第460話
「さぁ、私はユールクスさんから聞いただけですので、実際にその不可解な行動を見たわけではありません。それでですね。国境の物理的封鎖が可能かどうか聞きに来たのです」
シェリーはユールクスが言っていた国境の物理的封鎖を炎王にできるかどうか聞きに来たようだ。しかし、これはギラン共和国の者たちが考えなければならない事なのでシェリーが口出しをすべき事ではない。
「佐々木さん。北側の国境の封鎖は流石にマズイ。北側の国境はギラン共和国の動脈線だ。物流が全て滞る」
炎王はギラン共和国の北の国境を物理的に封鎖をするのは否定的のようだ。それはそうだろう。ギラン共和国は大陸の北西に位置し北側と西側は海に面している。そして、南にはモルテ国があり、東側は高い山脈に阻まれた上に鎖国的なシャーレン精霊王国がある。だから、北側の山脈が途切れた海側が唯一の物流路の要となっているのだ。
そして、今現在海側は偽装したマルス帝国からの襲撃に遭って海の航路は使用してはいない。そんなところに北側の陸路まで封鎖してしまえばギラン共和国は陸の孤島と化してしまうだろう。
「炎王。それは大丈夫です」
「どこがだ!あの狂った王の領土を通れとでも言うのか?」
「そうです」
「佐々木さん!!」
炎王はシェリーの言葉に憤りを感じた。普通の人ではあの国を通り抜けることは出来ないと。
「炎王。モルテ王と一度会談の場をもってみてはいかがですか?」
「佐々木さん。
それはこの世界の常識でもある。狂王モルテ王は千年という期間の間、己の国を壊し続け、狂い続けていると。
「モルテ王の呪いは解きましたよ」
「は?」
「それなりの手土産を持って、モルテ王に私の要望を伝え、その交渉は成り立ちました。ですから、フィーディス商会の陸路の交通と販路の拡大のため、一度お会いしてもいいと思いますよ」
シェリーは炎王が理事を勤めるフィーディス商会の利になることも織り交ぜた。あの国はこれから復興をとげ、死のある生を賜ったことで、生きるという行動に出ることだろう。それは、遠い昔の記憶を思い出すこともあることだろう。人として生きていた時の記憶を。今は、何もないモルテ国だが、いずれ記憶の底にあった生活を取り戻したいと、望む者が出てくることだろう。
商売をする者としてはこの期を逃すことは愚かなことだ。
「佐々木さん、ちょっと待ってくれるか?さっきおかしな事を言っていたよな。呪われていたのか?」
「ええ、詳しくは文字化けしていてわからなかったですが、”アークの呪い”だそうです」
その言葉に炎王は何か納得したようだった。炎王はアーク族のことを知っているのだろうか。
「因みに、手土産って何を持っていったんだ?」
「つがいです」
「····え?何をだって?」
「モルテ王の
炎王は頭が痛いと言わんばかりに両手で頭を抱えてしまった。そして、『あり得ない』と言葉を漏らしている。
「それから、ユーフィアさんに頼んで『アルテリカの火』を使ってザックさんの船を護る結界を作ってもらいましたから、海の航路の方の問題は解決済みです」
「ちょっと待て!なんで佐々木さんが解決しているんだ!俺は何も聞いていないぞ!」
ザックの船はフィーディス商会の船であり、何かあれば、理事である炎王に連絡が行くはずだ。そして、マルス帝国の偽装船からの襲撃に対して解決すべきはフィーディス商会の者であり、炎王であるはずだ。何も関係がないシェリーが口を····手を出すことではない。
「それもユーフィアってコルバートの魔女のことだろう?滅多に表には出てこない魔女にどうやって、作成依頼を頼み込めるんだ」
滅多に表には出ない。それはユーフィアが物を作り始めると周りの事に目がいかなくなるのも理由に上がるが、クストがユーフィアを外に出すことに対していい顔はせず、第6師団の団長という権力を用いて、ユーフィアの行動の監視と制限をしていたのだった。
「普通に玄関から訪問しましたが?」
そこにはツガイであるクストの目を盗んでという言葉が入るが、炎王の前でわざわざ言うことではない。
「え?無理だろう?彼女が同じ存在だとわかって連絡を取ろうにも、全部拒否られたんだぞ」
「それって、ただの『エン』として連絡を取ろうとしたのでしょ?」
ただのエン。炎王としてではなく、転生者のエンとしてユーフィアと個人的に会おうとしたのだろう。
「ああ、そうだが?」
「それは、ツガイの師団長さんに握りつぶされるでしょうね」
「また、つがいか。俺にはわからない感覚を言われても困るな。だからな。さっきから睨まれても困るんだが」
炎王はシェリーの隣で、笑顔だが笑っていない目を炎王に向けているカイルに対して、苦笑いを浮かべた。
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