 <泥遊びマッドパレード>は水魔術と土魔術の融合で有り、泥を自由に操ることが出来る。この泥を全身に纏うのが ”泥人形ルイス” の名前の由縁で有り、魔力操作によって生身より遙かに強い力を出せる上、泥を飛ばす派生技 <泥の弾丸> は一般的な <石の玉> より強力である。

 初撃は凌いだが、遠距離からの攻撃は止みそうもない。おそらく複数が攻撃している。

「レオナ、大丈夫か!?」

「クレアが負傷したが、対処は可能だ!」

 ちらりと右側に目を向け、配置を今一度確認した。

 荷車は2台で、先頭の1台の右側にはレオナ、屋根には俺。後方荷車の右側にはクレア、左側にはルイス、後ろ向きに腰掛けているのが木工シーラと用心棒ジョンだったが、ルイスは敵襲に対応するために前に出ている。敵は明らかに人間の盗賊だ。右側から隠れて魔術弾を仕掛け、先手でクレアを負傷させた後、レオナを標的に移したようだ。レオナは <石の玉> を剣で弾きながら敵魔術士に迫っており、フレアが見たことのない光属性の魔術弾を放っている。

「右側は任せて良いか!?」

「了解した!」

 左側からは先ほどから <火の玉> を放ってきている。そろそろ <氷の盾アイスシールド>が限界だ。すると、ルイスが形成した特大の泥大砲が目に入る。あれは、俺が火魔術を内側で爆発させてルイス本人を打ち出すというダイナミックな移動用魔術だ。声を出せない泥人形の相棒の意思を汲み、

「ルイス、行くぞ!」

 火魔術を発動......しようとしたところで、違和感に気づいた。おかしい。さっき、なぜクレアの次にレオナを襲った?いや、移動中の荷車を狙っているのに、なぜ真っ先にウシトカゲや車輪を狙わないんだ?

「まて、ルイス、私は後ろにいく、ここは任せた!ウシトカゲも守れ!」

 ぎょっとしたように俺の方を向いた泥人形を無視し、荷車の上を全力で走る。レオナはおそらく遠距離攻撃用の魔術が得意ではない。

「クレア、右のは一人で押さえろ!レオナ、後ろに来い!」

 屋根を走る俺を見たのであろう、土魔術士と思われる盗賊は、荷車の先頭にいるおそらくトレイシーに標的を変更した。マズい!数発の敵の<石の玉>に遅れて俺が<火の玉>で牽制しようとした時、光の魔力が凝縮したような<壁>が<石の玉>を弾いた。クレアが対応してくれた様だ。<光の壁>が無ければトレイシーは無事ではなかっただろう。

「行ってください!」

「感謝する!」

 

 荷車広報後方には敵のイタチモグラ4頭が荷車についていた。イタチモグラは俊足かつ高速で穴を掘れる1メートル前後の魔物で、つぶらな瞳と岩を砕く恐るべき爪が特徴だ。

 やはり、この襲撃は<火の玉>と<石の玉>を囮にして荷物を奪う戦略か。

 イタチモグラと隠れている≪調教師≫が盗賊を運び、前方の<火の玉>と右側の<石の玉>に探索者の目が集まっている間に、本命の実行部隊が後方から制圧、右側の土魔術士と連携して後ろの荷車だけ奪う算段だろう。まずウシトカゲを狙わなかったのは乱戦を防ぐためか。

 

 布で口元を覆い短剣を持った盗賊たち3人が俺たちの荷車に乗り込んでいた。イタチモグラが地表に飛び出した時点で盗賊が毒吹き矢でも吹きかけたのであろうか、ジョンはすでに気を失っており、荷車の端に縮こまったシーラには今にも短刀が振り下ろされようとしていた。

「<火の玉>!」

 左手を突き出し魔術を発動させながら屋根から荷台に飛び降りる。空中で左人差し指の火属性の魔石が赤く輝き、<火の玉>が発動。シーラを襲っていた盗賊を弾き飛ばす。敵は三人、一人で荷車を守らなければならない。状況は不利だが、

「レオナ!!」

「わかってる!!」

 指示は聞こえていたらしい。レオナが駆け付けるまでの約5秒間凌げばいい。

 さっき<火の玉>ではじき落した盗賊は荷車から転げ落ちたから復帰までにまだ時間がかかるため無視できる。遠距離武器があれば厄介である。乱戦に持ち込むため速攻を仕掛けるか。

 荷車は重量の関係で人間がなかで休憩できる程度のスペースがあった。荷の手前まで入っていた盗賊二人に向きあい、「アァぁああ!!!!!!」<砂狼の遠吠え>で威嚇のために大声を上げた。盗賊団の男の一人、盗賊Aが短刀を大振りに襲い掛かってきた。

「おらぁ!!」

 コピーキャットの瞳の奥が一瞬輝き、右の盗賊Aの構えは騎士団式だということを<想起>した。

(知ってる剣捌きだ)

 盗賊Aが打ち下ろした短刀は騎士団の教えの通りの弧を描き、足腰の連動を促す。剣捌きに加えて、荷車のスペースの広さを踏まえると、セオリーでは躱した次は切り返しである。

 予測したタイミングで踏み込むように見せかけるフェイントを仕掛け、空振らりをさせる事に成功した。

 その隙に身体強化魔法<蛮族の腕ストレングス>を発動、ローランの右の中指の指輪が赤く輝き、光は腕に絡まった。短期間のみ腕力を強化する魔術だ。

 強化された右腕の正拳突きが、隙だらけの腹に炸裂した。ふらついた盗賊Aを前蹴りで押しのけつつ、隙を見ていた盗賊Bの短剣による突きを蹴りの反動を使って躱した。

 盗賊Bの右手による袈裟切り、Bは明らかに素人の動きだと判断し、攻め込む。深く踏み込み、小柄な体を活かして潜り込む。右手で敵右腕に触れつつ左手は首元の服をつかみ腰を低くして当て、右手をつかみ相手の力を自分の背で滑らすように投げ飛ばす。背をついたBがむせている隙に<ストレングス>を込めた拳で気絶させた。

 腹パンを食らってふら付いていた盗賊Aが立ち上がったため、用心深く目を向けつつゆっくりと近づく。盗賊Aは焦っている様子だ。

「コピーキャット!」

「外のから制圧してくれ、≪調教師≫に注意」

 レオナが到着し、盗賊Cに斬りかかる、それとほぼ同時にイタチモグラの陰から≪調教師≫と思われる男が短弓でレオナを狙ったが、矢は難なく剣で叩き落とされた。

「撤退!!」

 敵の誰かの声が撤退命令を伝える。その後、冷静さを欠いた相手など相手ではなく、俺は盗賊Aを捕縛し、レオナが盗賊Cを確保、イタチモグラ1頭を殺した。≪調教師≫、右方、左前方の魔術士達は逃げおおせた。

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