第359話
「意味がわからないのだが?」
タバコを左手で持ち、右手にはペンを持ち、眉間に皺を寄せながら意味がわからないと言ったのは、冒険者ギルドの補佐官であるニールである。
「ですから、ルーちゃんが戻ってくるので、依頼を受けるのを冬の間は休みます」
その機嫌が悪いニールの前で同じ言葉を繰り返すのは黒髪のシェリーだが、その姿は外套を深々と被り口元しか見えない。
そう、シェリーのツガイである4人が陽子のダンジョンに行っているということは、神の祝福が発動しているということだ。
そんなシェリーにタバコを持った手を口元に持っていき、一吸いし、紫煙を吐き出すニール。
「あのなシェリー。ルークはもう13で、学園にも行っている。休みの間ずーっと家にいるわけないだろう?」
その言葉にシェリーはショックを受けたかのように口をぽかんと開け、ワナワナと震えだす。
「休みになったのに居ない?」
「それはそうだろ?友達も出来ただろうし遊びに行ったり、狩りに行ったりすることもあるだろうな」
「と、友達!ルーちゃんの友達!後を付けてどんな子か確認しなくては!」
「しなくていい!」
過保護が悪化しているシェリーにニールは釘を刺す。
「はぁ。シェリー、魔物の活動が活発になっていることぐらいわかっているよな?軍も色々動いているんだ。その軍が対応しきれない部分を冒険者が補わないと被害が広がってしまうことぐらい理解できるだろう?」
愛しのルークのことで頭がいっぱいになっているシェリーに、ニールは子供に言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「別に他国に行けとは言っていないだろう?南のモルディールの支部と連絡が取れなくなったから行ってくれと言っているだけだ」
ニールの言葉にシェリーはカウンターにバンッと両手を付き強い口調で言った。
「明日からルーちゃんが帰ってくるから嫌です」
本当ならもう2週間後から冬期休暇に入る予定だったのだが、シェリーが学園にクレーム····いや、高魔力者でも学園で快適に過ごせるように寮の改装を行うため、早めの休暇となったのだ。
「いや、だからな。早急には行ってほしいが、明後日からでいいと言っているだろう?」
「嫌です」
ニールはこの依頼に対して、緊急性は要するが、シェリーのことだから帰ってくるルークと帰ってきた日は一緒に過ごしたいと言うと思って始めから明後日からでいいと言っていたのだ。
しかし、シェリーはその妥協案でも受け入れられなかった。
頑として依頼を受けないと言っているシェリーにため息を吐きながら、ニールはその後ろに視線を向ける。
「カイル。説得してくれないか?今回の依頼を受けた奴らが誰も戻って来ないんだ。下手な奴らに頼むわけにはいかないんだ」
ニールの懇願するような言葉にカイルは首を横に振る。
「シェリーがこうなると無理かな?ルークに説得を頼むなら別かもしれないけど」
シェリーのルーク至上主義を覆すにはルークに頼むしかないとカイルは真っ当な答えを言った。その最もな返答にニールはタバコを吸い殻の山になった灰皿に突っ込み、新しいタバコを取り出し口に咥える。すると、横から手が出てきた指先に火をともし、ニールのタバコに火をつけた。
もちろんそのような事をするのはニールの番であるオリビアである。シェリーが行かないとだだを捏ねている間もオリビアはニールの横でその状況をニコニコと眺めていたのだ。
そして、ニールは紫煙を吐き呟いた。
「その方が一番早いか」
と。
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冒険者ギルド補佐官ニール
ニールは早めに仕事を切り上げて、日が落ちていく夕闇の中を
ニールの家には使用人もいるのでそのような事はしなくてもいいと言っているのだが、元王太子であるリオンから状況報告と言う名の自慢話の手紙を受け取って、その手紙をビリビリに破いている姿を目にする事が多々あったのだ。
ニールが何が書いてあったのかと尋ねても『イライラすることしか書かれていませんでしたのでニール様が気になさる事はありません』と言うばかりだった。
なぜ、関係が絶たれても未だに手紙をやり取りをしているのかニールには理解出来ず、それがイライラを助長させ、一日のタバコの本数が増える原因となっていた。
久方ぶりに母校の門をニールは潜る。その先にある訓練場に向かっていった。そう、シェリーの説得を弟であるルークに頼むために、わざわざニールが足を運んだのだ。
「あれ?ニールさんじゃないですか」
ニールが訓練場に向かっている横から声を掛けられた。その人物は夏に見たときよりも体つきがしっかりしてきてはいたが、見た目は美少女のルークが沢山の本を抱えて立っていた。どうやら、訓練場には居なかったようだ。
「ああ、ルーク。実は君に頼み事があってね」
「姉の事ですか?」
ルークはニールがここにいる理由に直ぐに思い当たったようだ。これは話が早いとニールはルークに頼み事をするのだった。
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手紙には何が書いてあったのでしょうね?
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