第346話
ナオフミはビアンカを抱えながら、プラエフェクト将軍の剣を全て避けている。そして、『堪忍してやー、ササキさん』と叫んでいた。
シェリーは魔剣が刺さって穴の空いてしまったソファに腰を降ろし、ミゲルロディアに向き合った。
「騒がしくしてしまい申し訳ありません」
「ああ、あれは何だ?エルフ族に見えるが、異質な存在だな」
ミゲルロディアはプラエフェクト将軍の存在が気になり、ナオフミの背後に突然現れてからずっと視線で追っていた。
「私のスキルの一つで、世界の記憶から引っ張り出してきたプラエフェクト将軍です」
「ほう」
ミゲルロディアはそう言いつつ視線ははずさない。そして、シェリーの横にはカイルがシェリーの腰を抱えて座っている。もし、カイルがシェリーの行動を制限していなければ、プラエフェクト将軍と共にナオフミに刀を向けていた。
そのカイルと反対側のシェリーの隣にはオルクスがおり、太く長い尻尾をバシバシとソファに打ち付けている。
「閣下。取り敢えずこれで勇者はこの国では素直に動いてくれるでしょう。私が思っていた以上に根が深かったようで、この辺りが限界でしょうね」
その言葉にミゲルロディアはシェリーに視線を向けた。黒くタールを流し込んだ淀んだ目を大きく見開いて。
「何を話しているかと思えば、あの者を説得していたのか。元々あの者を頼るつもりはなかったのだが」
ミゲルロディアは本気でビアンカ一人で浄化をやらすつもりであったようだ。
「グローリア王があの者の事を自慢して話しておったから、どのような事が行われていたかは聞き及んでいた。だから、私はわざとあの者には関わらないようにしていたのだ。お互い思う事がある。それは相容れないことだろうということもわかっていたからな」
ナオフミの処遇を知っていたのだ。だから、敢えて勇者とその家族に関わりを持たないようにしていたと。
ミゲルロディアは国土を元の状態に戻したい。その要望を言ったのは妹であり、聖女であるビアンカに言ったのであって、元凶の勇者ナオフミに言ったわけではなかった。グローリア王の話を聞いて、ナオフミがこの世界の者たちに対して良い感情を持っていない事を感じていたのだ。
「さて、話の続きをしたいのだが、アレを下げてくれないか?」
「いいですが、壁に控えさせていいですか?あの口の軽さは嫌いなので」
「はぁ。構わない」
ミゲルロディアはシェリーとナオフミの仲の悪さ、いや、一方的に嫌っているシェリーに対してため息を吐いたのだろう。
シェリーは部屋の入口に腰に魔剣を佩いた巨漢のエルフ族を控えさせた。その目は虚ろであり、シェリーに操られているため、己の意思では行動出来ない。
シェリーはそのままソファに座っており、両側にカイルとオルクスが陣取っており、背後にグレイとスーウェンとリオンが控えている。
その向かい側にはオーウィルディアが何やら疲れたような顔で座っており、ミゲルロディアの向かい側にプラエフェクト将軍に追い立てられていたナオフミとビアンカが席についた。
「話の続きだが、国土の浄化をやってくれるということでいいのだな」
「ええで」
ナオフミの受け答えはとても軽かった。
「それで、ナオフミ殿の子供達の話だ。オーウィルディアとシェリーミディアから話を聞いたが、双子の事だ。我々、魔眼を持つ者は5歳になると名を神から与えられる儀式がある。ラースの魔眼を管理下に置かれるものだ。何処にいるか、生きているのか死んでいるのか」
ミゲルロディアは儀式と言いつつ、ミゲルロディア自身あまりいいように、とらえていないようだ。顔を歪めて言い放った。
「彼女達はその名を与えられなかった。与えられなかった者は魔眼を永久に封じるのが決められている。それをシェリーミディアが行い、瞳の色が変化したのだ。私個人としてはそちらの方が羨ましいと思うがな」
「なんでや?」
「己の行動を常に監視されているのだ。それはあまりいい気にはならないだろう?特にシェリーミディアなどは、そうなのではないのか?良く、いろんなところに行って、魔眼を使い過ぎて注意を幾度も受けていると」
すると、一斉にシェリーに視線が向けられた。
「いつものことなので慣れました。それに前もって連絡を入れる事を覚えました」
それほど注意を受けて、そのウザさに前もって報告することで避ける事を覚えたのだ。先日、ダンジョンの掃除を依頼されたときのように前もって分かれば連絡をしている。
その言葉にビアンカが両手を打って『そうすればよかったのね』と言った。ビアンカも過去に色々言われたことがあったのだろう。
なんだかんだ言っても親と子だ。似ているところもあるのだろう。
シェリーの言い分とビアンカの態度にオーウィルディアはため息を吐き出す。姿かたちは似てはいないが、同じ色を持つ二人は双子である。ビアンカに振り回されたであろうオーウィルディアはシェリーと同じ対応されなくて良かったと思っているのだった。
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