2. チーム

「さっきローランだけ話しかけられてたね」 

「なんだ、うらやましいのか?」

「そんなんじゃないけど。デレデレだったじゃん」

「マジ?うわー、あの二人にバレてたら辛いな...」

「頼りない先輩じゃん」

「うるせー」


 昼食後半、俺達はサンドイッチと差し入れのビスケットをもそもそ食べながら軽く話していた。”コピーキャット”は仮面、”ルイス”は泥の鎧で顔を隠しているが、飯の時は口元を露わにせざるを得ない.俺たちは半分仮面を解いて,荷台の隅でコソコソと飯を食べていた.

 仮面で顔を隠していても声でまだ若いことがバレかねない。そこで俺は、声を大きくする魔術<砂狼の遠吠えウルフハウリング>を改良して作った<惑わしの遠吠えミスティハウリング>で声を変えている。

 アンドウはこの魔術が使えないため、話す事が出来ない設定を演じている。何を考えているんだか分からない泥の巨人は大変不気味である。

 

 カエルムとフルトゥームを繋ぐこの “道” はそこそこ長く、旅程は移動は丸一日かかると予想して考えている。

 17時半までには到着するはずだ。日が長くなってきているから、18時くらいまでは明るいだろう。


 竜種との陣地争いをする関係で、都市都市間は近すぎると国土面積が長期的に小さくなるし、そうなると取れる資源が少なくなる。だから都市間はウシトカゲの荷車が一日で移動できる範囲ギリギリで作られているのだ。

 楽観視できるほどの時間的余裕は無い。日没までに都市にたどり着けなければ野宿になる。だが、塀の外で野宿なんて命がいくつあっても足りない。”道”にいても大型魔獣は寄ってくるからだ。

 火をたけば魔獣除けになるが、夜行性の竜種は火程度ではビビらないから、目立つためむしろ竜種を呼び寄せてしまうため火を炊くことができない。

 そのため、”道” の近くに穴を掘って塹壕のようにし、一晩中暗闇で視界が取れない中を交代で見張ることになる。

 しかも今回は商隊だから荷車を隠す大穴を掘ることになるから、現実的ではないし最悪どころではない。

 ”道”によっては野宿用に休憩地点があるところもあるが、この ”道” にはない。日没までには絶対に間に合わせなければならない。


 俺達が飯を食っている間に、木工担当のシーラ・ホプキンスが荷車の点検をしていた。

 前回もシーラと≪調教師テイマー≫のトレイシー・ストークスは同行していたため、すでに挨拶は済ませており、何度か話している。今も軽く声を掛けておこう。人間関係は大事だ。

 シーラは明るい茶髪の女性で、髪は癖がある髪を伸ばしているがよく整えている。160センチ前後、中肉中背、おそらく30代後半で、寡黙でしっかり者、子供が2人いるらしい。

 自分では職人気質と言っており、魔術は物作りに活かしているという。木材を加工したブレスレットを付けている。手製の魔道具だろう。

「お疲れ様、シーラ。結構 ”道” がボコボコだけど、荷車は大丈夫かな?」

「お疲れ、猫さん。たしかにボコボコだけど大丈夫。この辺で竜種が暴れたのかもね」

 ギルドの報告にはなかったが。小型竜種や魔物が暴れた程度ならギルドには報告しないかも知れない。

「そうかも知れない。気をつけるよ」


 トレイシーがウシトカゲの世話を終え、飯を取りに戻ってきた。

 トレイシーは元気はおばちゃんで、恰幅がよく、身長は150センチぐらい、肩で切りそろえた赤毛。彼女はフィリップ氏の嫁の義妹らしい。腕のいい≪調教師テイマー≫で、商人組合ギルドで良く仕事をしており、各地で仕事をした経験がある。

 この護衛任務の間はウシトカゲの世話だけじゃなく、周囲の警戒の為にモノミカナリアも連れて来てくれている。経験豊富であるため、旅先が被ったら美味い飯屋を聞いてみると良いところを教えてくれる。

「お疲れ様、トレイシーさん」

「やぁ猫ちゃん。クレアちゃんのクラッカー食べた?美味しいよー。良い子だねぇーあの子達。仲良くしてあげるんだよ!」

「食べました、そのつもりですよ」

「そーかい!そういえば猫ちゃんいくつなの?私の勘だと同じくらいなんじゃないの?いやまぁ詮索はしないけど」

 バレてるのか!?いや、この前も同じようなノリで30歳だろとか言ってたな。大丈夫だろう。

「そうですね、訳ありで」

「そーよねー。あーお腹すいちゃった。じゃあね、午後も頑張りましょうねー!」

 あんまり話を聞いていなかった気がするが。楽しいおばちゃんなのである。

 先にウシトカゲの面倒を見てから昼食としたのだろう。これから昼食らしい。移動中はトレイシーは荷車先頭でウシトカゲに指示をするが、飯を食べながらでも可能だ。


 移動中、シーラともに用心棒の≪戦士≫ジョン・ボイントンは荷車の最後尾で後方の監視を担当している。

 ジョンは180センチくらい、筋肉マシマシなゴリマッチョであり、黒髪の短髪の40代。そうとう鍛えているが、それに加えて腕力を強化する<蛮族の腕ストレングス>を再現するアームリング <剛力の腕輪> を装備していた。市街地で武器を振るう訳にもいかないため筋力強化に特化しているのであろう。

 また、外での戦闘に備えて一般的な長剣と土属性簡易魔術が仕える市販のステッキ<団子鼠の杖>も装備していたが、彼の巨体には不似合いだった。

 昔は武闘派だったが魔術的な才能に恵まれず、商人ギルドで用心棒をしているのかもしれない。

 <団子鼠の杖>は下級地属性魔術の <石の玉ストーンボール> を再現するもので、魔術で拳大の土の玉を作り出し、射出する。

 魔術制御によっては遠投よりも当てやすい。打ち合わせでは遠距離魔術の練習は積んでいるとの事だが、”外” での戦闘では期待しない方が良いだろう。

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