第467話


「エン様!これでよかったのでしょうか?」


 笑顔で炎王の番であるリリーナが確認をとってはいるが、いいも何もこの惨状を目の前にしてみれば言葉を濁すしか出来ないだろう。

 しかし、炎王はというとこれが当たり前であるかのような態度で、辺りを見渡している。


「いいかどうかはわからないが、リオンはどうなんだ?」


 そのリオンの姿は確認はできない。恐らく先程リリーナがいた場所の近くにはいるだろう。


「あの子は、よくできている方だと思いますよ。まぁ、エン様と比べるとまだまだ子供ですわね」


 そもそも炎王とリオンとではレベルが違いすぎるので、比べるまでもない。

 その時、庭園だった場所の端の方で粉砕された瓦礫の山が崩れていった。その下からは砂埃で汚れてはいるが、五体満足の姿でリオンが這い出てきた。

 そのリオンはというと、シェリーの姿を見つけ、嬉しそうにシェリーに駆け寄って行っている。これはこれでおかしい。いくら強靭な鬼族とは言っても、リリーナに飛び散っている出血量であれば、軽快な動きなどできるものではないだろう。


「それに比べ邪魔をしにきたひよっこは、不快にも程があります。本当に何をしに来たのでしょうか」


「ん?誰のことだ?」


 その誰かを探すようにわらわらと人が集まって来て、粉砕された岩や木材を掘り起こしている。

 不快を顕にしたリリーナはお仕置きとばかりに、リオンとの闘いに水を差した者に対して、制裁を加えたのだろう。

 抱えられながら助け出された者の垂れ下がった手足を見る限り、少年の様な線の細さがうかがえる。リリーナは子供にも容赦なく拳を振るったということだろうか。慌ただしく去っていく者たちは早く光の神子様に見せなければと言っていた。


「ああ、フェルドか。あいつには謹慎を言い渡していたはずだが?」


 炎王は慌ただしく連れられていく者を見て、怪訝な表情をする。謹慎をしていた者がどうしてここにいるのだろうか。いや、それよりもこの国で実質の最高権力者である初代の国王の命に背く者などこの国に存在するのだろうか。


「リオン!なぜフェルドがここに立ち入っている。俺はあいつに謹慎を言い渡していたはずだ」


 炎王はシェリーに機嫌よく喋っているリオンに問いかけた。正確には、一方的にシェリーに話しかけているリオンにだ。


「初代様。私に聞かれても私はフェルドではないですから、わかりかねます。しかし、これで何回目でしたか?己の立場をかえりみずに自分勝手な行動を取るのは。そろそろ第4王子の地位の剥奪も考えるべきではないでしょうか」


 リオンはそのフェルドと呼ばれた者ではないので、その者が何を考え行動を起こしたのかは、わからないのは当たり前だ。しかし、第4王子というのは、リオンにとって弟に当たるはずだが、些か出てくる言葉に棘があるように見受けられる。


「リオンさん、私は帰りますのでそのまま炎国に残られてはいかがですか?」


 シェリーが突然話をぶった斬ってきた。いや、炎国の王族のゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁だと、さっさとこの場を立ち去ろうとしたのだ。

 リオンは慌ててシェリーの言葉を否定する。


「俺は一緒に帰るからな」


「しかし、リリーナさんに教えを請うのではなかったのですか?それはもういいのでしょうか」


「うっ···」


 ここに来たときの現状では邪魔が入ったとはいえ、リオンはリリーナにふっ飛ばされていた。


「リリーナさん。リオンさんに教えることはもう何もないのでしょうか?」


 シェリーは質問の矛先を血の付いた手で、炎王に抱きついているリリーナに向けた。絵面的に微笑みながら炎王を締めにかかっているかのように見えるが、炎王が気にしていないのであれば、何も言うまい。そして、いつの間にか現れた緑がかった白髪の女性がリリーナの飛び散った血を拭っている。


「また来ておりましたの。私がエン様のお側にいないからと言って、調子にのってエン様に近寄るなんて!」


「痛い痛い!リリーナ!」


 いや、締めにかかっているようだ。炎王が慌ててリリーナを引き剥がす。


「はぁ、フェルドの事は父親の5代目に任せるか。それでリリーナ、どうなんだ?」


「はい。エン様。エン様はどこまでを希望されていますか?私個人の意見では鬼族としてリオンは十分な力を持っていると思いますわ」


「んー、例えば·····エルフの王もどきと戦って勝てるかと言えば?」


「それは無理ですわ。リオンは魔導術に対抗する力は身につけておりませんもの。ああ、そういう事でしたのね。炎国の外に出されてエン様の庇護下にいた時と違って、リオンは役立たずになったと。リオンの”つがい”である彼女の足を引っ張っているということですのね」


 歯に衣着せぬ物言いにリオンが徐々に項垂れていき、番の足を引っ張っているという現実を突きつけられ、撃沈した。炎国で長きにわたって炎王の番として、炎王を支えてきたリリーナからの言葉だ。その言葉の一撃はリオンにとって、とても重い一撃となった。




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