第462話


「本人がいる前で言う佐々木さんもどうかと思うが?」


 カイルがシェリーの言葉に胸を押さえて、傷ついたことで、殺気はなくなり、空気が緩んだ。


「そうですか。まぁ、ザックさん達が来るようなので、そろそろ帰らせてもらいます」


「ちょっと待て!リオンを置いて帰ろうとするな。連れて帰ってやってくれ。それに、ザックの話は佐々木さんも関係することだからいてくれ」


「ちっ」


 その炎王の言葉にシェリーは舌打ちをした。何がシェリーにとって気に入らなかったのか。それは勿論リオンを置いていくなという言葉にだ。


「リオンさんはこのまま炎国に居てもいいのではないのですか?ええ、きっとその方がいいと思います」


「佐々木さん。舌打ち聞こえているからな」


「それで、国の体制の抜本的見直しをしたほうがいいと思います」


 シェリーは全く関係のない国事の事を口にした。


「いや、何で佐々木さんから国のことで言われないといけないんだ?それにリオンは関係ないだろ?」


「前から言っていますが、情報伝達が杜撰です。組織としては問題があります」


「だから、佐々木さんが国に来た時は直ぐに上げるようにしたからな。それにそこまで問題じゃないだろ?」


「5年前。光の巫女と間違えられたユーフィアさんが転移でさらわれたこと、耳に入っていますか?」


 前にユーフィアが話をしたことをシェリーは口にした。ユーフィアが炎国を訪れた時にマルス帝国のモノたちに攫われた話だ。


「は?転移で攫われた?」


「もし、この事が連絡が行き届いていれば、ユーフィアさんからマルス帝国の動向が知ることができ、リリーナさんが被害を被ることはなかったかもしれません。まぁこれは、かもしれないことです。しかし、この炎国で転移が使われたことは事実ですよね。ザックさん?」


 シェリーは部屋の入り口に立っている白髪の猫獣人の男性に声をかけた。


「そんな随分前のことを言われてもな。事実だと言われれば、あの破天荒な公爵夫人が転移で攫われたのは事実だが、今頃話を出されてもなぁ」


「やっぱ、最近のマルス帝国の動きがおかしいからじゃないか?」


 ザックと呼ばれた白髪の猫獣人の後ろから、黒と白のまだら模様の髪の目付きの悪い猫獣人の男性が入ってきた。


「ザック。キョウ。ちょっとこっちに来い」


 炎王は頭が痛いと言わんばかりに右手で頭を押さえて、左手でザックとキョウの二人の猫獣人を手招きした。


「はい。初代様」

「はい」


 手招きされた二人は炎王の近くに立ち、姿勢を正す。


「俺はその話は聞いていないのだが、説明してくれるか?」


「確か公爵夫人が怪我をした鬼族の子を治したそうです。それを見られていたらしく、商人に偽装した帝国の奴に光の神子様と間違われて、転移で商船に連れられたらしいです。まぁ、商船を壊滅状態にして自力で戻って来ましたが」


 ザックは人伝に聞いた感じで、炎王に説明したが、キョウは凄く嫌そうな顔をしてザックの話に補足をする。


「俺はちゃんと忠告したんですよ。絶対に一人になってもその場を動くなと、だけど、あの公爵夫人はフラフラ人気のない路地に入り込んで、攫われたんです。確か役人が転移の発動を感知したとか言って騒ぎにはなっていましたけどね」


「役人が騒いでいた?ということは把握していたということか。はぁー。報連相ができていないってことかー。昔はこんなことなかったのになぁ」


 炎王はギッと椅子を揺らし天井を仰ぎ見た。きっとこの炎国を作り上げた当初の事を思い出しているのだろう。人族より長命な種族とはいえ、千年という時は世代交代が起こり、炎王と志しを共にした者たちはほんの一握りしか存在していない。


「シェリー・カークス。お前あの公爵夫人に何を頼んだんだ?」


 炎王が何か考えているであろうその側で、ザックがシェリーに問いかけてきた。

 シェリーはというと何を言っているのかという表情をザックに向けている。


「説明書を渡しているはずですが?」


「読んだ。読んだが、滅茶苦茶だ。あの公爵夫人に常識という物はないのか?」


「あれば、魔道具の改革者としては名を上げていないでしょう」


 シェリーは真顔でユーフィアをけなした。いや、間違ってはいない。ユーフィアの常識はずれており、この世界の常識を持っていれば、あそこまでの魔道具を作り上げることはなかっただろう。


「いやいやいや。それにしてもだ。説明書の題名に移動型結界と書いてあるにも関わらず、全方位型攻撃物の説明書になっていたぞ。おかしいだろう」


「それは結界機能がなかったという話ですか?私は受け取ったときに100メルメートル程の結界を張る機能があると聞きましたが?」


 シェリーはユーフィアに結界を張るものを作って欲しいと『アルテリカの火』を渡したのだ。そして、ユーフィアは出来上がったものをシェリーに渡したのだ。『アルテリカの火』という鉱物が結界を張る以外になにかしらの性質を持っていなければの話だが。


「結界は機能した。したが、攻撃されたと感知したら、徹底的に相手を潰すように怪しい光線が出て、マルス帝国の偽装した船が瓦解して海に消えていったんだぞ」


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