第344話

「コジマさん、悪災を振りまいたあと、この13年間何をしていたのですか?あの時子供だった私は成人してしまいましたよ」


「そおやなぁ。大きゅうなったなぁ」


 ナオフミはそう言いながら、ローテーブルを元に戻す。しかし、その態度が、その言いぐさがシェリーの癇に障った。


『13年です!』


 シェリーはナオフミを責めるように声を大きくする。それもこの場ではナオフミしかわからない言葉で。


『13年という歳月は子供にとって、とても大事な時なのです!コジマさんが箱庭の様なところで育てた子供が外の世界で普通に暮らせると思っているのですか!』


「そおやな。それは佐々木さんに言われて考えさせられたなぁ」


『別に私はコジマさんがどうしようと構わないのですよ。魔導師オリバーを殺そうとも、賢者ユーリウスを塔ごと爆破しようとも。例え、復讐の為にグローリア王を刺殺したとしても』


 シェリーのその言葉にナオフミの雰囲気が変貌した。ニコニコとしていた好青年が、目の前のシェリーを射殺さんばかりに、鋭い視線を差し向けた。


「それは、誰に聞いたんや?」


『その場にいた人々を皆殺しにしても、神々の目は隠し切れないですよ。それに、この事は誰にも言うつもりはありません』


「この場で言っといて、ソレはないやろ。おもしろうない冗談や、笑えへんで」


 ナオフミにはシェリーが話している言葉の違いに気がついていない。何故ならナオフミは言語翻訳スキルを持っているため、シェリーの言葉の違いがわからないのだ。


『今、私は日本語で話していますので、コジマさん以外の人は私の言っている言葉を理解できていないですよ』


「なんやて?どう言うことや!」


『勇者の転移特典の言語翻訳のスキル持っていますよね』


「佐々木さん。特典って酷い言い方やな。ほな、それはそれでええわ。んで、佐々木さんは結局何が言いたいんや?」


 シェリーの言いたいこと。シェリーは血を分けた幼い妹弟きょうだいたちを見る。3歳と4歳ぐらいであろう幼い男の子達はこの雰囲気の悪さに気づかず、『キャッキャッ』と遊んでいる。6歳ぐらいの双子の幼女は黒くなった目をシェリーに向け、ビクビクしている。9歳ぐらいの少女はシェリー事を射殺さんばかりに睨んできている。


「私、コジマさんのことは嫌いです」


 シェリーは話す言葉を元に戻してはっきり言った。


「いや、本人目の前にして、そないにはっきりわんでもええんちゃうか」


「でも、あの子供たちが不幸になるのは違うと思っています。別にあの箱庭で一生暮らしても構いません。私があの子供たちの将来に口を出すのは間違っていると思いますから。でも、コジマさんがあの子供たちの将来を潰すのも違うと思っています。わざとなのでしょう?」


 シェリーはナオフミに問う。何がとは言葉にはしない。ただナオフミに問いかける。


「なんのことや?」


 しかし、ナオフミはとぼけた。シェリーを睨みながら。

 恐らくナオフミは己の番であるビアンカにも黙っているのだろうとシェリーは思っていた。


「私、ライターさんと知り合いなのですよ」


 だから、シェリーはナオフミの討伐戦時代のお目付け役であったライターの名を出した。シェリーから出てきた名にナオフミから唸り声のような音が漏れた。


「彼の右目えぐれてないですよね。一度、お礼として治しましょうかと言ったら、これは『俺の、俺たちの罪だ』と言われたのです。だから治さなくていいと、それから、ユウマは彼の元で修行しています」


「ユウマがライターのところに?」


「まぁ、ユウマがライターのところで!彼なら安心してユウマを任せられるわね。ナオフミ」


 シェリーとナオフミの会話に一切口を挟んでこなかったビアンカが長男の所在がわかった事で嬉しそうに笑った。やはり、突然家を出たことで心配をしていたのだろう。


「そうかライターかぁ。いやいや、佐々木さんは怖いなぁ」


 ナオフミはふらりとソファから立ち上がった瞬間にシェリーの目の前に存在していた。誰もナオフミの動きに反応できなかった。


「動きなや。別にあんたらの番に何もしぃひん。ちょっと内緒話や。ビアンカ、結界を俺たちの周りにだけ張ってや」


 ナオフミはシェリーのツガイ達を視線だけで牽制し、ビアンカにシェリーとナオフミの周りにだけ結界を張るように促した。


 ナオフミの言葉にビアンカは頷いて、二人の周りに結界を張った。流石に聖女であっただけあって、強固な結界を瞬時にビアンカは施した。

 これはシェリーでも解除するのに手間取るだろう。


「佐々木さん。答え合わせや。何がわざとなんや?」


 ナオフミは己と番の容姿を持ち、知り合いの女性の記憶を持った娘を見下ろした。


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