第461話
「二人は仲が良すぎると思う」
シェリーと炎王に対して、いつも出てくる言葉をカイルは言った。
「普通です」
「普通だ」
シェリーと炎王もいつも返す言葉を言った。しかし、カイルは納得することはなかった。それはそうだろう。己の番と異性が仲良く話している姿など見ているだけで、
「はぁ。だから、俺にはわからない感覚を指摘されて文句を言われても困るんだ。別に俺が陽子と話をしていても何も思わないだろう?」
そう問われても、カイルにとっては当たり前な事を聞かれているに過ぎない。カイルにとって陽子はシェリーの友人でしかない。その陽子が炎王と話をしていても何も思うことはない。
「しかし、国境の封鎖か。口では簡単に言うが、ヴィーネに頼むにしても難しいぞ」
炎王は満足気に空中に漂っている精霊の少女に視線を向ける。普通の者に頼むにも規模が規模なので難しいということなのだろうが、どうみてもマイペースの少女にずっと国境の見張りをしろというのは厳しいだろう。
「エンが使うのを禁止された魔術を使えば簡単だよー」
精霊の少女がまた助言をしたが、禁止された魔術とは、使っては問題があるから禁止されたのではないのだろうか。
「え?なんの魔術だ?」
どうやら、禁止された魔術は1つや2つではなさそうだ。
「森を凍らせて怒られたってやつ」
「あ~~~~。あれか、駄目だろ。あの森が再生するのに200年ぐらいかかったぞ」
年の単位が100年単位だった。それは禁止もされるだろう。
「それはユールクスさんと要相談してください。国境までダンジョン化しているのなら、ある程度は許容範囲ではないのですか?」
「いや、要相談と言われてもな。もう、国境を使わないというなら可能だろうが、再生しろと言われても無理だからな」
「一体どんな凶悪な魔術を創造したのです?」
魔術の創造。それは炎王が世界から与えられた力だ。
「佐々木さんほど凶悪なモノは作っていない。『絶対零度』だ。世界を凍らす魔術だったが、その凍結具合が半端なかっただけだ」
「マイナス273.15℃ですか。では、解凍に『世界の目覚め』というスキルでも作りましょうか?」
その言葉に炎王がシェリーの手を取った。
「それいい!それでいこう!」
思わずといった感じだった。使えない魔術の使い道ができて嬉しかったということだろう。
しかし、その手をカイルが叩き落とそうとするが、瞬時に炎王は手を引っ込めた。
「あっぶねー」
「ぶっ殺すぞ」
カイルが炎王に対して殺気をぶつけた。いや、殺気が空気を浸食し冷気があたりを満たしだす。
「はぁ、本気で怒らなくてもいいんじゃないのか?」
殺気を向けられた炎王は呆れたように言葉を口にする。内心、つがいという者は何が引き金になるかわからないなと思っているのだろう。
「前から言っているが、仲が良すぎるんだ」
「いや、これでも10年ほどの互いに取引しているからな。それ以上でもそれ以下でもないと言っているだろう?」
空気まで凍りだしたのか、ダイヤモンドダストが舞い始めた。
しかし、精霊の少女はふわふわと宙を泳ぎ、炎王も凍ったお茶を温めて飲んでいる。氷点下のこの室内でもいつもと変わらず平然としていた。
その時部屋にノックが響いた。
「歓談中に申し訳ありません」
シェリーが来ている時に炎王に対して声が掛けられるとは珍しいことだった。
「ああ、入って来て構わない」
炎王が入出の許可を出すと、髪が青く、背中に青い翼を背負った青鳥族の男性が入ってきた。
「さむっ!精霊様、冷気を抑えてくれませんか?」
「ヴィーネ。悪さしてないもん!」
精霊の少女は怒ったように頬を膨らませて抗議をした。
「初代様!この部屋冷えすぎではないのでしょうか?」
「いや、俺じゃないし」
炎王は青鳥族の男性に片手を振って否定をする。どうやら青鳥族の男性にとって、ここまで部屋が冷えることは、よくあることらしい。
「それでどうした?」
「あ、はい!フィーディス商会のザック様とキョウ様がいらしているのと、王后様が珍しく暴れていらっしゃるので、ご報告にまいりました」
「リリーナはリオンに教えを請うように言っているから、少々暴れても気にするな」
炎王の番のリリーナは報告されるほど、暴れているようだ。しかし、暴れているとはどういう事だろうか。リオンに教えていたのではないのだろうか。
「ザックとキョウはここに連れてきてくれ、聞きたいことがある」
「はっ!」
青鳥族の男性は頭を下げて、部屋を後にした。
「ということだから、殺気を抑えてくれないか?」
炎王はカイルに向かって言う。そう、今までカイルは炎王に向けて殺気を向けていたのだ。
「ギリッ」
「佐々木さん」
炎王はこの状況でも自分は関係がないと言わんばかりに、お茶をすすっているシェリーに助けを求めるように視線を向ける。
「私に言われても、私は元からツガイは必要ないと言っている立ち場なので」
「うっ」
シェリーのツガイ否定の言葉にカイルは胸を押さえるのだった。
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