第466話
「わかった。今から行こう」
炎王がいきなり立ち上がり、おかしなことを口にした。何がわかったのだろう。
シェリーはそんな炎王を怪訝な表情をして見る。
「エン。お出かけするなら、ヴィーネはアイスが欲しい」
今まで黙って空中に浮いていた精霊の少女からの言葉だ。彼女はいったいどれほど食べる気なのだろうか。
「何がわかったのですか?」
シェリーは立ち上がってヴィーネに抱える程のアイスの容器を渡している炎王に聞いてみた。しかし、あのアイスの容器は1
「ん?実際に見てみない事にはわからないということだ。それに帝国の侵入を許してはいけないことがよくわかった」
「そんなに都合よく『次元の悪魔』が現れるとは思いませんが?」
シェリーは当たり前なことを言った。頻繁にギラン共和国に現れているからといって、タイミングよく襲来してくるとは限らない。
「まぁ、私は帰りますので、お好きにしてくださればいいです」
そう言ってシェリーは席を立つ。ここに来た目的は果たせそうなので、後は炎王が複製品をユールクスに渡せばいいと。
「佐々木さん!だから、リオンを置いて帰ろうとしないでくれ。それに俺は聖魔術の適性がない。だから、悪魔が本当に操られているかの検証ができないから、一緒に来てほしい」
帰ろうとするシェリーの姿を見て炎王は慌てて引き止める。このままシェリーが帰ったとなると、リオンが暴れ出すのは必然的だ。また、破壊行動を繰り返してしまうと。
そして、次元の悪魔が本当に操られているかどうかは、シェリーの力で解除してみないことにはわからないので、炎王はシェリーの力が必要だと言った。
「は?光魔術でも微妙に解除できますので、私がいなくても大丈夫です」
「もともとだ。今回の事は佐々木さんがユールクスから頼まれたことだろう?だったら、佐々木さんが関わるべきことじゃないのか?」
炎王のその言葉にシェリーは首を横に振る。
「ただ単にユールクスさんの愚痴を聞いただけで、頼まれたことではありません。まぁ、今回思いもよらない現実を突きつけてくれましたので、お礼にと思っただけですから」
そう、モルテ神の思惑によりダンジョン内で悪魔と対峙することになったことだ。まだ、力が足りないという厳しい現実を見せつけられてしまった。
それ故、スキルという物を見直す切っ掛けになったことに対するお礼というわけだ。
「その言い方だと、凄く嫌味が混じっている様に聞こえるが?」
「ええ、モルテ神に頼まれてダンジョン内に完全体の悪魔を発生させて、私の無力さを突きつけてくれましたから」
「は?ユールクスは何をやっているんだ?」
完全体の悪魔を発生させるなど、普通のダンジョンマスターができることではない。炎王はそんなユールクスに呆れたような声を出している。
「ということなので、帰ります」
説明が終わったのでシェリーは部屋の外に出ようと足を進める。そんなシェリーに炎王はまたしても引き止めた。
「だから、リオンを置いて帰ってくれるな。せめて、一言いってリオンを納得させて欲しい。それから、ユールクスにこの結界の説明だけでもしてくれ、俺にはどういうものかは見えても使い方まではわからなからな」
シェリーはツガイというものは本当に面倒な存在だとため息を吐く。そして、複製品を作っておきながらも使い方がわからないと言っている炎王にジト目を向けた。だったらなぜこんなに大量に作ったのかと。
いや、恐らく炎王が使った鑑定ではどういう物かわかっても、使い方まで示されていないのだろう。
「はぁ。わかりました。リオンさんのところに案内してください」
案内されて連れて来られたところは、恐らく庭園であったであろうという場所だった。なぜ、過去形かと言えば、庭に植えてあったはずの木々の根が天に向かって突き出しているように、逆さに地面に刺さっており、大きな岩であったであろう砕石が散乱しており、地面が所々陥没していた。
これは確かに報告されてしまうだろう。しかし、これは炎王にとって少々の範囲に収まるのだろうか。いや、リオンが暴れて奥宮が壊滅したときに比べれば可愛らしいものかもしれない。
その破壊された庭園の中央には女性がたたずんでいる。その姿は身なりは整っているものの、着物のあちらこちらに血が飛び散っており、両手が赤く染まっている鬼族の女性だった。この庭園を無惨な姿にした張本人であることは予想できるが、些かその姿に殺人鬼の様相に見えてしまったことは、胸のうちに留めておこう。
その血にまみれた鬼族の女性が破壊された庭園に侵入してきた者たちに視線を向けた。それもグリンと音が鳴るように勢いよく首が動いたのだ。普通ならその姿に脱兎の如く逃げ出してしまうことだろう。
「エン様!如何なさいました?」
殺人鬼の様相の女性が笑顔でこちらに向かってきた。その滴り落ちる赤い血はいったい誰のモノなのだろうか。鬼族の女性は血にまみれた姿であっても、その姿は美しいものであった。
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