第465話


「突然何を言い出したんだ?佐々木さん」


 炎王がシェリーの不可解な言葉に、疑問を呈した。その疑問にシェリーは眉をひそめた。


「これはただの予想です。実物を見ないかぎりなんとも言えません」


「いや、それでいい。キョウの先見から何がわかったんだ?」


「炎王には召喚者がいる話はしてましたか?」


「何だ?勇者の話か?」


 確かに勇者ナオフミは召喚者ではある。一般的にも知れ渡っていることだ。


「いいえ。マルス帝国がおこなった世界から認められていない者の話です」


 その言葉に炎王はザックとキョウを見る。


「ザック。キョウ。席を外せ」


 炎王は一般的には聞かせられない話だと直感的に感じたようだ。世界に認められていないとなれば、白き神の思惑から外れた者の事を示すのだ。面白ければいいと言ってはいるものの、その真意は計り知れない。この話を聞かせて己の血族の者に何があるか予想ができないのだ。


「はい、それでは我々は御前を失礼させていただきます。ご助力ありがとうございました」


 ザックとキョウは炎王に頭を下げて、部屋を出ていった。再びここに居るのはシェリーとカイル。炎王と精霊のヴィーネだけとなった。


「それで、その召喚者がどうした?」


「彼はユーフィアさんが帝国で残していった資料を読み解き、不完全ながら魔道具の数々をユーフィアさんの後釜として作っています。その一つが奴隷の制御石です」


「え?今使用している物があるだろう?あれも大概えげつない物だ。昔のモノよりもな」


「確かに今奴隷に使用されているものは反抗の意志を押さえるものですが、今実験中の物は意志を乗っ取り肉体を操るものです」


 そうモルディールの街で人々を操っていた実験だ。


「は?何だそれは?意志を乗っ取るだと?はっ!だからこそ出来た特攻ということか!」


「炎王。実験中と言いましたよね。まだ、普通の奴隷には使用していないと思われます。内輪でまだ思うように制御出来ていないと言っていたようですので、恐らくまだ簡単な命令しか聞かないのでしょう。例えばこのまま真っすぐ西に進めだとか」


 モルディールの人々は人が近づけば襲えという命令を従い、ゾンビのようなフラフラとした操られた人が出来上がったのだ。特攻が出来るような存在までには至っていないのだろう。


「ユーフィアさんの中には奴隷の解放という思惑があったようです。青い制御石はユーフィアさんが作った結界を通れば解放さたようですが、キョウさんが見た先見では悪魔が結界を通りはしたものの中で留まっているとのことでした。これは中途半端に制御石から解放されたと推測されます。そして、指示から解放され結界内から動かない悪魔ができあがったのではないのでしょうか?」


 ユーフィアが作り出した制御石はユーフィアの権限によって解放することができる。それを結界を通ることで擬似的にユーフィアの命を与えたと制御石に認識させ、反抗の意志を押さえつける物から解放する仕組みを組み込んでいるようだ。


 だが、召喚者が作り上げた物はユーフィアが作り上げた制御石よりも人を操ろうとする部分が加わっており、ユーフィア曰くハリガネムシのようなモノが残った状態のままなのではとシェリーは推測した。


「しかし、これは空論上の推測です。私は実際にギラン共和国に侵入してきた『次元の悪魔』を見てはいませんから」


「いや、頭部がない悪魔の行動の制御をするという観点で言えば、筋が通ってはいるが、あの『次元の悪魔』に制御石を施すことに無理があるだろう」


 ユーフィアの制御石は人の額に侵食するように埋め込まれることで、反抗の意志を押さえつけ、奴隷の持ち主の命令を聞かそうとするものだ。それを頭がないモノに使用できるかという疑問が残る。


「例えば脊髄に制御石を打ち込めば、行動の制御ぐらいできるのでは?」


「えげつない。えげつないなぁ。神経を支配されるってことか。それが実験中だって?」


 炎王はとても嫌そうな顔をしている。そして、実験中ということは繰り返されていることを示すのだ。


「まぁ、人の頭部に使われるとゾンビ状態でしたので、帝国的には使い勝手が悪いのでしょう」


「ちょっと待て、人が実験台になっていたのか!」


「正確には街一つです。それは解決しましたので、ご心配なく」


「いやいやいや。問題は人が実験台に使われていたということだ。先見の悪魔の状態を予想できたということは、実験台にされた人たちは回復できなかったということだろう?」


「いいえ、街の人たちは聖魔術で元の状態に回復しています。しかし、シーラン王国で捕まえたマルス帝国の者達に施した制御石はユーフィアさんが解除してみたそうですが、光魔術では神経毒のようなモノから解放されなかったそうです」


 シェリーのその話を聞いた炎王は何とも言えない顔をしている。まさか、自分たちに使われるとは思ってもみなかったことだろうと。


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