第345話


 過去での記憶と変わらない姿のナオフミに見下されたシェリーは口を開いた。


「焦土化した大地をそのままにしていることです。私はコジマさんの事は嫌いですが、仕事はできる人だと尊敬はしています。これは意趣返しですか?」


「いやー。こう目の前で褒めてもらえるなんて嬉しいなぁ。佐々木さん、正解や。この世界の奴らは、いけ好かん。特にグローリアの奴らは」


 二人しかいない空間に怒気が満たされる。空間に押しつぶされ、息が出来ない程の怒気。


「名を教えろと言われ、教えた瞬間に奴隷の隷属や。あいつら、頭おかしい集団や。自分たちで敵わへんからゆうて、他の世界から召喚するって、お前らでなんとかせんかい!って思うのは普通ちゃうんか?」


 シェリーは怒気を放ったナオフミを前にただ頷く。そして、続きを話すように促した。


「ライターだけが俺と普通に接してくれんや。おかしいとわかっとっても上の命令には従わなあかん、すまんなってうてくれたのはライターだけやった。戦いの終盤のゴタゴタの中、ライターが隷属の解除をしてくれたんやけど、やっぱただですまんかった。解除すれば辺り一帯が吹き飛ぶ仕様やったんや。あいつらクソや。死んで当然や」


 ナオフミはちらりと視線だけ振り返り己の番を見る。ビアンカは心配そうに落ち着きがなくナオフミを見ていた。そんなビアンカにナオフミは笑った。心配することはないと。


「ほんで、終いにはビアンカの誘拐や。それはもう壊し尽くすしかないよな。俺は未だに許せへん。あのグローリアの奴らを!」


「そうですか、でも、躊躇したのですよね」


 シェリーはナオフミが番狂いを利用し、グローリアとラースを焦土化し、破壊し続け人々の暮らしを今でも脅かしているというのに、躊躇したと言葉にした。


「なんやて?」


「躊躇しましたよね」


 シェリーはもう一度繰り返した。怒りに満ち満ちているナオフミに対して、同じ言葉を繰り返す。まるで、挑発するように。


「残っていたようですよ。勇者召喚の資料。それをマルス帝国が見つけて新たに召喚を行ったようです。ハルナ アキオ。コジマさんの次の被害者です」


 ナオフミはその言葉に思わずシェリーの肩を掴み揺する。


「何やて!そないな資料が存在してるやないて聞いたことあらへん!」


「本人にそんな話をするわけ、ないじゃないですか。その召喚者は世界から選ばれた人じゃないので多分苦労していると思いますよ」


「それは転移特典の話かい······な」


 二人しか居ない空間に大剣が割り込んで来た。ビアンカの結界にヒビを入れ、大剣がナオフミの顔の横に突きつけられている。


「はぁ。佐々木さんの番は怖いなぁ。ビアンカの結界壊すなんて。まぁ、ビアンカの事になると居ても立っても居られんようになるから、お互い様やな」


 ナオフミが苦笑いを浮かべ、両手を上げシェリーから距離を取る。すると、大剣が引き抜かれ、結界が砕け散った。


「シェリー。大丈夫?」


 カイルが背後からシェリーを抱き寄せるが、その視線は鋭くナオフミを睨み付けていた。


「何も問題はありません」


「そうや、ただ話が盛り上がってしまっただけや」


 ナオフミは苦笑いを浮かべたまま先程いたソファに戻っていった。


「いやいや。別に佐々木さんに何もしぃひんってうたやん」


 シェリーの周りには5人のツガイが集まっており、一様にナオフミを敵視していた。


「ちょっと、思ってもみいひんこと言われたさかいにびっくりしてもたんや。始めっから佐々木さんの言いたいことはわかってるで、でも俺にも譲れんものもあるってことはわかってほしかったんや」


「ええ」


「この国だけやったらええよ。俺が譲れる境界はここまでや」


「構いません。コジマさんが動くことに意味があるのです。国土の浄化。黒い魔物の討伐。悪魔の征伐。それから、あの子達の将来をきちんと考えるのも親の努めだと思いますよ」


 シェリーはしれっと悪魔に対する対応も混ぜ込んだ。そして、ナオフミはシェリーの言葉に『うん。うん。』と頷いて言った。


「流石、佐々木さんや。伊達に子供を3に····」


 子供を3人育てていないと。その続きはナオフミは言わなかった。いや、言えなかった。思いっきりナオフミは佐々木であったシェリーの地雷を踏み抜いたのだ。


 ナオフミの居たソファの場所には赤黒く禍々しい魔剣が突き刺さっていた。その背後には大柄で筋肉質な体躯を持った人物が立っている。それも藍の髪の隙間からはエルフ特有の長い耳が見えていた。猛将プラエフェクト将軍その人が立っていた。それもシェリーの魔眼によって操られた状態で。

 シェリーはナオフミに敵わないことは百も承知だ。なら、自分の能力でナオフミのその軽い口を黙らし、かつ意趣返しをする方法を実行に移したのであった。


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