第352話
「しかし、シェリー」
カイルはシェリーがプラエフェクト将軍の前に立つことを避けたいようだ。なんせプラエフェクト将軍はLv200超えの超越者なのだから。
シェリーはカイルの思いとは裏腹にプラエフェクト将軍の前に立つ。そして、カイルを見上げ言った。
「カイルさん。彼らを下げてもらえません?危険ですから。たまには一対一というのも良いと思うのです。それに、勉強になりますよ」
何が勉強になるのか。それは一騎当千と言わしめたプラエフェクト将軍の戦い方だ。伊達に世界を蹂躙し、名を轟かせた者ではない。
カイルはシェリーとプラエフェクト将軍を見る。これは殺し合いではなく、ただの手合わせだ、そう己に言い聞かせギリリと奥歯を噛み締め、動けない3人を端の方に引きずって行く。
その姿を見たシェリーは鞄から小瓶を一つ取り出す。赤い粉状の物が入った小瓶だ。
その小瓶の蓋を開け、周りに拡散させながら、風の魔術を使って円状に広げていった。そう、これはユールクスのダンジョンで手に入れたアルテリカの火だ。それをオリバーに言って、粉状にしたものを持ち歩きやす形にして持っていたのだ。
「なんだ?これは?」
プラエフェクト将軍が初めて見たと言わんばかりに警戒心を顕にした。確かに、これを主に使っていたのは約1200年前のエルフ王の時代のことだ。なので、プラエフェクト将軍は知る由もない物だ。
「結界です」
シェリーは端的に答える。それ以外の説明を全くせずに、結界を発動させる為に、2回手を叩く。それも使用者が魔力を込めながら
この発動条件はきっとアリスがユールクスに言って仕込んだ事のだろう。この世界で
シェリーの柏手により、円を描いた粉状の物が赤い炎を発し、ゆらめきながら上昇していきドーム状に空間を覆った。
その状況をプラエフェクト将軍は鋭い眼光を向けて状況を見ていた。
「ただの結界です。ここは室内なので、壊すと色々問題が出てくるので」
そう言いながら、シェリーは鞄から黒い刀を取り出した。
威圧的な気配を感じ、プラエフェクト将軍の視線は結界からシェリーの刀に向けられる。そして、抜き身の剣身を構え、何かを呟く。すると、その剣身から赤く禍々しいゆらめきが立ちのぼる。魔剣グラーシアの覚醒である。
そして、そのまま横一線に魔剣グラーシアを薙ぎ払う、空間が悲鳴を上げるように衝撃波がはしるが、アルテリカの火の赤き炎に飲み込まれ、消えていく。それを目にしたプラエフェクト将軍は関心をしたように『ほぅ』と言葉を漏らした。
ギラン共和国をエルフ王の猛攻から護りきった結界は伊達ではないということだ。
そして、ニヤリと笑い一歩踏み出すと共に一瞬にしてシェリーとの距離を詰め、魔剣を振り下ろす。
シェリーはその魔剣を正面では受けず、体を横にずらし黒刀で薙ぎ払う。シェリーの力では受けきれない。だから、スキルを発動させる。
【聖人の正拳】
今までプラエフェクト将軍と戦って来た佐々木では使わなかったスキルだ。拳で戦うことを選んだ全ての力を抑制されたシェリーが作り出したスキル【聖人の正拳】。
スキル【聖人の正拳】
聖女が敵と認識したもの又は聖女に敵意をもったモノの基礎能力を読み取り、倍の力を身体に宿すことができる。ただし、敵を目視しなければならない。
その力を黒刀に乗せ、上段から振り下ろす。そのシェリーの黒刀を魔剣で受け止めるが、その刀の重さに思わず目を見開くプラエフェクト将軍。
そして、シェリーの刀を薙ぎ払い、距離を取る。
この行動は人が瞬きをする間に行われた。人によれば、二人は何も動かずただ剣と刀を抜いて立っているだけと見えてしまうだろう。
プラエフェクト将軍はギリっと奥歯を噛みしめる。今まで戦ってきた佐々木と姿かたちは全く一緒だが、何かが違うと感じ取った。
左手を剣から離し、軽く振るう。その行動にシェリーは宙を駆ける。正に空間が地面の如くに駆け出したその瞬間、シェリーが居た場所に火柱が立ち上る。いや、結界内の至るところから炎が立ち上っている。
炎の柱の隙間をシェリーは駆け抜け、プラエフェクト将軍との距離を詰めてい行き、地面に降り立ち、死角となる背後から刀を振り下ろす。しかし、その場にプラエフェクト将軍は存在せず、横からの風圧に身を屈め、盾を発動させる。
スキル【最小の盾】
防御範囲はとても狭いが、どんな攻撃でも跳ね返すことができる。
それをいくつも亀の甲羅状に並べれば、立派な盾となるのだ。それを身を屈めたシェリー自身を覆うように張り巡らす。
疾風と言っていい鋭い風の刃がシェリーを襲う。いや、結界内を満たす。炎が立ち上り嵐の様な風が土を巻き上げ狭い空間を満たす。この状態は何を引き起こすか、それは爆発だ。
音が消えたと思うほどの爆発が結界内に満たされた。こんな狭い空間内では逃げ場などありはしない。自爆と言ってもいい行為だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます