第459話
「初代様。実は次元の悪魔に剣が全く通らなかったのですが、どうすればいいのでしょう」
リオンが炎王に項垂れるように言葉にした。炎王以外になら勝てるとかなり自信があったリオンだったが、ここ2ヶ月程でかなり挫折を味わっていた。
「え?次元の悪魔?そんな雑魚くらいサックリと斬れるだろう?」
相談以前の問題だった。チート過ぎる炎王にとって、弱い者の苦労は全く理解出来ないことだった。
そもそも悪魔自身に陽子が感じていた嫌悪感すら、感じていなかったのだ。
「あ、いやな····まぁ、あれだ」
己が苦労しても皮一枚しか斬れなかった次元の悪魔に対して、雑魚扱いされたことに更にリオンは項垂れてしまった。
それを目にしてしまった炎王は慌ててしまう。
「エンさん。弱い人の気持ちもわかるべきではないのでしょうか?」
炎王の後ろに控えていた緑がかった白髪の女性が、呆れたように言う。しかし、その言葉が更にリオンに追い打ちをかけた。
「弱い····」
「鬼族で一番強かったのって、リリーのニィちゃんだったよー。最初エンもボロボロにされちゃったって言っていたよね」
ホールのケーキを食べ終わって口の周りにクリームをつけたヴィーネが、昔の鬼族の名を上げた。
「ああ、イゾラか。リオン。リリーナの所に行ってこい。鬼族の事は鬼族に聞くのが一番だ。俺は龍人族だからな」
炎王は手を振って、リオンに己の番のところに行って来いと指示した。普通ならあり得ないことだ。
その炎王の指示に緑がかった白髪の女性がリオンの肩を叩いて、立つように促した。
「リリーナさんのところには私が付いて行って差し上げますよ」
「いや、妖精様。俺は····」
「リリーナ様の事が苦手なのは分かっていますから、一緒に付いていって差し上げますよ」
「いや、だから····」
行くことを拒んでいるリオンの肩がミシミシと音が鳴っている。そこに底知れぬ闇が侵食して来たように部屋が薄暗くなり、気温が一気に下がった。妖精様と呼ばれた女性は嫌がるリオンを横から覗き込んだ。
「リオンさん。一度壊れますか?」
その言葉を聞いたリオンはすっくと立ち上がった。そして、そのまま部屋を出ていき、その後ろには緑がかった白髪の女性が付いて行っていた。
「前から思っていましたが、炎王の周りの女性は個性的ですね」
シェリーの感想だ。個性的で済まされることだろうか。
「まぁ、物を与えとけば大人しいから、問題ないからいいだろう」
「炎王、最低です」
「いやな。元々は獣人の彼女達の物の要求が酷くてな、それをあいつらも真似だしてな。段々要求が酷くなったんだ。要望がとおらないと脅しも段々酷くなったんだよな」
炎王がため息を吐きながら言い訳をしだした。しかし、精霊の少女も妖精の女性も脅し文句が酷かった。妖精の女性は何を壊すのだろうという言い草だった。精霊の少女は何もかも凍らそうとする言い方だった。
凍らす?
「炎王。今日は聞きたいことと、お願いがあってきたのです。一度、マルス帝国とギラン共和国の国境を封鎖したことがあったそうですが、その時のことを聞いてもいいですか?」
「え?何だそれ?俺はそんなギラン共和国で、国際問題になるようなことをしたことはないぞ」
炎王は知らないと言っている。しかし、ダンジョンマスターのユールクスが国境を物理的に通行不能になった事があると言っていたし、シド総帥がその様な伝聞が残っており、炎王が関わっていると言っていた。それに······と、シェリーは炎王の側で満足気にふわふわと浮いている精霊の少女を見る。
「ユールクスさんが国境が氷漬けになったことがあったと言っていましたよ」
「氷漬け?あ!ヴィーネ、お前3ヶ月ぐらいサーベルマンモス達とマルス帝国の奴らを追い立てたことがあったよな」
「あったよー。ヴィーネがいっぱい頑張ったことだね」
精霊の少女がふわふわと漂いながら答えた。
「それって、国境を氷漬けにしたのか?」
「国境?ヴィーネそれは良くわからないけど、しつこいバカたちを入れないように頑張った」
頑張ったとしか言っていないが、恐らく彼女が国境を氷漬けにしたのだろう。
「それで、佐々木さん、随分昔の話だが、それがどうしたんだ?」
炎王はそんな昔の事をなぜ今更出してくるのかと疑問に思い、シェリーに尋ねる。
「実はこれはユールクスさんからの相談なのですが」
「ユールクスから?」
「マルス帝国の方からギラン共和国に向って、先程名が上がった次元の悪魔が侵入して来るそうです」
「は?意味がわからないのだが?」
シェリーの言葉に炎王は疑問を呈する。
「その言い方だと、まるで次元の悪魔如きが統率心を持っているようじゃないか」
そう頭部がない悪魔に意志が芽生えているようだと。そうでないとするのであれば、その次元の悪魔に対して行動を指示するモノが存在していることになってしまう。例えていうなら、魔を統べる王のような存在だと。
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