第687話
「話を戻します」
シェリーは遠い目をしながら言った。
きっと白き神は己に似た者を最初に変革者として選んだのだろうと。
そして、カイルの嫉妬の所為で話がずれてしまった。
「私がその場で聞いたことは、白き神はアーク族が地に落ちれば、再び空には戻れないと言ったことです。これが一番鍵だと私は思っています」
シェリーの言葉に、二人の国主が唸っている。それにモルテ王はそれなりにアーク族と接点があるような感じだ。ということは、地上にアーク族がいたということなのだろうか。
「地に落ちるとは空島が、ということか?」
モルテ王にはそこがやはり引っかかるのだろう。確かにエリザベートに落とされた空島は存在し、そこにいたアーク族の子孫と思われる種族は未だに、シーラン王国に住んでいる。
「白き神の言葉が何を指すのかなんて知りませんよ。ただ神がアーク族と名を与え、呪で縛ったと感じただけです」
「アーク族とは神が名を与えたのか……それは、我々ラースの一族と同じということか」
ミゲルロディアは神が一族に名を与えたというところで納得した。神がそう在るように決めてしまえば、矮小な人など神の力に従うしかない。
女神ナディアは加護というもので一族を縛り、愛するラースの国のため命を捧げるようにと示しているのだ。
ならば白き神はアーク族という者たちに名を与えることにより、人が生きていくには過酷な上空で住まうことを許し、地に足が着いた時点で、それはアーク族ではなく、地に生きるものと定めが書き換わると呪で縛ったのだ。
「そしてモルテ王が地上に落としたという島。二柱の神から命を与えられたモルテ王が呪われるほどです。相当、アーク族にとって価値があるものが、その島にあったということですよね」
狂王と二つ名がつけられる程に理性を無くしたモルテ王の呪い。神の力で創られた存在が、狂わされるほどの強力な呪いを与えた。それはモルテ王が落とした島の重要度がわかるというもの。
「今回、白き神に見せられた一番重要なところ。それはあの馬鹿のシュロス王は、白き神に永遠の命を願ってしまったことです」
シェリーの言葉に二人の国主は、ぽかんとして反応出来なかった。そして徐々にその意味が理解できたのか。なんとも言えない表情をしている。そんなことを神に願ったのかという表情だ。
「シェリーはシュロス王が、未だに生きていると言っている?でも島を落とされて千年は経っているのだったら、既にそこには居ない可能性があるよね」
カイルはシェリーの言葉をそのまま受け取った。超越者になるまで至った者が、空から落ちて土に埋もれてしまったからと言って、千年間そのままで居続けるはずはないと。
確かに強大な力を持っているのであれば、己の上に積もった土など吹き飛ばすことは可能だろう。超越者は既に人とは言えない力を持った者たちのことを指すのだから。
「カイルさん。
シェリーは自分を抱えて居なければ、カイルのことを馬鹿にしたような目を向けていただろうと思いながら言った。白き神に何度か遭遇して、そのような言葉がよく出てくるものだと。
「永遠の……命……いのち……命だけが永遠?」
「と私は考えました」
神の言葉をそのまま受け取ってしまってはいけない。そして、神に願いを言うのであれば、具体的に願いを口にしなければならない。特に力を持った神には、考えの違いが顕著に現れる傾向が出ている。
そう、『可愛いもの』というだけで、グレイを大型犬化した女神ナディアのようにだ。
「魂だけの存在が、何かの依代に入れられた状態で千年以上、土の中に埋もれているのです。これを発掘する危険はかなり高いと思います」
元々現実を受け止められずにいたシュロスが、現実を見せつけられたことが決定打となり、白き神からまだ普通だと言わしめたほど、狂っていたシュロス王。それが身動きがとれないまま千年間土の中に埋もれているのだ。魂の崩壊が起こっていてもおかしくはない。
ただ、カイルの言う、千年間に何かしら行動は起こすだろうという疑問も然り。
「ここで悪魔という存在が居なければ放置でも良かったのですが、昨年末に『王の嘆きのダンジョン』で見た完全体の悪魔がどうも引っかかっているのです」
「あの好戦的ではなくて逃げたという悪魔のことか?」
ユールクスのダンジョンで気にするような悪魔は一体だけだ。奇しくもダンジョンマスターであるユールクスが逃がしてしまったという完全体の悪魔。
「もし地上に落ちても空に再び帰ることができる存在を作り出すことが、完全体の悪魔の最終形態だったとすれば、これはかなり危険な状況に世界が陥る可能性があります」
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