第688話
「シェリーミディアはそのシュロス王という存在が危険だと言っているのか?」
ミゲルロディアはシュロス自身が危険人物なのかと、シェリーの言葉から解釈した。
シュロスが危険人物かと問われれば、違うと答えるだろう。言うならば、ただこの世界をゲームの世界と勘違いし、勘違いを現実化し、そのまま突き進んで行った者であると。
しかし、これはシェリーが見せつけられた部分だけであって、白き神曰く『普通だった』という頃の話だ。
普通ではないシュロスはどう変貌を遂げたのかはシェリーにはわからない。
「危険……危険なのはその能力ですね。思ったことを現実化してしまう特殊な能力です。ですから、アーク族より先に未だに生きているシュロス王の捕獲が、大事になってきます」
「シェリー。捕獲じゃなくて、保護ってことかな?」
「カイルさん。捕獲でいいです」
どちらかと言えば救出に近い状態であると考えられるが、シェリーからすれば、捕獲して檻の中にでも入れておくようにということなのだろう。
「ということなので、今からその場所に行って、掘り返します」
「今から?」
「今からです。今、位置が特定できましたから、ちょうど良いでしょう」
シェリーはさっさと危険人物に認定されつつあるシュロスを掘り起こそうとしている。本当であれば、そのまま埋葬しておくのがベストなのだが、シェリーは気になることがあったのだ。
それは白き神が言った言葉だ。『シュロスを王として、お前たちが民として存在している間は、この神界と地上の間にある空間を自由に飛ぶ権利を与える』という神言だ。
ということは、未だに王としてシュロスを崇めているのである。地に落ち立つことができる存在を複数生み出すことができれば、シュロスの存在を探し出すだろう。
そして、気になる魔王という存在だ。先日、宣戦布告のように各地に次元の悪魔を送り込んてきた。
この魔王には恐らくアーク族が絡んでいる。何故なら前回の魔王が顕れたときに、完全体の悪魔たちは、魔王の指示に従う存在として認識されていたからだ。
ここでゲーム脳のシュロスと世界に一斉攻撃を仕掛けた魔王という存在が手を組めば、まさにこの世界は混沌と化すだろう。
それはなんとしてでも避けなければならない。
「俺も付き合おう。神殺しの王には興味がある。あと場所を把握したとはどういう意味だ?」
モルテ王は神殺しの王に興味があるらしい。
彼もまた、人の話を聞かない存在だったと、シェリーは思いだす。エフィアルティスという名を持っていた王太子の話だ。
神という存在は、そのような者たちを好むものなのだろうかと、モルテ王のことをジト目で見てしまっている。
「場所の特定はそういう能力ですね。条件は存在しますが」
「そういう能力か。ラースの者たちは変わり者が多い。さて、ではさっさと参ろう。大公ミゲルロディアよ。中々、楽しい時間だった。ここは女神の目があるゆえ、今度は我が国に招待しよう」
モルテ王は女神ナディアの目から逃れたいのか、スッと立ち上がり、ミゲルロディアに言葉をかける。
ミゲルロディアとモルテ王はある意味異質な存在であり、国を治めるものだ。何か思うことがあったのだろう。また会う約束を口にしている。
「有意義な時間でした。またお会いできる日を楽しみにしております……ときにモルテ王。シーラン王国からの招待状は届いておりますか?」
不意にミゲルロディアが、おかしなことをモルテ王に聞いている。モルテ国から出ることがないモルテ王に、シーラン王国から招待状など届くのだろうか?そもそも何の招待状なのだろう?
「いや。何のことだ?」
モルテ王はミゲルロディアが何を言いたいのかわからないようだ。いや、そんなものは届くはずもない。
シーラン王国とは国境が隣接しているため、外交という最低限のことはしているが、招待状が届くような親しい関係かと言えば、ノーと答えるだろう。
「そうですか。姪のシェリーミディアがシャーレン精霊王国から、聖女として認定される儀式とお披露目パーティーがあるのです。それに招待されているのであれば、そこでお会いできるかと思ったのですよ。初代炎王とも、そこでお会いしましょうとお約束したものですから」
「は?炎王は5代目に、その辺りは任せているとのらりくらりしていましたが?」
ミゲルロディアの言葉にシェリーは耳を疑った。表立って炎国の王としての立ち場を取るのは、五代目の炎王だからと、いつも言っている炎王が、各国が集まるシェリーの聖女認定式に来ると言っているのだ。
それにつられ、魔人であるミゲルロディアさえシーラン王国に足を運ぶと口にしたのだ。
これはどういう心情で、ミゲルロディアがシーラン王国に行くという形になったのだろうか。
魔人であるミゲルロディアがだ。そして、そのモルテ王を認定の儀式に誘おうとしている感じが見え隠れしている。
不死王として存在し続けているモルテ王を、たかが聖女の認定の場所に招待するということは、絶対にないと言い切れるものだった。
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