第351話

「シェリーミディア」


 シェリーはミゲルロディアから呼びかけられ、視線を中央に向けると、手招きをされていた。

 それに答えるため、シェリーはミゲルロディアがいる部屋の中央に向かって歩いていく。


 徐々に歩く足が重くなってくるのが感じられる。それ補うため、シェリーは魔力を体全体にめぐらし、身体強化を行い進んでいく。

 これは確かにいい訓練になりそうだと思い、オリバーに頼めば作ってくれないだろうかとシェリーは考えていた。


「シェリーミディア。彼と話してみたのだが、君が相手なら良いとい返事をもらったのだが、どうだ?」


「私ですか?構いませんよ」


 シェリーの返事にプラエフェクト将軍はニヤリと笑った。


「決まりだ」


 低い声が辺りに響いた。それに対しオルクスが声を上げる。


「なんでだ!俺じゃ駄目だって言うのか!」


「出直してこい」


 プラエフェクト将軍はオルクスを一瞥して、ただ一言そう言った。しかし、それだけではオルクスは納得することはできなかった。


「理由はなんだ」


 オルクスは唸るように尋ねる。


「ふん。絶対的な力の差もわからないのか?」


 プラエフェクト将軍は目の前にいる者たちに対して威圧する。空気が軋み揺れる程の威圧。オルクスはこの部屋の重力も相まって立っていられず膝を土の床につく。いや、側にいたミゲルロディア。そして、グレイとリオン、部屋の端にいたスーウェンやオーウィルディアでさえ立っておられず膝をついていた。


 この場で立っていたのは、猛将プラエフェクト将軍とシェリー、そしてカイルのみだった。


「これが、差というものだ。これぐらいの威圧で立っていられずに俺に剣を向けるとは、笑わせてくれる。クククッ」


「じゃ、俺なら相手になってもらえると?」


 いつの間にかシェリーの横に来ていたカイルから声が発せられた。


「竜人か。確かにお前でも構わないが、このラースの小娘が相手だ。今なら他の者に邪魔をされることはないだろう?」


 そう、いつもなら5人をランダムに召喚し佐々木が一人で戦っていたのだ。一対一で戦うことは今までなかった。その事をプラエフェクト将軍は言っているのだろう。


「この胸くそ悪いラースの小娘と一対一でヤれるのだろ?」


 いや、ただ単にシェリーをよく思っていないようだ。プラエフェクト将軍の言葉に対しシェリーは何も感じていないのか、いつもどおり無表情である。

 しかし、カイルはその言葉に憤りを現す。


「胸くそ悪いとは聞き捨てならないな」


「それはそうだろう?ラースという存在自体が嫌気が差す。されに加え、俺の意思関係なく操るこの小娘に憎悪さえ覚える」


 己の番を否定する目の前のエルフにカイルは剣を向けようと、背中にある大剣に手を掛ける。しかし、その行動をシェリーが一歩前に出ることで止めた。


「それはお互い様です。聖女スピリトゥーリ様の言葉を履き違え、世界の闇を深めた貴方が私は嫌いです」


 プラエフェクト将軍の番は2代目の聖女だった。彼女は願ったはずだ。世界の浄化を。白き神からの願いを。

 初代聖女であるラフテリアが志半ばで魔人化し、世界の半分しか浄化出来なかったことを、2代目であるスピリトゥーリが引き継がなければならないと、番であるプラエフェクト将軍に願ったはずだ。


 だが、プラエフェクト将軍が行ったことは世界の統一だ。神言を口にするスピリトゥーリが崇め、信仰している白き神を掲げ、世界を蹂躙した。そうすれば、己の番の願いを叶えられるであろうと。


「スピリトゥーリ様は願ったはずです。世界の浄化を。けれど、貴方は人々の暮らしを脅かし、信仰を押し付け、今まで崇めていた神を捨てさせた。それはとてもとても愚かな行為だと気づかずに」


 シェリーの言葉にプラエフェクト将軍の顔が段々と険しくなってきた。


「最後には否定をされたでしょ?」


「黙れ!」


「スピリトゥーリ様に「黙れ!!」」


 シェリーにこれ以上言葉を紡がせないと言わんばかりに、怒りを顕にし、腰に下げていた魔剣を抜き放つ。


 魔剣がプラエフェクト将軍の怒りに共鳴するように『キィィィィ』と鳴り出した。放たれた魔剣グラーシア。その剣先を紙一重で避けたシェリーだが、その魔剣が纏っている凶悪と言っていい魔力に煽られ、バランス崩す。

 そこを突かんばかりに再び剣先がシェリーに向かって振り下ろされるが、その剣先を大剣が阻む。


 カイルがバランスを崩したシェリーを支え、魔剣を受け止めたのだ。


「どけ!竜人!」


 プラエフェクト将軍はカイルが邪魔だと言わんばかりに睨みつけ、魔剣を引き、再びシェリーに向けて突きつけるがそれも大剣によって阻まれる。


「断る」


 カイルが言葉を放つと共に魔剣を弾き返し、シェリーに下がるように促した。


「カイルさん。プラエフェクト将軍の相手は私ですよ」


 シェリーはカイルに庇われたにも関わらず、プラエフェクト将軍の相手は自分だと言い切った。


「私、プラエフェクト将軍のことが嫌いなのです。だから、その場所を譲ってくれません?」


 シェリーはよくわからない理由でカイルにその場所を譲るように言った。嫌いだから相手になる。理解が出来ない言葉だった。


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